老齢基礎年金だけだと老後の生活が不安で、厚生年金を受け取れるかどうか不安に思う人も多いことでしょう。本記事では、厚生年金の仕組みと、厚生年金を受給するための要件である加入期間の考え方について解説します。
結論、厚生年金を受け取るための加入期間は1か月以上あれば条件を満たしますが、老齢基礎年金(国民年金)の受給資格期間が10年に満たなければ基礎年金も厚生年金ももらえません。
「自分は厚生年金を受け取れるのだろうか?」2階建ての公的年金制度において、1階部分「国民年金」で受け取れるのは老齢基礎年金で満額で約78万円(年額)。それにくわえて、2階部分「厚生年金」で受け取れるのが老齢厚生年金で、平均標準報酬月額と被保険者期間の月数に応じて受け取ることができます。
厚生年金とは
まず、厚生年金の概要について説明します。
厚生年金の概要
公的年金制度は国民年金と厚生年金の2階建てです。国民年金保険料として納めたものが、原則65歳から老齢基礎年金として受け取れ、厚生年金保険料として納めたものが原則65歳から老齢厚生年金として受け取れます。
しかし、老齢基礎年金と老齢厚生年金では年金を受け取るための条件(受給資格)が異なります。具体的には下記の表の通りです。
国民年金と厚生年金の概要
国民年金 | 厚生年金 | |
---|---|---|
年金 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 |
受給要件 | 受給資格期間が10年以上 | ・老齢基礎年金の受給要件を満たすこと ・厚生年金保険の被保険者期間が1か月以上あること |
つまり、老齢基礎年金の受給資格期間が10年に満たないと老齢厚生年金も受け取れません。公的年金制度は2階建てと紹介しましたが、1階部分が受け取れないなら2階部分も受け取れません。
なお2017年8月1日から、年金を受け取るために必要な受給資格期間が25年から10年に変更されています。つまり、年金を受け取れやすくなりました。
厚生年金の加入期間はどのように計算されるか
先述のとおり、年金を受け取れるかどうかの大きな問題は「国民年金の受給資格期間」が10年以上あるかどうかでした。それでは「受給資格期間」はどのように計算されるのでしょうか。
受給資格期間については下記の記事もご確認ください。
日本年金機構によると、
年金を受ける場合は、保険料を納めた期間や加入者であった期間等の合計が一定年数以上必要です。この年金を受けるために必要な加入期間を受給資格期間といいます。
日本の公的年金では、すべての人に支給される老齢基礎年金の受給資格期間である10年間が基本です。国民年金だけでなく、厚生年金、共済組合の加入期間もすべて含まれます。また、年金額には反映されない合算対象期間や保険料が免除された期間も、受給資格期間になります。
※引用:日本年金機構「受給資格期間」
ポイントは次の2点です。
- 国民年金だけでなく厚生年金や共済組合の加入期間も含まれる
- 年金額には反映されない合算対象期間や保険料の免除期間も含まれる
式にまとめると以下の通りです。
受給資格期間=保険料を納めた期間+免除された期間+合算対象期間(カラ期間)
基本的には国民年金でも厚生年金でもどちらでも、保険料を納めた期間と免除された期間の合計が受給資格期間にカウントされると押さえておきましょう。
合算対象期間(カラ期間)については後で解説します。
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厚生年金はどのくらいもらえる?
この章では、受取ることのできる厚生年金の金額について説明します。下記の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
老齢厚生年金は、次の式で計算されます。
- 65歳未満:定額部分 + 報酬比例部分 + 加給年金額
- 65歳以上:報酬比例年金額 + 経過的加算 + 加給年金額
①定額部分
定額部分は、被保険者の加入期間に応じてもらえる年金額が増えます。具体的には、下記の式で計算されます。
定額部分:1,657円(令和5年度4月分67歳以下の場合) × 生年月日に応じた率 × 被保険者期間の月数
※令和5年度68歳以上の場合、1,652円
②報酬比例部分
報酬比例部分は、勤務先の平均標準報酬と加入期間に応じて、受取れる年金額が増加します。
具体的には、以下の①➁の計算式について、①の計算式の結果が②の計算式の額を下回る場合は、②の計算式で算出した金額になります。
①:平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 平成15年3月までの被保険者期間の月数 + 平均標準報酬額 ×5.481/1000 × 平成15年4月以降の被保険者期間の月数
②:(平均標準報酬額 × 7.5/1000 × 平成15年3月までの被保険者期間の月数 + 平均標準報酬額 ×5.769/1000 × 平成15年4月以降の被保険者期間の月数) × 1.016(昭和13年4月2日以降に生まれた場合は1.014)
③加給年金額
加給年金額は、受給時に生計を維持されている配偶者や子がいる場合の加算分です。厚生年金の被保険者期間が20年以上あり、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、生計を維持する配偶者または子がいるときに加算されます。
加給年金額
対象者 | 加給年金額 | 年齢制限 |
---|---|---|
配偶者 | 228,700円(※2) | 65歳未満であること(大正15年4月1日以前に生まれた配偶者には年齢制限はありません) |
1人目・2人目の子 | 各228,700円 | 18歳到達年度の末日までの間の子または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子 |
3人目以降の子 | 各76,200円 | 18歳到達年度の末日までの間の子または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子 |
④経過的加算
経過的加算は、20歳未満や60歳以降に厚生年金保険に加入していた場合、老齢厚生年金に上乗せして支払われる年金です。老齢厚生年金の加入期間や加入時期によっては、65歳以降の年金額が下がってしまう場合があるため、年金額が65歳以降もそれ以前と同額となる様に上乗せして支給されるものです。
具体的には下記の式で計算されます。
経過的加算:1,657円(令和5年度4月分67歳以下の場合) × 生年月日に応じた率 × 厚生年金保険の被保険者月数 - 795,000円(令和5年度4月分67歳以下の場合) × 昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満の厚生年金保険の被保険者月数/加入可能年数 × 12
参考:経過的加算|日本年金機構
こんなとき加入期間はどうなる?4つのパターン別に解説
年金保険料を納付する期間は、20歳から60歳まで保険料を納めると仮定しておよそ40年間あります。たとえば20歳から年金を納め、29歳で退職してしまったら、受給資格期間が9年間となり年金はもらえなくなるのでしょうか。
この章では、様々なライフイベントについて、年金の受給要件を満たすかを解説します。
- 転職する場合も厚生年金の加入期間は継続する
- 個人事業主として独立する場合は国民年金に切り替えて継続する
- 家族の扶養に入る場合は国民年金に切り替えて継続する
- 転職先が見つからず無職の場合も国民年金に切り替わる
①転職する場合も厚生年金の加入期間は継続する
転職すると、「今まで厚生年金保険料を給与から天引きされていたのにされなくなる」と考え、厚生年金が継続されないのではと不安になる人もいます。しかし転職する場合も厚生年金の加入期間は継続します。
正しくは厚生年金保険の適用事業所に常時使用される場合で、基本的には法人と常時5人以上の個人の事業所が対象です。
厚生年金の加入者(被保険者)にとっては、転職先に年金手帳またはマイナンバーカードを提出・提示するだけの手続きです。事業主はそれを受けて、「被保険者資格取得届」を管轄の年金事務所などに提出しなければなりません。
②個人事業主として独立する場合は国民年金に切り替えて継続する
独立する場合は厚生年金保険に加入できないため、国民年金の第1号被保険者(自営業者など)または第3号被保険者(第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者)となります。
個人事業主として独立する場合、実際には次の選択肢が考えられます。
- 第1号被保険者に切り替えて国民年金保険料を納付する
- 第3号被保険者に切り替える(扶養される)
- 年金保険料の免除・納付猶予を申請して免除・納付猶予を受ける
第1号被保険者となる場合には、市役所などに年金手帳やマイナンバーカードを持参して手続が必要です。第3号被保険者の場合も会社を通じて年金事務所などに届出を行います。
また、どの選択肢を取るかの分かれ目は「収入」です。一般的に年収130万円(社会保険の壁)以上では家族の扶養に入れないため、第1号被保険者となり国民年金保険料を納付します。
なお、社会保険には130万円ではなく106万円の壁もあります。これは一定規模以上の会社では、年収106万円以上(賃金月額8.8万円以上)だと社会保険の加入要件となり得るからです。
年収130万円(または年収106万円)以下であれば家族の扶養に入れますが、家族の扶養に入れない場合には、第1号被保険者となって国民年金保険料を支払わなければなりません。
国民年金保険料の支払いが経済的に困難な場合、年金保険料の免除・納付猶予の申請も検討しましょう。
③家族の扶養に入る場合は国民年金に切り替えて継続する
退職した場合など年収が130万円(または106万円)未満であれば第2号被保険者(会社員や公務員)の親族の扶養に入れます。つまり、第3号被保険者となります。
具体的には事業主(会社)を経由して「被扶養者(異動)届」を日本年金機構に提出します。転職の場合と異なり、次のような書類が必要になるため準備しておきましょう。
・戸籍謄本や住民票など被保険者との続柄がわかるもの
・所得税の控除対象配偶者(または扶養親族)になっていなければ退職証明書や非課税証明書など収入が確認できる書類
参考:日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
④転職先が見つからず無職の場合も国民年金に切り替わる
転職先が見つからず無職でいる(離職期間がある)場合も、第2号被保険者から第1号あるいは第3号被保険者に切り替わります。
前述のとおり、無職でも家族の扶養に入れない場合は、第1号被保険者として国民年金保険料を納める義務があります。
この場合は国民年金保険料の納付が困難であることが考えられるため、国民年金保険料の免除・納付猶予を受けられる可能性があります。忘れずに申請しましょう。
厚生年金の加入期間と受け取れる年金額の関係性をシミュレーション
厚生年金保険料を1か月でも納付し、受給資格期間が10年以上であれば老齢厚生年金を受け取ることができます。しかし、会社員として厚生年金保険料を納めた期間が1年間の人と40年間の人とでは受け取れる年金額は異なります。
厚生年金の加入期間と受け取れる年金額の関係性を概算しました。ここでは簡略化のために、年収を一定として計算しています。
厚生年金加入期間別の老齢基礎年金と老齢基礎年金の年額
厚生年金の加入期間 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 | 合計年金額 |
---|---|---|---|
1年 | 約78万円 | 約2/4万円 | 約80.4万円 |
10年 | 約78万円 | 約24万円 | 約102万円 |
20年 | 約78万円 | 約47万円 | 約128万円 |
40年 | 約78万円 | 約95万円 | 約173万円 |
※国民年金保険料(厚生年金の加入期間を含む)は40年間納めたものとし、年収は2019年度の「民間給与実態統計調査」をもとに436万円(平均標準報酬月額36万円)、65歳から年金を受け取る場合を仮定してます。
厚生年金の加入期間に応じて、どの程度受給額が変動するかの目安として参考にしてください。
厚生年金の加入期間が10年に満たなくても年金を受け取る方法とは?
年金の受給資格期間が10年に満たないなどの状況でも、年金を受け取る方法はあります。
60歳以上も働き続けて加入期間を延ばす
60歳以上でも、厚生年金の適用事業所で働き続ける場合、当然被保険者として厚生年金保険に加入することができます。ただし、在職中に年金をもらう場合は、給料と年金の合計額によっては減額される場合があります。具体的には下記の記事の「在職老齢年金」をご確認ください。
国民年金の任意加入制度を利用する
一定の条件を満たす場合、60歳以降からでも年金保険料を納めることで国民年金に加入し、その期間を受給資格期間にカウントできます。この被保険者は任意加入被保険者と呼ばれています。具体的には、下記の4つの条件を全て満たす場合国民年金に任意加入できます。
- 日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満である
- 老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない
- 20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満である
- 厚生年金保険、共済組合等に加入していない
引用元:任意加入制度|日本年金機構
厚生年金保険の高齢任意加入制度を利用する
70歳以上で老齢年金受給のための加入期間を満たしていない人は、勤務先が厚生年金の適用事業所である場合は、老齢年金の加入期間を満たすまで任意に厚生年金保険に加入することができます。このような被保険者は、高齢任意加入被保険者と言います。
特定期間該当届|専業主婦(主夫)からの切り替え忘れはすぐに届出を
第3号被保険者から第1号被保険者になる場合、届出が必要です。これは配偶者が会社員や公務員ではなくなった場合などにあてはまります。
2年以上届出を怠ると「未納期間」として扱われるため、年金を受け取れない場合があるので注意が必要です。
その場合、「特定期間該当届」を提出すれば未納期間を受給資格期間に算入でき、年金の受給資格期間を満たせる場合があります。もし該当しそうであればすぐに届出を行いましょう。
合算対象期間(カラ期間)があると受給資格を満たす可能性がある
合算対象期間は受給資格期間に算入される期間です。ただし、年金受給額には反映されないため注意が必要です。
- 日本人であって海外に居住していた期間のうち国民年金に任意加入しなかった期間※
- 平成 3 年 3 月までの学生(夜間制、通信制を除き、年金法上に規定された各種学校を 含む)であって国民年金に任意加入しなかった期間※
- 第 2 号被保険者としての被保険者期間のうち 20 歳未満の期間又は 60 歳以上の期間
- 任意加入したが保険料が未納となっている期間(全て 20 歳以上 60 歳未満の期間が対象) (※は 20 歳以上 60 歳未満の期間に限る)
引用元:厚生労働省(PDF)
厚生年金の加入期間をねんきんネットで確認しよう
「ねんきんネット」では、将来の年金見込額やねんきん定期便の閲覧が可能です。パソコンやスマートフォンからでも確認できるため、転職や結婚などのライフステージの変化があった時は、確認する習慣をつけるようにしましょう。
参考:「ねんきんネット」とは?|ねんきんネット(日本年金機構)
まとめ:厚生年金の加入期間は1か月だけで良いが基礎年金の受給資格を押さえること
将来もらえる年金に大きく影響する厚生年金の加入期間について解説してきました。
厚生年金の加入期間は1か月だけで良いのですが、国民年金の受給資格期間が10年に満たないと、老齢基礎年金も老齢厚生年金もどちらとも受給できません。
また、老齢厚生年金は平均標準報酬月額と加入月数に比例するため、加入期間が短いともらえる額も少なくなってしまいます。
転職する場合は、被保険者側としては特に手続き不要で厚生年金の加入期間が継続されますが、会社員や公務員でなくなった場合は第2号被保険者として厚生年金には加入し続けられません。
第2号被保険者から第1号被保険者あるいは第3号被保険者と切り替わる場合には手続きが必要です。忘れないようにしましょう。