配偶者に生前贈与をしても、かえって贈与された側の税負担が重くなっては意味がありません。そこで利用を検討したい制度が「贈与税の配偶者控除」です。
一定の条件を満たした夫婦間の居住用財産または居住用財産を取得するための資金の贈与であれば、一定の範囲内で非課税の恩恵を受けられます。
本記事では贈与税の配偶者控除について、制度の概要やメリット・デメリットを紹介します。制度を利用してもお得にならないケースも紹介するため、自身の節税に利用できるかを確かめる際にご活用ください。
贈与税の「配偶者控除」とは

贈与税の配偶者控除とは、配偶者が居住用の不動産を購入、またはその建築資金の贈与を受けた場合、贈与を受けた金額から「2,000万円まで」を控除できる制度のことです。
通常、夫婦間であっても年間110万円を超える財産が贈与されると贈与税がかかります。
しかし、結婚20年以上の夫婦の財産は夫婦が長年協力して築き上げた共同資産であり、優遇措置として年数条件を満たす配偶者からマイホームやマイホーム費用等を贈与を受けた場合に税制優遇が行われます。
配偶者控除の適用要件
配偶者控除は夫婦なら誰でも適用できるわけではありません。同制度を使って2,000万円の控除を受けるためには、以下の条件を満たすことが必要です。
【特例を受けるための条件】 ・夫婦の婚姻期間が20年を過ぎたあとに発生した贈与である ・贈与された財産が「居住用不動産」又は「居住用不動産を取得するための金銭」である ・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与で取得した居住用不動産または贈与で受け取った金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住み続ける見込みである ・居住用不動産が日本国内にある 出典:国税庁|No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除 |
なお、特例を使った贈与は生涯で1回のみ有効であり、何度も利用することはできません。
配偶者控除の特例を使った場合の控除額の計算例
実際に配偶者控除の特例を利用した場合、どのくらい税額に違いが出るのかシミュレーションしてみましょう。
夫婦間の贈与では「一般税率」が適用されます。
出典:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
【前提条件】
- 住宅取得資金として3,000万円を生前贈与する
- 暦年課税の基礎控除110万円と配偶者控除を利用する
【特例を使わない場合の贈与税額】 (3,000万円-110万円)×50%-250万円=1,195万円 【特例を使う場合の贈与税額】 (3,000万円-110万円-2,000万円)×40%-125万円=231万円 |
特例を使うか・使わないかで贈与税額が「約5倍」も変わってくるため、条件が合えば配偶者控除を利用することで大きな節税につながるでしょう。
贈与税の配偶者控除のメリット

贈与税の配偶者控除には、これから紹介するようなさまざまなメリットがあります。
メリット1.基礎控除と合わせて2,110万円までの贈与税が非課税になる
贈与税の配偶者控除の最大のメリットは、2,000万円の贈与税が非課税になる点です。
また、同制度は暦年課税の基礎控除110万円と併用できるため、合計で2,110万円までは贈与税がかからなくなります。
配偶者控除を使わずに贈与した場合、前述のシミュレーションでは3,000万円の贈与のうち1,195万円を贈与税として納めることになります。実に3分の1が税金で消えてしまい、手元には約1,800万円しか残りません。
一方、贈与税の配偶者控除と基礎控除を利用すれば、贈与税額は大きく軽減されます。
メリット2.相続開始前3~7年以内の生前贈与加算の対象とならない
通常の暦年課税の場合、相続開始前3年以内の贈与は「生前贈与加算」が行われ、贈与を受けた分が相続人の相続税課税価格に加算されます(令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税は最長7年間)。
一方、贈与税の配偶者控除は、相続開始前3年以内の贈与だったとしても生前贈与加算の対象にはなりません。
贈与をしたその年に贈与者が亡くなって相続が始まったとしても、特例通りに2,000万円の控除を受けられます。
メリット3.夫婦それぞれが「居住用財産の3,000万円特別控除」を使える
贈与税の配偶者控除を利用して不動産を夫婦の共有財産にすることで、「居住用財産の3,000万円特別控除」を夫婦それぞれが利用できるメリットが生まれます。
「居住用財産の3,000万円特別控除」とは?
マイホームを売却して利益が出る際、利益から3,000万円を差し引く制度
3,000万円まで非課税になる制度を夫婦で利用することで、居住用財産を売却しても合計で6,000万円の売却益までは税金が発生しません。
ただし、特例を土地に適用する場合は「家屋と共に譲渡すること」という条件がある点には注意が必要です。
贈与税の配偶者控除のデメリット

最大で2,110万円まで非課税になったり夫婦それぞれで居住用財産の3,000万円特別控除が使えたりと、さまざまなメリットがある「贈与税の配偶者控除」ですが、デメリットもあります。
特にこれから紹介するデメリットについては、制度利用の前にしっかりと把握しておきましょう。
デメリット1.贈与を受けた側に不動産取得税や登録免許税がかかる
大きなデメリットとして考えられる点は、贈与を受けた側が「不動産取得税」「登録免許税」といった税金を納める必要があるということです。
不動産取得税は相続では発生しない一方、贈与の場合は令和6年3月31日までに取得した場合、住宅にも土地にも固定資産税評価額の3%が「不動産取得税」としてかかります。
名義変更などの登記の際にかかる「登録免許税」は、贈与の場合は固定資産税評価額の2%です。
加えて登記の手続きを自分で行えない場合は司法書士などへの報酬も発生します。
デメリット2.贈与を受けた人が先に亡くなると贈与の意味を無くす
贈与税の配偶者控除は、贈与する側よりも贈与を受ける側が長生きすることが前提の制度です。
贈与を受けた側が先に亡くなると、贈与をした側が相続して名義を元に戻す形になります。仮に贈与してもらった側が贈与した側よりも先に亡くなってしまうと、生前贈与をした意味がなくなってしまうでしょう。
デメリット3.相続税の軽減効果が期待できない場合がある
生前贈与は相続税の負担を減らす目的で実施され、配偶者控除も「相続開始前3~7年以内の生前贈与加算の対象とならない」といったように、相続税対策としても機能します。
ただし、そもそも相続税が(ほとんど)かからない場合、期待よりも効果が薄いと感じることもあります。
相続税が課税されない場合、贈与税の配偶者控除を適用して自宅を生前贈与しても、相続税対策としては機能しなくなることは事前に理解しておきましょう。
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贈与税の配偶者控除を使っても金銭的に得しない人もいる

基礎控除と併せることで最大2,110万円の控除を受けられますが、誰でもお得になる制度とは限りません。
以下のようなケースでは配偶者控除を使っても金銭的にお得にならない場合があるため、利用には十分に注意しましょう。
得しないケース1.相続税がかからない場合
相続税も、贈与税のように基礎控除があります。
「相続税の基礎控除」とは?
相続税の計算で用いられる非課税枠のこと。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
配偶者が相続する財産が相続税の基礎控除の範囲内の場合、相続税は発生しません。
生前贈与をしても税制面でのメリットは変わらないため、無理に贈与税の配偶者控除を使う必要はありません。
むしろ贈与よりも相続のほうが「登録免許税」「不動産取得税」の税率が抑えられるため、贈与税の配偶者控除を使う方が損する可能性が高いです。
得しないケース2.配偶者の税額軽減を利用する場合
仮に相続税が発生するとしても、「相続税の税額軽減」を利用することで相続税が非課税になるケースが大半です。
「相続税の税額軽減」とは?
配偶者が相続で取得した財産のうち「1億6千万円」または「法定相続分」のいずれか高い金額まで非課税で相続できる制度
最低でも1億6,000万円まで非課税にできるため、夫婦間の相続ではよほどのことがない限り相続税はかかりません。
いずれは非課税で居住用不動産や資金を獲得できるということは、贈与税の配偶者控除を利用する前に知っておきましょう。
贈与税の配偶者控除を受ける前に知っておくべき注意点

贈与税の配偶者控除を受けることを決める前に、以下の注意点についても理解を深めておきましょう。
注意点1.小規模宅地等の特例が使えなくなる
贈与税の配偶者控除を利用した場合、「小規模宅地等の特例」が使えないという大きなデメリットがあります。
「小規模宅地等の特例」とは?
被相続人(亡くなった人)が居住していた土地を相続するなどの条件を満たす場合、330㎡までの相続税評価額が8割引きされる制度
自宅の敷地の相続税評価額が5,000万円の場合でも1,000万円まで減額できるため、節税効果が大きな制度です。
この小規模宅地等の特例が使えなくなるデメリットは大きく、相続税の節税という面では贈与税の配偶者控除のメリットは大きくありません。
注意点2.贈与されたお金の使い道は限定される
住宅用財産の購入資金を贈与された場合に注意したい内容として、「自宅のリフォームには特例が使えない」ということが挙げられます。
また、店舗併用住宅や店舗兼住宅の場合、居住部分が9割以上という物件を除き、居住用部分にのみ特例が適用される点にも注意が必要です。
贈与税の配偶者控除の申告手続きの進め方

贈与税の配偶者控除を利用するためには、贈与があった年の翌年3月15日までに税務署で「贈与税申告書」を提出します。
以下の添付書類も必要になるため、同時に準備を進めておきましょう。
(1) 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本または抄本 (2) 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し (3) 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの 引用元:国税庁|No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除 |
まとめ:贈与税の配偶者控除を使って得になるかは事前に考える必要がある
贈与税の配偶者控除は20年以上連れ添った夫婦間の住宅、住宅取得資金の贈与などに使える制度であり、合計2,110万円までは贈与税が非課税になります。
生前贈与加算の対象にも含まれないといったメリットの多い制度ですが、一方で「贈与された側に登記や納税の負担が増える」「贈与を受けた側が先に亡くなると意味がない」といった注意点・デメリットもあります。
贈与税の配偶者控除を利用するかは税務に詳しい専門家にも相談したうえで、よく考えて決めることをおすすめします。