年金生活をしていると健康保険料も大きな負担ですが、子どもの扶養に入ると保険料は支払わなくて済みます。
今回の記事では、年金生活者が子どもの扶養に入る要件とメリットについて解説します。扶養制度をうまく活用することで、保険料や税金を節約できます。
年金生活者が子どもの扶養に入る2つのメリット
扶養という言葉はよく使われますが、扶養には「社会保険の扶養」と「所得税法上の扶養」の2種類があります。両者を混同して「扶養制度はわかりにくい」と感じる人もいますが、異なる制度であることを前提にこの記事を読んでください。
年金生活者が子どもの扶養に入るメリットは次の2つです。
- 子どもの健康保険の「被扶養者」になれば国民健康保険料が不要になる
- 年金生活者を「扶養親族」にすることで子どもの税金が安くなる
子どもの健康保険の「被扶養者」になれば国民健康保険料が不要になる
メリットの1つ目は、年金生活者が子どもの「被扶養者」になることで国民健康保険料が不要になることです。年金生活者にメリットのある話です。
子どもが会社の健康保険に加入している場合、子どもが扶養している家族は「被扶養者」として子どもの会社の健康保険に加入できます。年金生活者である親が子の会社の健康保険に加入できれば、自分で国民健康保険料を支払う必要はなくなります。
年金生活者を「扶養親族」にすることで子どもの税金が安くなる
メリットの2つ目は、子どもが年金生活者を「扶養親族」とすることで税金が安くなることです。税金が安くなってメリットを受けるのは子どもです。
所得税を計算するとき、「扶養親族」がいると収入から所定の控除を受けられることで所得税が安くなるのです。また、控除額は異なりますが、住民税でも所得控除が受けられます。
公的年金の扶養には入れない
ただし、年金生活者の親は公的年金(国民年金や厚生年金)の扶養には入れません。公的年金の扶養制度とは、所定の要件を満たした配偶者が国民年金第3号被保険者として保険料の支払いを免除される制度で親は対象外です。
それでは、「社会保険(年金生活者は健康保険のみ)の扶養」と「所得税法上の扶養」について詳しくみていきましょう。
年金生活者が子どもの健康保険の「被扶養者」になる|健康保険の扶養
年金生活者なら誰でも、子どもの健康保険の「被扶養者」になれるわけではありません。「被扶養者」になるための要件やメリットについて説明します。
子どもの健康保険の「被扶養者」になるための要件
年金生活者が子どもの健康保険の「被扶養者」になるための要件は次の2つです。
- 年金生活者が75歳未満であること(75歳以上は後期高齢者医療制度に加入)
- 主として子どもに生計を維持されている人
子どもに生計を維持されているかどうかの判断基準は、同居か別居かによって次のとおり定められています。
同居(世帯同一)の場合
子どもと同居している場合は、次の条件を満たせば「子どもに生計を維持されている」と判断され、子どもの「被扶養者」になることができます。
- 年金生活者の年間収入が130万円未満(※1)
- 年金生活者の年間収入が子どもの2分の1未満(※2)
※1:親が60歳以上、または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満
※2:年間収入が子どもの2分の1以上でも、それを上回らない場合には世帯の生計の状況によって「被扶養者」となる場合がある
別居(世帯同一ではない)の場合
子どもと別居していても、次の条件を満たせば子どもの「被扶養者」になることができます。
- 年金生活者の年間収入が130万円未満
- 年金生活者の年間収入が子どもからの援助による収入額より少ない
子どもの健康保険の「被扶養者」になることで節約できる国民健康保険料
子どもの健康保険の「被扶養者」になれば、自分で国民健康保険に加入する必要はないので保険料は不要になります。
年金生活者の夫婦がともに「被扶養者」の条件を満たせば、2人分の保険料を削減できます。夫婦の一方が条件を満たし他方が満たさない場合は、条件を満たした方だけが「被扶養者」になって保険料を節約できます。
国民健康保険料は居住する市区町村や年収によって異なりますが、「国民健康保険の情報サイト」によると全国の平均値は次の通りです。(参照先ページは頻繁に更新されているため、参考のリンク先を正としてご覧ください)
(年収別の国民健康保険料・全国平均・単身者)
年収 | 毎月の保険料 | 年間保険料 |
---|---|---|
100万円 | 5,114円 | 61,378円 |
200万円 | 12,045円 | 144,550円 |
300万円 | 17,622円 | 211,470円 |
400万円 | 23,517円 | 282,214円 |
500万円 | 29,891円 | 358,694円 |
参考:国民健康保険の情報サイト「国民健康保険料率【全国平均】」
子どもの健康保険の「被扶養者」になれるのは原則、年間収入が130万円未満の人です。年収100万円と仮定すると、節約できる国民年金保険料は1人当り約6万円、夫婦とも年収100万円なら約12万円です。
子どもの健康保険の「被扶養者」になるための手続き
子どもの健康保険の「被扶養者」になるための手続きは、子どもが次の通り行います。
- 提出書類:健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
- 提出先:勤務先(勤務先経由で加入する健保組合や協会けんぽに提出)
参考:日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
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年金生活者を子どもの「扶養親族」にする|所得税法上の扶養
年金生活者を子どもの「扶養親族」にすることで、子どもの所得税と住民税は安くなります。「扶養親族」になるための要件や節税額などについて説明します。
年金生活者を子どもの「扶養親族」にするための要件
年金生活者を子どもの「扶養親族」にするための要件は次の2つです。
- 年金生活者が納税者(子ども)と生計を一にしていること
- 年金生活者の年間所得が48万円以下であること
「生計を一にしている」と判断されるのは次のケースです。
- 同居している場合
- 別居しているが常に生活費などの送金が行われている場合 など
「扶養親族」の所得要件
「扶養親族」では年金生活者の所得が要件の1つです。健康保険の「被扶養者」は収入が要件であるのに対し、「扶養親族」では所得が要件になるので注意しましょう。
年金生活者(収入が年金だけの場合)の所得は、年金収入から次の公的年金等控除などの金額を引いて計算します。
- 65歳未満の人:60万円(公的年金収入などが130万円未満の場合)
- 65歳以上の人:110万円(公的年金収入などが330万円未満の場合)
上記控除後の年間所得が48万円以下であれば「扶養親族」の所得要件を満たします。つまり、65歳未満は公的年金収入などが108万円(=60万円+48万円)未満、65歳以上は158万円(=110万円+48万円)未満の人が該当します。
年金生活者を子どもの「扶養親族」にすることで節約できる税金
年金生活者を子どもの「扶養親族」にすることで、子どもは扶養控除を受けられます。扶養控除の金額は次の通りです。
(扶養控除の金額)
年金生活者である親の年齢 | 控除額(住民税) |
---|---|
70歳未満 | 38万円(33万円) |
70歳以上(同居) | 58万円(45万円) |
70歳以上(別居) | 48万円(38万円) |
年金生活者を「扶養親族」にすることで、扶養控除を受けた金額に対する所得税や住民税が安くなります。たとえば、扶養控除額が38万円(住民税は33万円)、子どもの所得税率20%、住民税率10%のケースでは、安くなる税額の計算は次の通りです。
(安くなる税額)=38万円✕20%+33万円✕10%=10.9万円
年金生活者を子どもの「扶養親族」にするための手続き
年金生活者を子どもの「扶養親族」にする手続きは、年末調整時に子どもが行います。
- 提出書類:給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 提出先:勤務先(勤務先経由で税務署に提出)
参考:国税庁「[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」
まとめ:年金生活者が扶養に入ることで世帯全体が長期間メリットを享受できる
年金生活者が子どもの扶養に入るメリットは次の2つです。
- 子どもの健康保険の「被扶養者」になれば国民健康保険料が不要になる
- 年金生活者を「扶養親族」にすることで子どもの税金が安くなる
扶養制度の活用は、年金生活者だけでなく子どもにもメリットがあります。世帯全体で長期間にわたりメリットを享受できる可能性があるので、年金生活者が収入や所得の要件を満たしていれば積極的に制度を活用することをおすすめします。