共働き夫婦の年金はどうなる?将来の受給額を働き方別にシミュレーション

毛利 由佳

監修者:毛利 由佳

41年間の金融機関経験を経て、行政書士業務を本業としながら、ファイナンシャルプランナーとして活躍中。みなさまの「夢を実現させたい」、「将来の不安をとりのぞいておきたい」など暮らしの中のご希望やご要望を解決。

行政書士毛利事務所 代表
1級ファイナンシャルプランニング技能士/ 行政書士/ メンタル心理カウンセラー
HP:https://gyouseisyoshimori.com/

共働き世帯は、1人が専業主婦の世帯よりも多くの年金を受け取ることができます。ただし、受け取れる年金の額は「夫婦の働き方」「夫婦それぞれの年収」などによって異なります。

老後の人生設計をするためにも、自分たちがいくらの年金を受け取れるのか把握しておくことが重要です。

本記事では共働き夫婦の老後にかかる生活費と受け取れる年金の概算や、老後資金を貯めるための対策について解説します。

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目次

夫婦の老後にかかる生活費の平均はいくら?

共働き世帯の老後生活を年金で賄えるかを知るには、どれくらいの支出が発生するかを把握することが重要です。

総務省の「家計調査報告(家計収支編)2021年」によれば、65歳以上の夫婦のみで暮らす無職世帯の収入と消費支出の内訳は以下のとおりです。

実収入 23万6,676円
消費支出+非消費支出 25万5,100円
不足額 1万8,525円

夫婦2人の無職世帯では、平均で「毎月1万8,500円の赤字」という結果になりました。

年間では22万2,300円の赤字であり、老後生活が30年続くと仮定すると666万9,000円が不足する計算です。生活の仕方によっては更に赤字額が増加することもあります。

本調査の消費支出・非消費支出の合計はひと月あたり25万5,100円ですが、別の調査では「ゆとりある生活」を送るにはさらにお金がかかるとされています。

生命保険文化センター「2022(令和4)年度「生活保障に関する調査」によれば、最低限の生活・ゆとりある生活に必要な生活費はそれぞれ以下のとおりです。

  必要な月間生活費
最低日常生活費 23万2,000円
ゆとりある老後生活費 37万9,000円

ゆとりある生活に必要な金額37万9,000円を実収入の平均である23万6,000円と比較すると、ひと月あたり14万3,000円も不足してしまいます。30年間では5,000万円以上の不足が生じることになってしまう計算です。

ただし、これはあくまで平均の試算であり、実際に必要な老後資金は「生活の仕方」「ライフプラン」によって異なります。年金等の収入や必要な生活費を把握し、不足しそうな分は早くから夫婦で貯めておく必要があります。

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【働き方別】共働き世帯の公的年金受給額シミュレーション

夫婦で共働きしている世帯の場合、それぞれの加入期間・働き方によって老後に受給できる年金額が変わります

老齢基礎年金 国民年金の加入期間で受給額が変わる
老齢厚生年金 厚生年金の加入期間や収入によって変わる

夫婦の働き方に応じて受け取れる年金額をおおまかにシミュレーションしてみましょう。

夫婦が共に自営業のケース

夫婦ともに自営業の場合、受け取れる年金は「老齢基礎年金」のみです。

令和4年4月分からの老齢基礎年金の満額は「77万7,800円」です。

夫が最長の40年、妻が35年にわたって国民年金に加入した場合に受け取れる年金額は以下の通りです。

【夫が受け取れる年金額】
77万7,800円 × ( 480月 / 480月 )= 77万7,800円
【妻が受け取れる年金額】
77万7,800円 × ( 420月 / 480月 )= 68万575円

夫婦で受給できる年金額は「145万8,375円」です。

毎月に直すと12万1,531円であり、老後の最低日常生活費が23万2,000円と言われていることを考えると、年金だけでの生活は厳しいでしょう。

夫婦が共に会社員のケース

夫婦ともに会社員だった場合、厚生年金に加入していた時の報酬額や加入期間等に応じて年金額が変わります

昭和21年4月2日以降に生まれた夫婦と仮定すると、計算式は以下のとおりです。

【老齢厚生年金の計算式(平成15年3月以前の加入期間)】
平均標準報酬月額×7.125÷1000×平成15年3月以前の加入月数

【老齢厚生年金の計算式(平成15年4月以降の加入期間)】
平均標準報酬額×5.481÷1000×平成15年4初以降の加入月数
※夫婦ともに、昭和21年4月2日以降に生まれたものとする

出典:日本年金機構|老齢年金ガイド

夫と妻の条件を以下のように仮定し、受給できる年金額を試算してみました。


 
国民年金の加入期間 40年 40年
厚生年金の加入期間 40年 35年
※子育て目的で5年間は就労せず、未加入の時期があると仮定
平均標準報酬月額 40万円
(加入月数300か月)
25万円
(加入月数240か月)
平均標準報酬額 50万円
(加入月数180か月)
30万円
(加入月数180か月)
【夫が受け取れる年金額】
・老齢基礎年金
77万7,800円 × ( 480月 / 480月 )= 77万7,800円

・老齢厚生年金
40万円×(7.125÷1000)×300月=85万5,000円
50万円×(5.481÷1000)×180月=49万3,290円
合計134万8,290円

・合計
77万7,800円+134万8,290円=212万6,090円
【妻が受け取れる年金額】
・老齢基礎年金
77万7,800円 × ( 480月 / 480月 )= 77万7,800円

・老齢厚生年金
25万円×(7.125÷1000)×240月=42万7,500円
30万円×(5.481÷1000)×180月=29万5,974円
合計72万3,474円

・合計
77万7,800円+72万3,474円=150万1,274円

夫婦で受給できる年金額の合計は、「362万7,364円」です。

1ヶ月あたり30万2,280円になり、数字の上では年金だけで生活費をカバーすることが可能です。

夫が会社員・妻が契約社員のケース

夫が会社員で妻が契約社員の場合、年金を試算した結果は以下のようになりました。


 
国民年金の加入期間 40年 40年
厚生年金の加入期間 40年 30年
※子育て目的で10年間は就労せず、未加入の時期があると仮定
平均標準報酬月額 40万円
(加入月数300か月)
15万円
(加入月数180か月)
平均標準報酬額 50万円
(加入月数180か月)
30万円
(加入月数180か月)
【夫が受け取れる年金額】
・老齢基礎年金
77万7,800円 × ( 480月 / 480月 )= 77万7,800円

・老齢厚生年金
40万円×(7.125÷1000)×300月=85万5,000円
50万円×(5.481÷1000)×180月=49万3,290円
合計134万8,290円

・合計
77万7,800円+134万8,290円=212万6,090円
【妻が受け取れる年金額】
・老齢基礎年金
77万7,800円 × ( 480月 / 480月 )=77万7,800円

・老齢厚生年金
15万円×(7.125÷1000)×180月=19万2,375円
20万円×(5.481÷1000)×180月=19万7,316円
合計38万9,691円

・合計
77万7,800円+38万9,691円=116万7,491円

夫婦で受給できる年金額は「329万3,581円」で、1ヶ月あたり27万4,465円です。

夫が会社員・妻がパートのケース

妻が会社員として10年間働いた後、退職してパート社員として夫の扶養内で働いた場合を想定しました。

試算した結果は以下の通りです。


 
国民年金の加入期間 40年 40年
厚生年金の加入期間 40年 10年
※10年の正社員勤務後は扶養の範囲のみ就労
平均標準報酬月額 40万円
(加入月数300か月)
20万円
(加入月数120か月)
平均標準報酬額 50万円
(加入月数180か月)

※妻の「平均標準報酬額」は、会社員として働いていたときの収入

【夫が受け取れる年金額】
・老齢基礎年金
77万7,800円 × ( 480月 / 480月 )= 77万7,800円

・老齢厚生年金
40万円×(7.125÷1000)×300月=85万5,000円
50万円×(5.481÷1000)×180月=49万3,290円
合計134万8,290円

・合計
77万7,800円+134万8,290円=212万6,090円
【妻が受け取れる年金額】
・老齢基礎年金
77万7,800円 × ( 480月 / 480月 )= 77万7,800円

・老齢厚生年金
20万円×(7.125÷1000)×120月=17万1,000円

・合計
77万7,800円+17万1,000円=94万8,800円

夫婦で受給できる年金額は「307万4,890円」で、1ヶ月あたり25万6,240円です。

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共働き夫婦が知っておくべき年金制度の注意点

共働き夫婦の年金受給額に関係しそうな年金制度の注意点について紹介します。

注意点1.老齢年金の支給額は減額の傾向が続いている

老齢年金は毎年見直しが行われるものであり、今の時点で将来の年金額が増えるか・減るかは断言できません。ただし、現状だけを見ると毎年減額傾向が続いています。

日本年金機構によれば、国民年金の受給額は毎年減額傾向にあります。

  老齢基礎年金(国民年金)の支給額(満額)
令和2年度 78万1,700円
令和3年度 78万900円
令和4年度 77万7,800円

直近の老齢厚生年金の支給額を見ても平成28年と令和4年で1%近く減少しています。

  老齢基礎年金の平均的な支給額
※夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額
平成28年 22万1,504 円
平成29年 22万1,277 円
平成30年 22万1,277円
令和元年 22万1,504円
令和2年 22万724円
令和3年 22万496円
令和4年 21万9,593円

少子化で年金保険料を納める現役世代が減る一方、年金受給者である高齢者は増加する傾向にあることから、今後も年金受給額は少しずつ目減りすることが考えられます。

注意点2.加給年金は受給できない可能性がある

加給年金は、老齢厚生年金を受給している人に生計を維持されている「配偶者」や「子ども」がいる場合に上乗せ支給される年金です。

対象者 加給年金額 年齢制限
配偶者 22万3,800円(特別加算有) 65歳未満であること
1人目・2人目の子 各22万3,800円 18歳到達年度の末日までの間の子または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子
3人目以降の子 各7万4,600円 18歳到達年度の末日までの間の子または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子

この加給年金も含めた年金制度の改正が実施されました。

令和4年4月以降は、配偶者の老齢厚生年金を実際に受け取っていなくても、受け取る権利がある場合(支給停止となっている場合等)は支給停止されます。別途、経過措置があります。

また、配偶者が65歳になると加給年金は打ち切られるため、同年齢の夫婦等は恩恵を受けられないことに注意が必要です。

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共働き夫婦が今からできる老後の年金・老後資金対策

ここからは、預貯金だけでは不足しそうな老後資金を準備するための対策を紹介します。

対策1.任意加入で国民年金の加入期間を増やす

国民年金を満額で受け取るには40年の加入期間が必要です。

20~60歳までの加入期間で40年に満たない場合、60~65歳まで任意加入することを検討しましょう。任意加入の期間も含めて加入期間40年なら、満額を受け取ることができます。

国民年金は加入期間(最長40年)で受給額が変わるため、満額に届かない場合でも任意加入期間に応じて基礎年金を増やすことができます。

対策2.国民年金に加入している方は付加年金を利用する

付加年金は、国民年金保険料に月400円を上乗せで納付することで将来の年金額に一定額が加算される制度です。

1年で受け取れる付加年金の金額は以下の式で計算できます。

200円×付加年金保険料の納付月数

たとえば40歳から60歳までの20年間納付すると、納めた付加年金保険料は「400円×240ヶ月=9万6,000円」です。一方、1年で受け取れる金額は「200円×240ヶ月=4万8,000円」となります。

付加年金は、2年で元が取れ、3年目からは受け取る金額が丸ごとお得になる制度です。

対策3.年金繰り下げを活用する

原則として年金を受け取り始めるのは65歳からですが、66歳から75歳までのあいだで繰り下げて増額した年金を生涯受け取ることが可能です。

1ヶ月繰り下げるごとに0.7%、最長の75歳まで繰り下げることで最大84.0%の増額になります。

65歳以降もしばらく働き続ける場合、年金の受給開始年齢を繰り下げることを検討しても良いでしょう。

対策4.長期の資産運用で老後資金を作り出す

超低金利の現在は、預貯金だけでは老後資金を補えない可能性があります。老後資金を効率的に増やしたい場合は、資産の一部を資産運用に振り分けることも検討しましょう

おすすめの制度として「iDeCo」「つみたてNISA」「個人年金保険」を紹介します。

資産運用1.iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCo(確定拠出年金)は、自身で掛金を拠出して運用する商品を選び、自分で運用する私的年金制度です。

拠出した掛金と運用で得た利益を将来、年金または一括受け取りで受け取ることができます。

iDeCoには大きく分けて3つのメリットがあり、効率的な資産運用を後押ししてくれるでしょう。

  1. 拠出した掛金が全額「所得控除」になり、所得税と住民税が安くなる
  2. 運用期間の運用益が非課税になる
  3. 受け取る際、一括受け取りでも年金受け取りでも一定の控除がある

ただし、原則60歳になるまでは受け取ることができないデメリットもあります。

資産運用2.つみたてNISA

つみたてNISAは、長期・積立・分散投資を支援する非課税制度です。

毎年40万円まで投資でき、その投資で得られた利益が最長20年も非課税になります(2023年1月現在)。

iDeCoのように掛金が所得控除になるメリットはありませんが、証券会社によっては100円から投資でき、いつでも投資信託を売却して現金化できます。投資商品も金融庁の条件をクリアした投資信託・ETFに限定されており、初心者でも始めやすいでしょう。

資産運用3.個人年金保険

個人年金保険は、自分で保険料を積み立てることで老後の年金を準備する制度です。

保険料の一部が「個人年金保険料控除」の対象になることで、所得税や住民税の負担を軽減させることができます。

年金の受け取り方には以下の3つのタイプがあり、商品によってどのタイプかが異なります。

【個人年金保険の受け取り方】
・確定年金:年金受取人の生死に関係なく、一定期間は年金を受け取れる
・終身年金:年金受取人が生存中に限り、年金を受け取れる
・有期年金:年金受取人が生存中に限り、一定期間だけ年金を受け取れる
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まとめ:共働きでも働き方次第で受け取れる年金は異なる

共働きで得られる年金だけで生活できるかどうかは、夫婦の働き方や各自の年収によっても異なります。

総務省「家計調査」によると、高齢夫婦の無職世帯の生活費は毎月約255,000円でした。

夫婦ともに老齢厚生年金と老齢基礎年金を受け取れるケースでは年金だけで生活費をカバーできるという試算でしたが、年収によっても厚生年金額は異なります

夫婦が受け取る年金額を試算し、老後資金が不足しそうであれば早くから資産運用等の対策を検討しましょう。

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