会社員の給与からは、税金だけでなく社会保険料が天引きされます。天引きされる金額は税金より多いのが一般的で、給与明細を見て「社会保険料って何?」「どうやって計算するの?」「パートも天引きされるの?」などの疑問を感じる人もいるでしょう。
この記事では、給料から天引きされる社会保険料について解説します。計算方法やパートの加入要件も紹介するので、家計の収支や働き方を検討するときに役立ててください。
社会保険とは?|定義と保険料負担
社会保険とは、万が一のときの国民の生活を保障することを目的に設けられた国の制度です。加入者や企業などが保険料を支払って、さまざまな給付の費用を分担します。まず最初に、社会保険の概要と保険料負担について解説します。
広義の社会保険と狭義の社会保険
社会保険には「広義の社会保険」と「狭義の社会保険」があり、混同して使用されることがあるため注意が必要です。会社員にとって狭義の社会保険とは、「厚生年金保険」や「健康保険」、「介護保険」のことです。
狭義の社会保険と対になるものとして、労働保険があります。労働保険とは「労災保険(正式には労働者災害補償保険)」と「雇用保険」のことを指し、自営業者などには適用されない会社員独自の制度です。
狭義の社会保険と労働保険を合わせて、広義の社会保険と呼びます。この記事では、広義の社会保険について解説します。
保険料が給与天引きされる社会保険
会社員の社会保険料は、原則として給与天引きされます。労災保険の保険料は全額会社負担となるため、会社員が負担する社会保険料は次の4つです。
- 厚生年金保険料
- 健康保険料
- 介護保険料
- 雇用保険料
各保険料は原則労使で折半(雇用保険は一部異なる)するため、会社員は保険料の半分を負担します。ただし、介護保険の対象は40歳以上であるため、40歳未満の人は介護保険料の支払いが不要です。
社会保険料の計算基礎となる標準報酬月額
会社員が負担する社会保険料は、雇用保険を除き「標準報酬月額」を基に計算します。標準報酬月額に各保険料率を掛けて保険料を計算し、会社員はその半分を負担します。
- 各社会保険の保険料(会社員負担分)=標準報酬月額×各保険料率×1/2
標準報酬月額は、会社員が勤務先から支給される1ヶ月の報酬を所定の等級に区分した金額のことです。厚生年金の等級は32に区分され、健康保険や介護保険の等級は50に区分されます。
(厚生年金・標準報酬の等級区分)
参考:日本年金機構「保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)」
標準報酬月額は4~6月の報酬月額を基に計算し、報酬額に大きな変化がない限り原則9月から翌年8月まで金額は変わりません。毎年9月頃に会社から交付される「標準報酬月額決定通知書」などで確認できます。
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社会保険料はいくら?|計算方法とシミュレーション
次に、各社会保険料の計算方法を解説し具体的に試算します。基本的な計算式は次の通りです。
- 各社会保険の保険料(会社員負担分)=標準報酬月額×各保険料率×1/2
計算①:厚生年金保険料は給与の約9%
厚生年金の保険料率は2017年9月まで段階的に引き上げられましたが、現在は18.3%で固定されています。会社員が負担する厚生年金保険料は、標準報酬月額の9.15%です。
- 厚生年金の保険料(会社員負担分)=標準報酬月額×9.15%
標準報酬月額30万円の人の厚生年金保険料は、2万7,450円です。給与の10%近くの金額になるため、負担が大きいと感じる人も多いでしょう。
計算②:健康保険料は給与の約5%
健康保険の保険料率は、加入する健康保険組合によって異なります。中小企業などが加入する「協会けんぽ」も、都道府県によって料率が異なります。たとえば、2023年3月以降の東京都の料率は10%で、従業員は5%分を負担します。
- 健康保険の保険料(会社員負担分)=標準報酬月額×5%(東京都の協会けんぽ)
標準報酬月額30万円の場合、健康保険料は1万5,000円です。厚生年金保険料と同様、負担感の大きな社会保険料の1つです。
計算③:介護保険料は給与の約1%
2023年3月以降の介護保険料率は、全国一律で1.82%です。介護保険料率は毎年改定されます。会社員が負担する介護保険料は標準報酬月額の0.91%で、40歳未満の人には負担はありません。
- 介護保険の保険料(会社員負担分)=標準報酬月額×0.91%
標準報酬月額30万円の場合、介護保険料は2,730円です。厚生年金保険料や健康保険料と比較すると、負担感は少ないといえます。
計算④:雇用保険料は給与の1%未満
雇用保険料の計算基礎は標準報酬月額ではなく毎月の賃金です。当月の賃金に対して保険料率を掛けて計算するため、ほかの社会保険料と異なり給与天引きされる保険料は月によって異なります。
また、雇用保険料率は「事業の種類」によって異なり、会社員は「失業等給付や育児休業給付」に係る保険料を勤務先と折半します。
雇用保険料率:
一般の事業に従事する会社員の雇用保険料は、その月の賃金総額の0.6%です。
- 雇用保険の保険料(会社員負担分)=当月の賃金×0.6%(一般の事業)
一般の事業に従事し当月の賃金が30万円の場合、雇用保険料は1,800円です。会社員が負担する社会保険料の中では最も低額です。
計算⑤:合計すると給与の約15%
これまで計算した各社会保険料を合算した金額が、給与から天引きされる社会保険料の総額です。
40歳以上(東京の協会けんぽ・一般の事業)で標準報酬月額と当月の賃金(≒給与)が30万円の場合、社会保険料の総額は4万6,980円です。給与から天引きされる社会保険料はおおよそ給与の15%くらいになります。
パートの社会保険加入要件は?|社会保険の適用拡大
社会保険の適用拡大で、これまで社会保険の加入対象にならなかったパートの一部も加入が必要になりました。適用拡大されるのは、狭義の社会保険(厚生年金や健康保険、介護保険)です。
従来の社会保険加入要件
従来の企業の社会保険の加入は、次の正社員などに限定されていました。
- 常時雇用者(正社員など)
- 「1週間の所定労働時間」と「1ヶ月の所定労働日数」が常時雇用者の4分の3以上の短時間労働者(パートなど)
パートの大部分は、勤務先ではなく配偶者の扶養になったり、国民年金や国民健康保険に加入しなければなりませんでした。
適用拡大後の加入要件
社会保険の適用拡大とは、一定規模の会社に勤務し次の要件を満たす短時間労働者を社会保険の対象とするものです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金の月額が8.8万円以上
- 雇用期間が2ヶ月超見込まれる
- 学生ではない
対象となる勤務先は次の通り段階的に拡大し、中小企業のパートも社会保険加入の対象となる可能性があります。
- 2022年9月以前:常時雇用労働者が500人超の事業所
- 2022年10月以降:常時雇用労働者が100人超の事業所
- 2024年10月以降(予定):常時雇用労働者が50人超の事業所
パートの人は加入メリットとデメリットを検討しよう
これまで社会保険未加入だったパートの人が社会保険に加入することには、メリットとデメリットがあります。
主なメリットは、保障が充実することです。たとえば、厚生年金加入によって「老齢厚生年金」が、健康保険加入によって病気による長期間休業時に「傷病手当金」が受け取れます。
主なデメリットは、社会保険料を支払わないといけないことです。配偶者の扶養で保険料を支払っていなかった人にとっては大きな負担になります。
社会保険の扶養の範囲内(年収130万円)ギリギリでパートをしていた人は、保険料を支払って社会保険に加入するか、仕事を減らすかの選択を迫られます。
まとめ:社会保険を理解し家計の収支や働き方の検討に役立てよう!
会社員が負担する社会保険料は、厚生年金保険料と健康保険料、介護保険料(40歳以上の人)、雇用保険料です。給与天引きされる社会保険料は給与のおおよそ15%を占め、一般的に税金より負担が重くなります。
社会保険料によって手取り給与が目減りすることや、社会保険加入のメリット・デメリットを理解して、家計の収支や働き方の検討に役立てましょう。