家族を養っている場合、税金や社会保険料の負担を軽減できる扶養制度について説明します。共働きの場合、どちらの扶養に子供を入れる方がお得なのか迷うこともあるかもしれません。
今回は、扶養制度に関する基本的な知識から詳しく解説します。夫婦のどちらの扶養に子供を入れるべきかを判断する基準や、制度を利用する際の注意点も紹介します。この記事を読むことで、ご家庭での最適な扶養選択が分かるようになるでしょう。
扶養控除とは?定義と条件を確認
年末調整の時期になるとよく耳にする扶養控除について、多くの方は「なんとなくは知っているけれど、詳しく説明できない」と感じることでしょう。
しかし、実際には一般的に使用されている扶養控除と、本来の扶養控除の意味が異なることをご存知でしょうか。国税庁が定義する扶養控除は以下の通りです。
扶養控除の定義
引用納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、一定の金額の所得控除が受けられます。これを扶養控除といいます。
一般的に言われる「扶養内で働く」とは、収入を所得控除である「配偶者控除」や「扶養控除」の限度額以内に抑えることを指します。そのため、「扶養控除」と「配偶者控除」をまとめて考える方が多く見受けられますが、扶養控除と配偶者控除はそれぞれ別の所得控除です。
配偶者控除と配偶者特別控除は、要件を満たす配偶者を持つ方に適用される控除です。配偶者控除と配偶者特別控除の条件の一つとして、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、利用することができません。
一方、扶養控除は配偶者控除や配偶者特別控除とは異なり、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えていても適用されます。
扶養控除に該当する人は?
扶養控除の対象となる相手を「控除対象扶養親族」といいます。控除対象扶養親族は、下記の5つの条件をすべて満たす相手です。それぞれ詳しく解説します。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)
- 納税者と生計を一にしていること。
- 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
- 控除を受ける年の12月31日時点で16歳以上である
(1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)
控除対象扶養親族は、血縁者または姻族でなければなりません。血縁者には、曾祖父母の甥や姪など、6親等以内の血縁者が含まれるため、幅広い範囲の人が対象です。
一方、姻族には、配偶者の兄弟の子供や配偶者の叔父や叔母などが該当します。また、都道府県知事から養育を委託された里子や市町村長から養護を委託された高齢者も含まれます。
(2)納税者と生計を一にしていること。
控除対象扶養親族になるためには、必ず納税者と生計を一にしている必要があります。納税者とは、申告を行う人のことです。
例えば、納税者自身に兄弟がいたとしても、その兄弟が別の世帯を持ち、独立した生活を送っている場合は、控除対象扶養親族にはなりません。一方、兄弟が納税者と同じ家に住み、生活費を支えたり、定期的に仕送りをしたりしている場合は、控除対象扶養親族になる可能性があります。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。
2020年(令和2年)以降の所得税において、扶養親族とは、本人と生計を一にする親族(配偶者を除く)のことを指します。合計所得金額が48万円以下の方が該当しますが、アルバイトやパートの給与所得者の場合は、年収103万円以下であれば該当します。
ただし、扶養親族等が給与所得の他に事業所得や副業の雑所得をもっている場合は、それらの所得の合計が48万円以下でなければなりません。
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
扶養親族が、青色申告者の事業専従者給与を受け取っていたり、白色申告者の事業専従者であったりする場合は、控除対象扶養親族にはなりません。
「扶養控除」と青色事業専従者給与、あるいは白色申告の事業専従者控除の二重適用はできない、ということになります。
(5)控除を受ける年の12月31日時点で16歳以上である。
16歳未満の扶養親族は、控除対象の扶養親族にはなりませんが、健康保険の扶養に入ることは可能です。これは、税法上の扶養と社会保険上の扶養の規定が異なるためです。
また、16歳未満の扶養親族は、住民税の非課税制度の判定にも利用されます。年末調整の用紙には、「住民税に関する事項」として16歳未満の扶養親族を記載する欄がありますので、重要な資料となります。
扶養親族が16歳未満の場合でも、年末調整の用紙や確定申告書に正確に記載しましょう。
扶養は2種類存在する
扶養控除に該当する人を確認しました。実は、扶養控除は2種類存在します。上項で説明したものは、税法上の扶養になります。もう一つは健康保険上の扶養です。
2種類の扶養:
- 税法上の扶養
- 健康保険上の扶養
健康保険上の扶養
健康保険上の扶養とは、保険料に関する扶養のことを指します。健康保険に扶養を受けている方は、保険料を納めていなくても保険証が発行され、健康保険を利用することができます。
健康保険上の扶養は、税法上の扶養と少し違う条件があります。税法上の扶養では同居が必要ではありませんが、健康保険上の扶養では続柄によって同居が必要な場合があります。
- 健康保険上の扶養の条件
- 被保険者(健康保険に加入し、病気やけがなどをしたときなどに必要な給付を受けることができる人)の収入で生計が維持されていること
- 被保険者の収入が130万円未満
親族に関する条件は税法上の扶養と変わらず、直系親族、いわゆる3親等以内が扶養の条件になります。
しかし、130万円の収入制限に加え、被保険者の収入の2分の1もしくは援助より収入が少ないことが条件に入っています。収入が低ければ扶養に入れるわけではないので注意しましょう。
「103万円の壁」と「130万円の壁」について解説
一般的に言われている「103万円の壁」「130万円の壁」とは一体何と関連しているのでしょうか。本項では2種類の壁について詳しく解説します。
103万円の壁は税法上の扶養に関するものです。年間の収入が103万円以下であれば、所得税の課税所得が0円になるため、所得税がかからないというものです。130万円の壁は、健康保険上の扶養に関するものになります。
正社員101人以上、収入月8万8,000円以上などの条件を満たす会社で働いている場合は130万円ではなく、106万円の壁になり、超えると自分の給料の中から社会保険料(厚生年金、健康保険料)を納める義務が発生します。
例えば、収入が132万円になると、社会保険料の支払いの影響で手取りが20万円近く減ることになるので注意が必要です。
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控除の金額は子どもの年齢によって異なる
子供の年齢によって受けられる控除額が違います。以下の表で確認しましょう。
子どもの年齢 | 受けられる控除額(所得税) | 受けられる控除額(住民税) |
---|---|---|
15歳以下 | 控除なし | 控除なし |
16~18歳 | 38万円 | 33万円 |
19~22歳 | 63万円 | 45万円 |
23歳以上 | 38万円 | 33万円 |
所得税も住民税も、実は15歳以下は控除を受けることができません。マイナスに聞こえてしまいがちですが、その分児童手当を受け取ることができるためです。
また、19歳から22歳までの間は、「特定扶養親族」となり、所得税は63万円、住民税は45万円の扶養控除を受けることができます。この制度は、高校生や大学生などの子どもを養育し、教育費が大変な時代の負担を軽減するために作られ、多くの控除が設定されています。
子供の扶養はどっちにつける?条件別に確認
では、実際にパターン別で確認をしてみましょう。今回は夫サラリーマン年収500万円、妻パート年収200万円、子ども2人の世帯と仮定してシュミレートします。
前提条件として、健康保険の扶養はルールが存在する
令和3年4月30日の厚生労働省の通知「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」により、夫婦が子どもを扶養する場合の健康保険上の扶養認定が明確になりました。
令和3年8月1日からは、年間収入(過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだもの)がより多い方が被扶養者とされます。このルールは健康保険上の扶養のみのため、税制上の扶養に関しては選択の余地があります。
16歳未満の子どもがいる場合
まずは16歳未満の子どもがいる場合を考えてみましょう。東京都の場合、非課税限度額が本人35万円に加え、扶養人数1人につき32万円が加算されていく、「非課税限度額制度」というものが存在します。
これは、16歳未満の子どもであっても扶養親族に含めることができるため、扶養親族としての子どもが複数人いる場合は、収入が低い方の扶養に入れることで、夫婦のどちらか一人分の住民税が節税できる場合があります。
16歳以上の子どもがいる場合
では、16歳以上の子どもがいる場合はどうでしょうか。このケースでは、所得がより多い方の扶養に入れれば、節税効果を期待することができます。
所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税制度ですので、所得が多い方の扶養に入れることで、節税額を増やすことが可能です。扶養控除の観点から考えると、16歳以上の子どもがいる場合は、所得が多い方の扶養に入れると、節税効果が期待できます。
住民税をゼロにする「非課税限度額」とは
非課税限度額制度は、所得税や住民税の申告時に、一定の所得や支出に対して課税を免除するための制度です。この制度を利用することで、個人や世帯が一定の範囲内での所得や支出には税金を支払わずに済みます。
16歳未満の子どもが複数人いる場合は、非課税限度額制度を利用することでこのような計算式がでます。
35万円×(本人+扶養親族の人数)+31万円(東京都の場合。自治体によって異なります)
もし両親のどちらかがこの金額を下回る年収だった場合、そちらの親の扶養を子どもにつけることで、住民税が非課税になります。養う人数が多ければ多いほど、住民税が非課税になりやすいです。
まとめ:条件次第では住民税がお得に。扶養をどちらにするか判断しよう
共働きの夫婦向けに扶養制度を紹介しました。 お子さんをご主人と奥様のどちらの扶養にするかによって、納める税金が大きく変わる可能性があることをご理解いただけましたでしょうか。
税制上の扶養とする場合、各自の勤務先に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出することで、給与に関する扶養控除などの各種控除を受けることができます。扶養家族としてどちらを選ぶかは、家計全体の税金や会社からの扶養手当の影響も考慮し、総合的に判断しましょう。