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保険

入った会社に社会保険がなかったらどうでしょう。「社会保険がなければ健康保険は使えないの」「社会保険がないことでどんなデメリットがあるの」 など、不安や疑問を抱く方も多いでしょう。

今回の記事では、社会保険の対象となる事業所と従業員、社会保険のない会社に入った時のデメリットなどを中心に解説します。この記事を読めば、社会保険のない理由と対処法が理解できます。

社会保険の適用事業所|会社の加入義務

社会保険や労働保険は、 労働者のために国が設けた会社の義務です。まずは、社会保険の対象となる事業所と従業員について確認していきましょう。

社会保険は健康保険と厚生年金

社会保険とは、国民の生活を保障するために設けられた公的な健康保険制度と公的年金制度です。具体的には、会社員や公務員(※)などが加入する次の2つの制度です。

  • 健康保険:病気やけがの治療などに対し給付金が支給される
  • 厚生年金:老齢や死亡、障害などに対して年金が支給される

 ※公務員の公的年金は共済から厚生年金に移行しましたが、健康保険は現在も共済が所管。

また、社会保険のほかに次の労働保険に加入することで、労働の安全と雇用の安定が守られています。

  • 労災保険:労働災害による病気やけがの治療などに対し給付金が支給される
  • 雇用保険:失業時の失業保険の支給など、再就職に向けた支援などが受けられる

社会保険のない人

会社員や公務員以外で社会保険のない人は次の通りです。

  • 自営業者など:「国民健康保険」と「国民年金」に加入して保険料を支払う
  • 社会保険加入の配偶者の被扶養者:「健康保険の被扶養者」と「第3号被保険者」

 自営業者などは保険料を自己負担する一方「社会保険加入の配偶者の被扶養者」に保険料負担はありません。

社会保険の強制適用事業所

社会保険の強制適用事業所とは、法律で社会保険の加入が義務付けられている事業所のことです。対象事業所は次の2つです。

  • 原則、すべての法人
  • 個人事業主(従業員数5名以上)

 従業員が少ない個人事業主の会社以外は、ほとんどが社会保険の強制適用事業所です。

社会保険の任意適用事業所

社会保険の任意適用事業所とは、適用事業所以外の事業所で厚生労働大臣の認可を得て社会保険の適用を受ける事業所のことです。

適用事業所になるためには、次の2つが必要です。

  • 事業所従業員の1/2以上の同意
  • 厚生労働大臣の認可

社会保険の加入対象となる従業員

強制適用事業所の全員が社会保険に加入するわけではありません。 次の加入要件を満たした従業員が社会保険に加入します。

  • 1週間の所定労働時間、1か月の所定労働日数が常時雇用者の3/4以上であること
  • 一般的には、所定労働時間が週30時間以上であること

所定労働時間とは残業時間を含まない労働時間(労働契約で定める労働時間)です。上記要件を満たした従業員は、事業者や従業員の意思に関わらず、必ず社会保険に加入しなければなりません。

ただし、加入要件を満たしていても、次のいずれか一つにでも該当する場合は社会保険は適用されません。

  • 日雇い労働者
  • 2か月以内の臨時で使用される人
  • 季節労働者
  • 臨時的事業で使用される人(雇用期間が6か月未満)など

 参考:日本年金機構「適用事業所と被保険者」

社会保険の適用範囲は拡大中

社会保険の加入対象となる従業員について解説しましたが、対象となる従業員の範囲は拡大しています。

月額賃金が8.8万円以上なら社会保険適用の可能性

平成28年10月、従業員数が一定以上の会社に勤務する従業員の加入要件が緩和されました。具体的には次の通りです。

  • 週所定労働時間が20時間以上30時間未満
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2ヶ月以上の雇用の見込みがある
  • 学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象)

フルタイムの正社員だけでなく、要件を満たせばパートやアルバイトでも社会保険に加入できるようになりました。緩和された加入要件の対象となる会社は次の2つです。 

  • 特定適用事業所:従業員数501人以上の会社
  • 任意特定適用事業所:従業員500人以下で社会保険加入の労使合意がある会社

参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」 

令和4年10月以降の社会保険の適用範囲拡大

社会保険の適用範囲は今後も拡大します。前述の加入要件は同じですが、対象となる会社の範囲が拡大します。社会保険の適用範囲拡大の推移は次の通りです。

  • 平成28年10月:従業員数501人以上の会社
  • 平成29年4月:従業員数500人以下で社会保険加入の労使合意のある会社
  • 令和4年10月:従業員数101人以上の会社
  • 令和6年10月:従業員数51人以上の会社

 参考:厚生労働省「従業員数500人以下の事業主のみなさま」

社会保険のない会社とは|正当な理由と違法な理由

会社に社会保険がない、または自分が社会保険に入れない場合、以下の理由が考えられます。

勤務先が適用事業所ではない

理由の1つめは、勤務先が強制適用事業所ではない場合です。従業員数が4名以下の個人事業主の会社、または次の業種の会社が該当します。

  • 農林業水産業等の事業
  • 理髪店等の理容・美容の事業
  • 映画の制作や演劇、その他興行の事業
  • 旅館や料理店等の接客・娯楽の事業
  • 弁護士や公認会計士等の法務の事業
  • 神社や寺院等の宗教の事業

自分が社会保険加入要件を満たしていない

理由の2つ目は、自分が社会保険加入要件を満たしていない場合です。会社に社会保険はあるけれど、自分が対象にならない場合が該当します。

  • 「1週間の所定労働時間などが常時雇用者の3/4以上」の条件を満たしていない
  • 日雇労働者や季節労働者など、適用除外の勤務形態である

会社が違法に社会保険に加入していない

理由の3つ目は、会社が違法に社会保険に加入していない場合です。社会保険の加入は、法律で定められた会社の義務です。しかし、現実には社会保険加入による会社の保険料負担を避けるために、この義務を果たしていない会社は存在します。

社会保険に加入できないことで従業員は不利益を被るために、会社の違法行為に対して対応が必要です。 詳細は後述します。

見習い期間で社会保険加入を見合わせている

理由の4つ目は、 入社直後の見習い期間で会社が社会保険の加入を見合わせている場合です。 入社後の1か月間は社会保険には加入せず、2か月目から加入するという会社もあります。

しかし「事実上の使用関係が始まった日(勤務をスタートした日)」に社会保険の被保険者資格を取得するので、法律上は見習い期間(試用期間)であっても社会保険に加入しなければなりません。

社会保険のない会社に勤めるデメリット

社会保険のない会社に勤めると、以下のデメリットが生じます。

保険料の負担が重い

デメリットの1つ目は、保険料負担が重いことです。前述の通り、社会保険の保険料は労使が折半して負担します。 会社に社会保険制度があれば、健康保険料や厚生年金保険料の従業員負担は半分で済みます。

 しかし、会社に社会保険がなく自分で国民健康保険や国民年金保険に加入すると、保険料は全額自己負担となります。 また、保険料は給与天引きされないため、自分で保険料を収める手間もかかります。

健康保険の給付が受けられない

デメリットの2つ目は、健康保険の給付が受けられないことです。自分で国民健康保険に加入した場合、健康保険にしかない次の給付は受けられません。

  • 傷病手当金:労災以外の病気・けがによる休業中に給与の2/3相当が支給
  • 出産手当金:産休中(産前42日、産後56日までの間)に給与の2/3相当が支給

 傷病手当金や出産手当金は、仕事ができずに給料がもらえない時期の貴重な収入ですが、健康保険に加入していなければ支給されません。 

厚生年金の給付が受けられない

デメリットの3つ目は、厚生年金の給付が受けられないことです。自分で国民年金保険に加入した場合にもらえるのは基礎年金(老齢・遺族・障害)だけで、厚生年金から支給される次の年金が受けられません。

  • 老齢厚生年金:老後の年金
  • 遺族厚生年金:死亡時の遺族保障
  • 障害厚生年金:所定の障害状態に該当したときの保障

 特に、老齢厚生年金が一定額ないと老後の生活は年金だけでは生活できません。令和元年度の年金受給金額は次の通りです。

  • 老齢厚生年金の受給者(※):月14万6,162円
  • 老齢基礎年金のみの受給者:月5万6,049円

 ※対象は国家・地方公務員共済や私学共済などの加入者を除く年金受給者

参考:厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

家族が社会保険の被扶養者になれない

デメリットの4つ目は、家族が社会保険の被扶養者になれないことです。社会保険に加入していれば、扶養している家族は「健康保険の被扶養者」に、扶養している配偶者は「第3号被保険者」になれるため、保険料を負担せず公的な健康保険と年金制度に加入できます。

しかし、社会保険のない会社に勤めた場合、扶養家族は国民健康保険料を、配偶者は国民年金保険料を支払って加入する必要があります。

社会保険のない会社に勤めたときの対処法

社会保険のない会社に勤めたとき、社会保険がない理由を確認した上で次の対応が必要です。

自分で国民健康保険と国民年金保険に加入

「勤務先が強制適用事業所ではない」場合や、「自分が社会保険加入要件を満たしていない」場合は、自分で国民健康保険と国民年金保険に加入しなければなりません。

自営業者などと同様に、市区町村役場(国民年金保険は年金事務所でも可)に行って加入手続をします。扶養家族がいる場合は、扶養家族の手続きが必要なケースもあります。

また、社会保険に加入した場合と異なり、病気や出産で休業したときの収入補償や老後の年金の上乗せがないため、自分で備えが必要です。

会社が違法に社会保険に加入していない場合の対処法

会社が違法に社会保険に加入していない場合、対応は難しくなります。会社と直接交渉しても、社会保険に加入してくれる可能性は高くはないでしょう。

年金事務所(日本年金機構)や弁護士・社会保険労務士などに相談するか、違法行為を行っている会社に対し早めに見切りをつけることをおすすめします。

まとめ:社会保険のない会社に勤めるデメリットを理解し自分で備えを

社会保険(健康保険・厚生年金)のない会社に勤める主なデメリットは次の通りです。

  • 健康保険や公的年金の保険料を全額自己負担しなければならない
  • 健康保険(傷病手当金や出産手当金)の給付が受けられない
  • 厚生年金(老齢厚生年金)の給付が受けられない

 会社に社会保険がない場合は「病気や出産による休業」への備えとして、貯蓄や所得補償保険の加入、老後の生活資金の準備としてiDeCo(イデコ)や個人年金保険の加入など自力で備えましょう。

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