社会保険の適用範囲が拡大し、配偶者の扶養の範囲内でパートしている人の中には、「どのような場合に社会保険に加入しなければならないの?」「社会保険に加入したらどんなメリットとデメリットがあるの?」と疑問を感じている人も多いでしょう。
今回の記事では、適用範囲が拡大する社会保険の加入要件と社会保険加入によって何が変わるかについて解説します。この記事を読めば、社会保険加入のメリットとデメリットも理解できるので自分にあった働き方を選択できます。
パートの社会保険の適用範囲が拡大中
パートなどの短時間労働者も厚生年金に加入できるようにして老後の年金を増やそうと、社会保険の適用範囲が拡大しています。まずは、社会保険の加入要件と適用範囲の拡大状況(予定を含む)についてみていきましょう。
社会保険とは
社会保険とは、国民の生活を保障するために設けられた公的な保険制度です。狭義の社会保険として、一般的に認識されているものは、主に会社員を対象とする次の健康保険制度と公的年金制度です。
- 健康保険(組合健保と協会けんぽ)
- 厚生年金保険
対象となる会社は次の2つです。
- すべての法人
- 個人事業主(従業員数5名以上)
健康保険料や厚生年金保険料は労使折半で、一般的に給与天引きされます。
一方、社会保険に加入しない人は、次の通りです。
- 自営業者など:「国民健康保険」と「国民年金」に加入して保険料を支払う
- 社会保険加入の配偶者の被扶養者:「健康保険の被扶養者」と「第3号被保険者」
社会保険と国民健康保険・国民年金の加入区分については下記リンクを参照ください。
社会保険の加入要件①(従来からの要件)
従来からの社会保険の加入要件は次の通りです。
- 1週間の所定労働時間、1か月の所定労働日数が常時雇用者の3/4以上であること
- 一般的には、所定労働時間が週30時間以上であること
所定労働時間とは残業時間を含まない労働時間(労働契約で定める労働時間)です。
また、次に該当する場合は社会保険は適用されません。
- 日雇い労働者
- 2か月以内の臨時で使用される人
- 季節労働者
- 臨時的事業で使用される人(雇用期間が6か月未満) など
社会保険の加入要件②(適用範囲拡大中の要件)
平成28年10月、従業員数が一定以上の会社に勤務する人の加入要件が次の通りとなりました。
- 週所定労働時間が20時間以上30時間未満
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月以上の雇用の見込みがある
- 学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象)
現在(令和3年度)において対象となる会社は次の2つです。
- 特定適用事業所:従業員数501人以上の会社
- 任意特定適用事業所:従業員500人以下で社会保険加入の労使合意がある会社
参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
適用要件の拡大状況
上記の「社会保険の加入要件②」を適用する会社は順次拡大され、令和6年10月には従業員数51人以上の会社にも適用対象となります
- 平成28年10月:従業員数501人以上の会社
- 平成29年4月:従業員数500人以下で社会保険加入の労使合意ある会社
- 令和4年10月:従業員数101人以上の会社
- 令和6年10月:従業員数51人以上の会社
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パートの社会保険で変わること
次に、パートの人が社会保険に加入した場合に何が変わるのか、具体的にみていきましょう。
社会保険料の負担
パートの人が社会保険に加入した場合、次の社会保険料が発生し給与天引きされます。
- 健康保険料(健康保険ごとの所定の保険料率を労使折半(※))
- 厚生年金保険料(保険料率18.3%を労使折半)
※「協会けんぽ」の健康保険料率は9%~11%の範囲で都道府県ごとに異なります。
介護保険料率(全国一律1.8%)を含めて各保険料率の合計は30%です。労使折半するので従業員負担分は約15%になります。
社会保険による保障
社会保険に加入することで、「国民健康保険」や「国民年金」にはない保障を受けることができます。
健康保険による保障
健康保険による保障は、「傷病手当金」と「出産手当金」です。
- 傷病手当金:労災以外の病気・けがによる休業中に給与の2/3相当が支給される。
- 出産手当金:産休中(産前42日、産後56日までの間)に給与の2/3相当が支給される。
国民健康保険の加入者だけではなく、配偶者の「健康保険(協会けんぽや組合健保)」に加入している被扶養者も上記の支給はありません。
厚生年金による保障
厚生年金による保障は、所定の条件に該当した場合に基礎年金の上乗せとして以下に挙げる厚生年金が支給されます。国民年金だけの人は基礎年金しか支給されません。
- 老齢厚生年金:老後の年金
- 遺族厚生年金:死亡時の遺族保障
- 障害厚生年金:所定の障害状態に該当したときの保障
パートの社会保険加入のメリットとデメリット
最後に、パートの社会保険加入のメリットとデメリットについて解説します。デメリットが大きい場合には、勤務時間を削るなど働き方の見直しも選択肢となるでしょう。
社会保険加入のメリット
パートの社会保険加入のメリットは、次の通りです。
- 健康保険から「傷病手当金」や「出産手当金」が支給される。
- 厚生年金から「老齢厚生年金」「遺族厚生年金」「障害厚生年金」が支給される。
- 「国民健康保険料」と「国民年金保険料」を支払っていた人は、保険料が安くなる可能性もある。
ただし、傷病手当金や出産手当金、遺族・障害厚生年金はもらう機会は少ないでしょう。一方、老齢年金は老後の生活資金として多くの人にとって必要不可欠なものです。老齢年金を増額できることが、社会保険加入の最大のメリットといえます。
たとえば、年収106万円(月収8.8万、保険料の月額8,100円)の場合、加入年数による老齢厚生年金額は次の通りです。
(加入年数別の老齢厚生年金額)
加入年数 | 累計の保険料 | 老齢厚生年金額 |
---|---|---|
20年間 | 194万4,000円 | 10万8,300円 |
10年間 | 97万2,000円 | 5万4,100円 |
1年間 | 9万7,200円 | 5,400円 |
社会保険加入のデメリット
社会保険加入による主なデメリットは、健康保険料と厚生年金保険料の負担増です。
「国民健康保険料」と「国民年金保険料」を支払っていた人は、支払う保険料が増減するだけです。
しかし、配偶者が社会保険加入者で「健康保険の被扶養者」「第3号被保険者」であった人は保険料の支払がなかったので、社会保険料の全額が負担増になります。
目先の手取り給与が減少するだけでなく、老齢年金増額などのメリットを上回る負担増となるケースもあります。
また、配偶者が会社から「扶養手当」などをもらっていた場合、会社の規定によっては不支給となる可能性もあります。
まとめ:社会保険料負担のアップを上回る収入アップを目指した働き方がおすすめ
社会保険の適用範囲拡大により、従来は適用外だったパートの人も厚生年金に加入する必要が出てきました。可能性のあるのは次に該当するケースです。
- 働き方:「週所定労働時間が20時間以上30時間未満」かつ「賃金月8.8万円以上」など
- 勤務先:従業員501名以上(令和4年10月以降100人以上、令和6年10月以降51人以上)
要件に該当すれば加入が必須で、社会保険料負担で手取り収入が減ることもあります。
加入要件から外れるために収入を減らすという選択肢もありますが、働ける環境があれば、人生100年時代に備えて大幅な収入アップを図ることがおすすめです。