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年金

会社員や公務員として働いた人が、一定の条件を満たす場合に60~64歳の間に受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」。

加入者期間等の一定条件を満たす場合、受給できる金額が上乗せされる制度があることはご存知でしょうか。これを厚生年金の44年特例と呼びます。

特例を受けられるのか否かで年金受給額が変わるため、高校を卒業してからずっと会社員・公務員として働いている方は一度この制度の詳細を確かめてみましょう。

本記事では44年特例の概要や実際に受給できる金額などを解説します。

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そもそも「厚生年金」とは

厚生年金は会社員や公務員など、営利企業や公的組織に雇用されている70歳未満の人が加入する公的年金の一種です。

日本の公的年金制度は3階建て構造になっており、厚生年金は2階部分に相当します。1階は日本国内に住む20歳~60歳未満の人の全員が加入する国民年金、3階は個人や企業が拠出・運用する私的年金です。

厚生年金の加入者は同時に国民年金の被保険者でもあります。国民年金のうち、厚生年金の受給者は「第2号被保険者」と呼びます。

正社員や会社役員以外にも、以下の条件を満たす場合は加入対象者です。

厚生年金の加入条件

  • 従業員101人以上の企業に勤務している
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)
  • 学生ではない(夜間学生、通信制、休学中は除く)

 

年金を受給開始する年齢

年金を受給し始める年齢は、原則として65歳からです。

ただし、厚生年金に関して現在では60歳から64歳までの間に「特別支給の老齢厚生年金」が支給される人もいます

「特別支給の老齢厚生年金」とは?

厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられた際に、急な引き上げによる影響緩和のために設けられた経過措置のこと

 

具体的には、以下の条件に当てはまる場合に支給されます。

  • 男性の場合、昭和36年(1961年)4月1日以前に生まれていること
  • 女性の場合、昭和41年(1966年)4月1日以前に生まれていること
  • 老齢基礎年金の受給資格期間(10年)を満たしていること
  • 厚生年金保険などに「1年以上」にわたって加入していたこと
  • 60歳以上であること

支給開始年齢は生年月日や性別によって異なります。

「生年月日」「性別」による支給開始年齢の違いは以下のとおりです。

支給開始年齢は段階的に引き上げられており、男性は昭和36年4月2日、女性は昭和41年4月2日以降に生まれた人は支給されません。

「44年特例」とは

年金の全体像を把握したところで、厚生年金に加入してから45年目以降の人に適用される特例を解説します。

「厚生年金の44年特例」とは?

特別支給の老齢厚生年金の「報酬比例部分のみ受け取れる受給者」について、厚生年金の加入期間が44年以上であれば、定額部分も同時に支給を受けられる制度

 

満期が40年と定められている国民年金と異なり、就職してから退職による脱退もしくは70歳で資格を喪失するまで厚生年金に加入することになります。

例えば18歳で高校を卒業してから就職して65歳の定年まで働いた場合は47年間にわたって保険料を納付します。このように加入期間の要件を満たした場合、「44年特例」を適用することが可能です。

44年特例を受給する条件

44年特例の適用を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 厚生年金の被保険者期間が44年以上ある(共済組合などの加入期間は対象外)
  • 厚生年金の被保険者資格を喪失している(退職している)
  • 特別支給の老齢厚生年金の「報酬比例部分」が受給開始年齢に達している

条件1.厚生年金の被保険者期間が44年以上である

特例の条件を満たすためには、厚生年金に加入した記録が44年以上(528月)あることが絶対条件になります。

なぜ「44年」かといえば、中卒で働き始めて60歳で定年退職するまでの期間が44年であったためです。

現在は65歳まで定年が延長されているケースが多く、たとえば高卒で特例を適用するには18歳から63歳まで働く必要があります。

条件2.すでに退職している

現状まだ厚生年金の加入者である場合、特例の対象にはなりません。一方、退職して他の条件も満たすことで特例の対象者になります。

年金受給資格者が退職した場合は事業所が「被保険者資格喪失届」を年金事務所に提出しますが、その人が条件に当てはまる場合は受給する年金に特例の金額が自動的に上乗せされることになります。

条件3.報酬比例部分の支給開始年齢に達している

本特例は、あくまで「特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)」の受給権利がある人が対象です。

  • 男性の条件:昭和36年(1961年)4月1日以前生まれ
  • 女性の条件:昭和41年(1966年)4月1日以前生まれ

なお、65歳になると通常の老齢厚生年金の受給が始まるため、特例の対象にはなりません。

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44年特例が適用されると受給額はいくら増える?

実際に本特例でいくらの金額が受け取れるかは、加入者の生年月日や厚生年金の被保険者期間から算出できます。

具体的な計算式は以下のとおりです。

定額部分 = 1,657円(67歳以下の単価)もしくは、1,652円(68歳以上の単価)※ × 生年月日に応じた率(定額単価) × 被保険者期間の月数

※令和5年の場合

「生年月日に応じた率」について、昭和31年4月2日以降生まれの場合は「1.0」、被保険者期間の月数の上限は「480月」です。

上記の計算式に当てはめると
1,657円 × 1.0(定額単価) × 480(被保険者期間の月数) = 795,360円
となり、国民年金(老齢基礎年金)の満額とほぼ同じになります。

44年特例の活用方法

もし44年特例の条件にあとわずかの人がいたら、ぜひ特例を活用してより多くの年金を受給しましょう。

ここからは、特例を利用して年金受給額を上げるコツを2つ紹介します。

特例が適用されるまで働き続けるという目安として使える

60歳以降の人で、「特例の条件をあと少しで満たす」という人は、条件を満たすまで働き続けるといった形で退職のタイミングを決めることに利用できます。

たとえば18歳で高校を卒業した人が61歳で退職してしまうと、44年特例の適用はできません。63歳まで働いて特例の条件を満たしたあとに退職すれば、数年の我慢で受給額が大きく変わることになります。

厚生年金の加入者であればパート・アルバイトでも対象

同じ種類の厚生年金保険の加入者であれば勤務形態に関係なく、44年以上の加入期間を満たせば対象になる可能性があります。

また、必ずしも同じ職場で働き続ける必要もありません。

ただし、加入期間について「種別ごとの厚生年金の加入期間」で考える点には注意が必要です。

  • 日本年金機構が管理する厚生年金
  • 公務員共済組合
  • 私学共済

どれか1つの期間だけで44年以上の加入実績がなければ適用を受けることはできません。

44年特例に関する注意ポイント

対象者であれば年金の上乗せが期待できる本特例ですが、メリットばかりを得られるとは限りません。

これから紹介する2つの注意ポイントもあるため、制度の対象に含まれる人も、利用するかは慎重に検討しましょう。

注意点1.多くの場合は働き続けるより収入が減少する

44年特例の適用を受けるためには、それまで働いてきた会社を辞める必要があります。ほとんどの場合、本特例を利用して得られる年金額は働いているときよりも少なくなる点に注意が必要です。

もともと「特例に達したら辞めることを決めていた」「辞めることを決めていたタイミングで44年特例が使えることが分かった」という人ならメリットがあるでしょう。

ただ、特例を受けるだけの目的で会社を辞めてしまうと、生涯収入がかえって減少してしまう可能性があります。

現役世代と変わらずにバリバリと働いて稼いでいる人は、仮に特例の条件を満たしていても、辞めずにそのまま働く方が良いケースも少なくありません。

注意点2.健康保険料が全額負担になることもある

本特例のために退職した場合、健康保険料が全額自己負担になるケースがある点にも注意が必要です。

会社員や公務員が加入している健康保険は労使折半によって半分は会社・組織が負担してくれます。一方、退職して配偶者や子供の扶養に入らない場合は国民健康保険に加入することになり、全額が自己負担になります。配偶者や子供の負担も発生するため、会社員時代よりも大きな保険料負担を強いられることもあります。

健康保険料の増加分も計算にいれて、本特例の適用を受けるかを事前に検討することが必要です。

44年特例に関するよくある質問

最後に、44年特例に関してよくある質問と回答をまとめました。

質問1.加給年金にも特例は適用される?

はい。44年特例は、定額部分に加えて加給年金額もプラスされます。加給年金を受け取る条件は、「同一生計の65歳未満の配偶者、18歳未満の子供(1級・2級の障害状態の場合は20歳未満)がいること」です。

加給年金の被保険者期間には条件がありますが、本特例を受給できる人は必然的に条件を満たしています。

ただし、加給年金額の加算には届け出が必要です。該当することを確認できた場合、忘れずに届け出しましょう。

質問2.44年特例の対象者が死亡したら年金はどうなる?

特例の権利を有する人が死亡した場合、年金を受給する権利は失ってしまう点に注意が必要です。

ただし、死亡した年金加入者と同一生計の遺族に限り、「未支給年金」「遺族厚生年金」などを受け取れる可能性があります。

未支給年金は、死亡した「年金の受給権者」が受給するべき年金で、まだ受け取っていない分のことです。

「老齢厚生年金の受給資格を満たし、受給資格期間が『25年以上』ある方が死亡したとき」など一定の条件を満たせば、遺族厚生年金も受給できます。

まとめ:厚生年金に加入して45年目の人は44年特例の対象に含まれる可能性がある

44年特例によって、老齢基礎年金の満額とほぼ同額の「定額部分」と、人によっては「加給年金」も同時に受給できるようになります。

ただし、条件を満たす人でも退職しないと受給ができません。「年金をもらうために今の仕事を辞める」必要があり、働き続けた方が受け取れる金額自体は多いことが考えられます。

65歳以降も働き続けようと考えている人は、「年金のために辞めるのか」「そのまま働き続けるか」は慎重に検討してライフプランを決めましょう。

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