相次相続控除とは、日常的にはあまり耳にしない言葉です。実は、条件が合えば相続の際に得られる控除であるため、相続税の節税が可能となります。本記事では、相次相続控除の概要・適用要件・実際の計算方法・注意点について解説します。
「相続はまだ先のことだから、あまり興味がない」と思うかもしれません。しかし、前もって相続に関する知識を得ておくと、いざというときに冷静に対処できます。また、相次相続控除の計算方法がわかると、自分にあてはめたシミュレーションがおこなえます。
相次相続控除について理解し、相続税を上手に節税しましょう。
【相次相続控除】10年以内に相続が相次いだら利用できる控除
相次相続控除とは、文字通り「相次いで相続が続いた場合に受けられる控除」です。同一の資産についての相続が短期間に相次いだ場合、そのたびに相続税を納めるのは負担が重いため、税負担軽減措置として相次相続控除が使えます。
1次相続と2次相続
相次相続控除を理解するために、1次相続と2次相続という用語を確認しておきます。耳慣れない用語であり、「初めて聞いた」という人もいるでしょう。簡単に述べると、1次相続とは前回(1回目)の相続であり、2次相続とは今回(2回目)の相続です。
事例で確認してみましょう。5年前に祖父が亡くなりその遺産を父が相続し、現時点で父が亡くなりその遺産をあなたが相続する場合、次のようになります。
- 1次相続:祖父から父への相続
- 2次相続:父からあなたへの相続
なお、相続の関係がわかりづらい場合も多いでしょう。そのような時には、相続関係説明図を書くと整理しやすくなります。相続関係説明図の書き方については、以下の記事を参考にしてください。
相次相続控除の適用要件
相次相続控除は誰でも使えるわけではありません。相次相続控除を適用するためには、次の3要件をすべて満たす必要があります。
- 被相続人の相続人である
- 1回目の相続開始から10年以内に相続が発生している
- 1回目の相続で相続税を納めている
ひとつでも欠けている場合、相次相続控除は適用されないため注意が必要です。各要件について、以下で解説します。
要件①:被相続人の相続人である
被相続人の相続人であることが、第1要件です。被相続人とは「相続される人=財産を残して亡くなった人」を指します。相続人は、以下の範囲と定められています。
- 配偶者:常に相続人となる。内縁関係の人は含まれない
- 死亡した人の子供(第1順位):子供が既に死亡している場合、その子供や孫
- 死亡した人の父母や祖父母(第2順位):第1順位がいない場合、相続人となる
- 死亡した人の兄弟姉妹(第3順位):第1順位と第2順位がいない場合、相続人となる
上記範囲内の人であっても、相続放棄をしている場合は相続人ではありません。また、上記範囲外で遺言により遺産を受け取った人も法定相続人ではないため、相次相続控除の要件外となります。
要件②:1回目の相続開始から10年以内に相続が発生している
1回目の相続開始(1次相続)から10年以内に次の相続(2次相続)が発生していることが、要件です。相次相続控除は相次いで起こった相続への控除であるため、10年以内という期限が設定されています。
また、1次相続の相続人が2次相続の被相続人であることも必要です。例として、父が1次相続の相続人であり2次相続の被相続人であるケースを見てみましょう。
- 祖父が死亡:祖父が被相続人であり、父が相続人(1次相続)
- 父が死亡:父が被相続人であり、子供が相続人(2次相続)
要件③:1回目の相続で相続税を納めている
1回目の相続(1次相続)で相続税を納めていることも、要件です。相次相続控除は、相次いで起こる相続税負担を軽減する措置であるため、1次相続で相続税を納めていない場合は対象外となります。
相次相続控除の控除額
「相次相続控除を適用すると、どの程度相続税の納税額が減るのか」と気になる人も多いでしょう。以下で、相次相続控除の計算式を解説し、具体的数値を用いた計算例を紹介します。例を参考に、ご自身の相次相続控除の金額を計算してみてください。
相次相続控除の計算式
相次相続控除の計算式は、次の式で表されます。
各相続人の相次相続控除額=A×C/(BーA)×D/C×(10ーE)/10
(※C/(BーA)が100/100を超える場合は、100/100とする)
- A:今回の被相続人が前回相続時に課せられた相続税額
- B:今回の被相続人が前回相続時に取得した純資産価額
- C:今回の相続や遺贈、贈与で財産を取得した全員分の純資産価額の合計額
- D:相次相続控除を受ける相続人が相続する純資産価額
- E:前回の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨て)
相次相続控除の計算例
それでは、次の例で相次相続控除額の計算をしてみましょう。
例:2年7か月前に祖父が死亡し、このたび父が死亡。父は祖父から1億5,000万円を相続し、相続税1,000万円を納税。今回の父から相続する純資産価額の合計額は1億8,000万円で、そのうち自身が相続するのは9,000万円。相次相続控除の金額はいくらになるのか。
例中の数値をA~Eにあてはめます。
- A:今回の被相続人が前回相続時に課せられた相続税額=1,000万円
- B:今回の被相続人が前回相続時に取得した純資産価額=1億5,000万円
- C:今回の相続や遺贈、贈与で財産を取得した全員分の純資産価額の合計額=1億8,000万円
- D:相次相続控除を受ける相続人が相続する純資産価額=9,000万円
- E:前回の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨て)=2年
これらの数値を計算式に入れて計算してみましょう。
相次相続控除額=1,000万円×1億8,000万円/(1億5,000万円ー1,000万円)
×9,000万円/1億8,000万円×(10ー2)/10
=400万円
(※C/(BーA)が100/100を超えているため、100/100とする)
よって、相次相続控除として400万円が控除されます。
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相次相続控除の手続き方法と必要書類
「相次相続控除はどう手続きすればいいのか」「難しい手続きなら困る」と心配する人がいるかもしれません。実は、相次相続控除の手続きは簡潔におこなえます。ただし、一定の書類が必要なので前もって確認しておくことがおすすめです。
以下で、相次相続控除の手続きと必要書類について解説します。
手続きについて
相次相続控除の手続きは、2回目の相続(2次相続)の相続税申告時におこないます。相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内にする必要があるため、期限に注意が必要です。
手続きとしては、納税地の所轄税務署に必要書類を郵送または持参で提出するのみです。
必要書類
相次相続控除の手続きに必要な書類として、相続税申告書第7表と、1回目の相続開始時の書類が挙げられます。これらについて以下で解説します。
相続税申告書第7表
相続税申告書第7表の「相次相続控除額の計算書(PDF)」に、金額等必要事項を記入します。この第7表は、相次相続控除の申告時のみに使う特別な書類です。
1回目の相続開始時の書類
相続税申告書第7表「相次相続控除額の計算書」の計算の根拠として、1回目の相続(1次相続)開始時の相続関連書類も必要です。相続の書類についての詳細は、以下の記事を参考にしてください。
相次相続控除の注意点
相次相続控除は10年以内に相次いで相続が発生した場合に適用できる、相続税を軽減させられる措置です。しかし、相次相続控除にはさまざまな注意点があります。事前に知っておくことで、相次相続控除の適用の可・不可がわかり、スムーズに対処できます。
注意点①:相続人でないと適用できない
相次相続控除は、相続人でないと適用できません。配偶者や被相続人の子供(第1順位)、父母や祖父母(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)のみが対象です。対象外の人が被相続人から遺言で遺産を譲り受けた場合、相次相続控除は使えません。
また、相続人が相続を放棄すると、その時点で相続人の資格を失います。そのため、相続を放棄して生命保険金のみを受け取った場合、やはり相次相続控除は適用できません。
注意点②:1回目の相続時に相続税を納めていないと適用できない
相次相続控除は、1回目の相続(1次相続)時に相続税を納めていないと適用できません。相続税の各種控除を適用して1次相続時に相続税が課されなかった場合、2次相続時に相次相続控除を適用できない点に注意が必要です。
例えば、「配偶者の税額の軽減」を適用すると、遺産の1億6,000万円(または配偶者の法定相続分)までは相続税が非課税となります。父から母への1次相続で「配偶者の税額の軽減」で非課税となった場合、母から子供への2次相続では相次相続控除は適用外です。
注意点③:各相続人で適用額を選択できない
相次相続控除の適用額は、今回(2次相続)の被相続人が前回の相続(1次相続)時に相続した遺産額から算出します。そのため、各相続人で適用額の選択はできません。
注意点④:遺産が未分割の状態でも適用できる
相続において、遺産の分配で相続人同士の話し合いが長引き、相続税申告期限までに遺産が分割できないという事態が起こり得ます。しかし、相次相続控除は遺産が未分割の状態でも適用可能です。法定相続分で分割したと仮定して、相次相続控除を適用します。
注意点⑤:相続税が0円でも遺産売却予定なら申告する
相次相続控除を適用して相続税が0円になった場合、相続税の申告の必要はありません。しかし、3年10か月以内に遺産を売却する場合は相続税の申告をするほうがおすすめです。相続税を申告しておくと、「取得費加算の特例」の適用が可能となります。
取得費加算の特例とは、3年10か月以内に遺産を売却した際に、売却遺産分の相続税を譲渡益から控除できる特例です。相続税を申告していないと、この取得費加算の特例は適用できません。
相次相続控除の適用で相続税が0円となった場合でも、近いうちに遺産の売却予定があるなら相続税を申告しておきましょう。
注意点⑥:相続税申告後でも適用できる
相次相続控除の手続きは、2次相続の相続税申告時におこなうのが基本です。しかし、相続税申告期限から5年以内であれば、更正の請求をすることで相次相続控除を適用できます。更正の請求は、その理由の根拠となる必要書類を提出して手続きをします。
相続税申告時に相次相続控除の手続きを忘れていても、5年以内なら適用できるので、あきらめずに更正の請求をしてください。
注意点⑦:対象者が同時に死亡した場合は適用できない
相次相続の対象者が同時に死亡した場合は、相次相続控除は適用されません。例えば、祖父と父が乗車中に交通事故で亡くなったケースでは、祖父から父へ1次相続、父から自分へ2次相続とはなりません。
相続人は、相続開始時に生きている人である必要があります。そのため、同時死亡では両者の間に相続が発生していません。また、1次相続の段階で相続税も納めていないため、相次相続控除の適用外です。
なお、両者のどちらが先に死亡したかわからない場合も、同時死亡と推定されます。
まとめ:10年以内の相次ぐ相続には、相次相続控除を適用しよう
相次相続控除の概要や適用条件、計算方法、手続きおよび注意点について解説しました。相次相続控除は、相続税の負担を軽減する措置です。10年以内に相続が相次いだ場合は、忘れず相次相続控除を適用して、相続税を減らしましょう。