「トイチ」という言葉をご存じでしょうか?聞いたことのない人にとっては全く馴染みがない言葉ですが、この言葉を知っている人の中には、トイチでお金を借りることを検討していたり、トイチでお金を借りて返済に困っている方も多いかもしれません。
トイチは、お金を借りると10日で1割の利息がつく、違法な超高金利です。もしトイチでお金を借りる契約をしてしまったとしても、基本的には契約自体が無効であるため、返済の必要はありません。
既にトイチでお金を借りる契約をしてしまったのであれば、弁護士や司法書士に相談するか、警察に相談するなどの対応を取りましょう。
この記事を読むと、トイチがどのようなものか、仮にトイチでお金を借りると返済額はどのような計算式で求めるのかなどがわかります。また、後半ではトイチの返済が不要な理由と、トイチから自分を守る3つの方法も解説しています。
ぜひ本記事を、トイチへの理解を深めて自分を守るためにお役立てください。
トイチとは金利が「10日で1割」であること
トイチとは、金利が「10日で1割」の割合であることを意味しています。
例えばトイチで10万円を借りると、10日後に利息が1万円も発生するということです。いわゆるヤミ金業者や、個人がトイチでお金を貸すことがあります。
冒頭で紹介したとおり、トイチは法律で定められている金利を大幅に超えており、違法です。
トイチでお金を借りたときの返済額を求める計算数式
金利が10%というと、そこまで高金利であるとは思えない人もいるかもしれません。しかし、トイチは「10日で10%」が大きなポイントです。 金利は、一般的に「年利」で表されます。例えば、とある大手消費者金融のカードローンは、年利(実質年率)18%です。 それでは、トイチの金利は1年間で何%なのでしょうか。答えは以下のとおりです。
- カードローン(例):年利18%
- トイチ:年利365%
以降では、トイチがどれほど高金利であるかを知るためにも、トイチでお金を借りたときの利息と総返済額を求める計算数式を紹介します。
単利計算の場合(複利計算でも10日以内の場合)
返済額は「元本+利息」で、発生利息は「借入残高×金利×借入期間」で計算します。
上の式における「金利」と「借入期間」は、単位を合わせなければなりません。例えば「1年間」の金利(年利)で計算するなら、借入期間が「1日」単位だと誤りです。
そして、利息は一般的に1日ごとに発生します(民法第89条第2項)。
以上より、トイチの利息と総返済額を求める計算式は以下のとおりです。トイチは10日で10%の利息ですので、1日あたり1%の利息が発生します。
- 利息=借入残高×1%×借入日数
- 総返済額=借入残高+(借入残高×1%×借入日数)
10万円を1ヶ月(30日)借りたときの利息と総返済額を比較すると以下のとおりです。いかにトイチが高金利であるかわかるでしょう。
トイチ | カードローン | |
---|---|---|
年利 | 365% | 18% |
利息 | ¥30,000 | ¥1,479 |
総返済額 | ¥130,000 | ¥101,479 |
複利計算の場合(返済日を過ぎた場合)
複利計算とは、発生した利息を、満期後に元本に組み入れながら利息を計算する方法です。
仮に10日後が返済日で、返済できずに過ぎた場合、請求されると元本と利息をあわせた額を一括して支払わなければなりません。
そのため、返済日を過ぎて一括請求されると、単利ではなく複利で計算します。
仮にトイチで10万円借りたのであれば、10日ごとに10%の利息が元本に組み入れられ、元本が1.1倍となるのが複利のイメージです。利息は1.1倍になった元本に対して10%発生します。
- 10日後:元本10万円+利息1万円=組入後元本11万円
- 20日後:元本11万円+利息1.1万円=組入後元本12.1万円
- 30日後:元本12.1万円+利息1.21万円=組入後元本13.31万円
以上の関係を計算式で表したものが以下です。
- 利息=総返済額-借入残高
- 総返済額=借入残高×1.1^(借入日数/10日)
なお、「^」はべき乗を意味しています。仮に「10^2」だと、「10の2乗」のことです。
下表を単利の表と比べると、複利のほうが利息が高くなることがわかります。
トイチ | カードローン | |
---|---|---|
10日利率 | 10.00% | 0.49% |
利息 | ¥33,100 | ¥1,487 |
総返済額 | ¥133,100 | ¥101,487 |
トイチで契約してしまったら必ず返済しないといけない?
トイチは違法ですが「一度契約してしまうと、違法であっても返済する必要があるのでは」と考える人もいるでしょう。
たしかに法律では、契約自由の原則(私的自治の原則)があり、基本的には契約が優先といえます。
ただし、個別事情にもよりますが、トイチの契約は無効となるため返済不要です。契約無効なので、これまで返済してしまったお金も取り返すことができます。最初に借り受けたお金を返す必要はありません。
なお、ここで紹介する内容は個別の事情すべてを網羅するものではありません。あくまでも参考とし、実際の問題にあたっては、司法書士や弁護士などの法律専門家へ相談してください。
以降では、トイチに関係する3つの法律を簡単に解説します。
利息制限法の制限利息を超える部分は無効
利息制限法では、利息を以下のように制限しており、超過部分は無効です。
- 元本10万円未満:年20%
- 元本10万円以上100万円未満:年18%
- 元本100万円以上:年15%
仮に10万円を借りたとして、1ヶ月後の制限利息を求めてみましょう。
制限利息は、「元本100,000円×年利18%/12月=制限利息1,500円」となり、1ヶ月におよそ1,500円を超える利息は支払不要です。
制限利息を超えて支払った部分は、法律上の原因がない利益(不当利得)であるため、請求することで返してもらえます。これがいわゆる過払い金返還請求です。
貸金業法上、年利109.5%を超える契約は無効
それでは、制限利息範囲内の利息と元本の返済はどうなるのでしょうか。つまり、トイチ契約自体の有効性が問われる問題です。
この点に関しては、貸金業法でトイチの契約が無効である旨が明文化されているので、以下見てみましょう。
貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつて金銭を交付する契約を含む。)において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。)の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は、無効とする。
引用元:e-Gov法令検索(総務省)「貸金業法第42条第1項」
トイチは1日1%であるため契約は無効となり、上限金利の範囲内にある利息を含め、今後の返済は不要と考えられます。
なおこの規定は、登録を受けた貸金業者だけではなく、個人間でも該当する可能性があります。
参考:金融庁「SNS等を利用した「個人間融資」にご注意ください!」
民法上、不法原因給付となれば元本も返済不要
契約無効となった場合、すでに返済してしまったお金や、借りたお金自体がどうなるのかを解説します。
原則、契約無効となれば「最初からなかったもの」として扱います。
つまり、返済したお金は法律上の原因がない不当利得となり返してもらえますが、最初に借りたお金も同様に返さなければなりません。
しかし、最初に借り受けたお金も返さなくて良い場合があります。民法上の不法原因給付(民法第708条)に該当する場合です。
不法原因給付とは
不法原因給付とは、悪いことのために支払ったお金を、契約が無効だからといって「お金を返せ」と請求することを認めない民法第708条の規定です。不法とは、社会の倫理や道徳に反する醜悪な行為(反倫理的行為・公序良俗違反)と解釈されています。
著しく高い金利でお金を貸して多大な利益を得るという行為は、公序良俗に反し、不法原因給付に該当するという裁判例があります。つまりこの場合、最初に借り受けた元本も返済不要です。
ただし個別の事情によっては、契約無効とならないケースや、借り受けた元本を返済するケースも考えられます。
いずれにしても、トイチで契約してしまったら早めに専門家や警察へ相談しましょう。
トイチなど高利貸しから事前に自分を守る方法3選
トイチなどの高利貸しから自分を守る方法を、3つ覚えておきましょう。
①貸金業登録業者かを確認する
お金を借りる契約をしようと思ったら、まずは貸金業の登録をしている業者かどうかを確認すべきです。
以下、金融庁のホームページから最新版が確認できるため、「契約する前にこのページで確認する」という意識を持っておきましょう。
②契約前に金利を確認する
金利(利息)の制限を定めている法律は出資法や利息制限法などがありますが、最低限、利息制限法は確認しておきましょう。
利息制限法を最低限確認しておくことをおすすめする理由は、出資法は罰則となる基準を規定していますが、利息制限法は無効になる基準を規定しているからです。利息制限法のほうが制限は厳しめであり、個人か貸金業者かを問いません。
- 元本10万円未満:年20%
- 元本10万円以上100万円未満:年18%
- 元本100万円以上:年15%
③契約書は必ずもらって保管する
貸金業の登録を確認して契約前に金利を確認して問題がなかったとしても、契約書を保管しておくことは重要です。
トラブルになったとき、その事実を主張するための証拠として自分を守るために重要です。契約書は必ずもらい、なくさないように保管しておきましょう。
ヤミ金業者は契約書を発行しないこともあり、トラブルになったときに嘘をついてくる可能性もあります。契約書が無い場合は発行を申請しましょう。発行を渋られた場合は、違法業者である可能性が非常に高いです。
まとめ:トイチの返済は原則不要!自分を守る知識をつけておきましょう
トイチは10日で10%の利息が発生する割合(金利)を示すもので、利息制限法の規定を超えるため超過部分は無効であり、貸金業者や出資法にも反する違法な高金利です。
返済日が10日ごとの複利で計算すると、トイチの総返済額は「借入残高×1.1^(借入日数/10日)」で求められます。
個別の事情にもよりますが、トイチでお金を借りたとしても、今後の返済は不要であり、これまで返済してしまったお金も取り返すことができます。また、最初に借り受けたお金を返す必要もないことがあります。
お金を借りるときは、自分を守るために貸金業者の登録有無と金利を確認し、契約書を必ず保管しておきましょう。
なお本記事の内容はあくまでも参考とし、実際の問題にあたっては、司法書士や弁護士などの法律専門家または警察などへ相談してください。