新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、早期優遇退職制度を実施する企業が増えています。
40代以上の会社員の中には「早期優遇退職制度の具体的内容は?」「退職金はどうなるの?」「どんなメリットやデメリットがあるの?」などの疑問を抱く人もいるでしょう。
今回の記事では、早期優遇退職制度の内容とメリット・デメリットについて解説します。退職金の相場についても紹介しますので、制度利用後の生活設計を検討する上で参考にしてください。
早期優遇退職制度の現状
早期優遇退職制度とは、従業員が定年前に退職するのを促す目的で、会社が早期退職する従業員の退職金を上乗せするなど、優遇策を設けるものです。最初に、早期優遇退職制度の実施状況と制度利用時の退職金の相場について見ていきましょう。
早期優遇退職制度の実施状況
東京商工リサーチの調査によると、2021年6月3日に上場企業の早期優遇退職制度の募集人数が1万人を超えました。原因は新型コロナウイルス感染症の影響と考えられます。
1万人を超えたのは2020年より3か月も早く、リーマン・ショック直後の2009年に次ぐペースです。早期優遇退職の募集状況は次の通りです。
参考:東京商工リサーチ「「早期・希望退職」募集、業種が二極化」
早期優遇退職制度の退職金
早期優遇退職制度を利用した場合の退職金には割り増し金が加算されるケースも多く、退職金の平均額は高めです。
従業員数30人以上の退職理由別の退職金の平均額:
勤続年数 | 早期優遇 退職 |
定年退職 | 会社都合 退職 |
自己都合 退職 |
---|---|---|---|---|
20~24年 | 1,402万円 | 1,267万円 | 634万円 | 780万円 |
25~29年 | 1,995万円 | 1,395万円 | 1,786万円 | 1,399万円 |
30~34年 | 2,522万円 | 1,794万円 | 2,572万円 | 2,110万円 |
35年 以上 |
2,530万円 | 2,173万円 | 2,403万円 | 2,116万円 |
平均 | 2,326万円 | 1,983万円 | 2,156万円 | 1,519万円 |
※対象者は2017年度の勤続20年以上かつ年齢45歳以上、大学卒(管理・事務・技術職)の退職者です。
ただし、早期退職の勧奨はしても退職金の優遇制度のない会社や、そもそも退職金自体がない会社もあるため、勤務先の就業規則などで事前に確認しておきましょう。
また、60歳で定年退職する場合も、雇用保険の失業給付と老齢年金の両方を受け取れる権利を持つことがあります。本内容については、下記記事をご参考ください。
早期優遇退職制度は2種類
早期優遇退職制度は、その目的などによって「選択定年制度」と「希望退職制度」の2種類に分けられます。それぞれについて見ていきましょう。
従業員の主体的なキャリア選択を後押しする「選択定年制度」
「選択定年制度」は、従業員の新たなキャリア形成を支援したり、会社組織の新陳代謝を促すことを目的とした制度です。50歳や55歳など所定の年齢に達した時点で、定年退職するか継続勤務するかを、従業員自身が選択できる仕組みです。
選択定年制度の対象は、年齢や勤続年数によって会社が決定します。対象者や利用者に対する優遇措置は就業規則などに記載することが義務付けられ、従業員は所定の年齢に達すれば制度を利用するかどうか選択できます。つまり、恒常的な人事制度と言えます。
会社業績の悪化によるリストラの一環である「希望退職制度」
「希望退職制度」は、会社業績の悪化を防いだり経営の安定を図るために従業員をリストラすることを目的とした制度です。対象者や募集期間、募集人数、退職金の優遇措置などを社内に公表し、退職者を募ります。
選択定年制度と異なり、経営危機などを回避するための一時的な制度です。また、会社が半強制的に行う整理解雇と異なり、優遇措置を設けることで従業員の自主的な退職を促す制度であるため、従業員の意思は尊重されます。
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早期優遇退職制度を利用したときの失業保険
早期優遇退職制度を利用したとき、失業保険の取り扱いは選択定年制度と希望退職制度では異なります。
選択定年制度は自己都合退職
選択定年制度を利用して早期退職した場合、失業保険上の退職事由は自己都合です。継続勤務できるにもかかわらず、自分で自主的に定年を選択したと判断されるからです。
自己都合の場合、会社都合と比較して失業保険(正式には「雇用保険の基本手当」)の所定給付日数(※1)は少なくなります。また、給付制限期間(※2)があるため、すぐに失業保険がもらえません。
※1:失業保険の最大給付日数。
※2:自己都合退職の場合、失業保険が給付されない期間(2か月または3か月)。
自己都合の所定給付日数:
被保険者期間 | 1年未満 | 1年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 |
---|---|---|---|---|
全年齢 | - | 90日 | 120日 | 150日 |
参考:ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」
希望退職制度は会社都合退職
希望退職制度を利用して早期退職した場合、失業保険上の退職事由は会社都合です。会社の業績悪化など、会社に原因があっての退職と判断されるからです。
会社都合の失業保険は、給付制限期間がなく所定給付日数も次の通り多くなります。例えば、50歳代で20年以上勤続した人の所定給付日数は、自己都合の場合の2倍以上です。
会社都合の所定給付日数:
被保険者期間 | 1年未満 | 1年 以上 5年 未満 |
5年 以上 10年 未満 |
10年 以上 20年 未満 |
20年以上 |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上 35歳未満 |
120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上 45歳未満 |
150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上 60歳未満 |
180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上 65歳未満 |
150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
参考:ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」
早期優遇退職制度のメリットとデメリット
最後に、早期優遇退職制度を利用した時のメリットとデメリットについて説明します。
早期優遇退職制度のメリット
早期優遇退職制度を利用する最大のメリットは、退職金の割り増しです。割り増し額は会社によって異なりますが、大企業の希望退職制度では数千万円の割り増し退職金が支給されるケースもあります。
また、転職や起業などセカンドキャリアを築く良いきっかけにもなります。定年後に新しい仕事を始めることも可能ですが、早めにスタートすることで可能性も広がります。経済的に余裕があれば、割り増し退職金を受け取って早期リタイアという選択肢もあります。
早期優遇退職制度のデメリット
早期優遇退職制度を利用するデメリットは、経済的な困窮などのリスクです。再就職先が見つからない、転職したら給料が下がった、など退職前と同じように安定した収入が得られない可能性があるからです。
また、割り増し退職金を受け取っても、早期リタイアできるほどの資産がある人は限られます。再就職して厚生年金に加入しない限り、早期退職によって老齢厚生年金の支給額が減額されてしまうことも考慮しなければなりません。
まとめ:早期優遇退職制度の利用は、今後の人生設計を考えた上で検討しよう
早期優遇退職制度とは、従業員が定年前に退職することを促す目的で会社が退職金上乗せなどの優遇策を設けるものです。従業員の新たなキャリア形成支援を目的とした「選択定年制度」と、業績悪化による従業員のリストラを目的とした「希望退職制度」の2種類があります。
早期優遇退職制度の利用には、割り増しされた退職金がもらえるなどのメリットがある一方、退職後の収入が不十分で経済的に困窮するなどのリスクもあります。
早期優遇退職制度を利用するかどうかは、退職金を含む資産や住宅ローンなどの負債、退職後の収支、再就職の見込みなどを十分に検討した上で、判断しましょう。