相続が発生した時に、相続財産額面によっては相続税が課せられます。「自分に万が一のことがあった場合、なるべく多くの財産を遺族に遺したい」「家族が遺してくれた財産から多額の相続税を納めるのは避けたい」という人も多いでしょう。
そこで、本記事では相続税の節税方法14選を解説します。生前にできる相続税対策から、相続時にできる節税まで幅広く紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
遺された財産を有意義に使うために、または財産を遺族にできる限り遺すために、相続税を上手に節税しましょう。
相続税とは
相続税とは、相続時に受け取った相続財産に課される税金です。一般に、相続財産額が大きいほど税率も高くなります。その理由は、相続税が資産の再分配や格差の是正といった役割も担っているためです。
「せっかく家族が遺してくれた財産なのに、税金を支払うのは不満」と思う人もいるでしょう。しかし、相続税は必ず課せられるわけではありません。相続財産には必ず基礎控除額があり、基礎控除額を上回った場合のみ相続税を納める必要があります。
相続税の基礎控除額とは
相続税の基礎控除額とは、相続財産の一定金額までは相続税が課されない、という措置です。相続財産が基礎控除額以下の場合、相続税は非課税となります。基礎控除額の計算式は次のとおりです。相続税を考えるうえで重要な計算式なので、確認しておきましょう。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
なお、法定相続人とは以下の人を指します。
- 配偶者:常に相続人となる
- 死亡した人の子供(第1順位):本人が既に死亡している場合、その子供や孫が含まれる
- 死亡した人の父母や祖父母(第2順位):第1順位がいない場合、相続人となる
- 死亡した人の兄弟姉妹(第3順位):第1順位と第2順位がいない場合、相続人となる
内縁関係の夫婦の場合は、配偶者に該当せず法定相続人にならないため、注意が必要です。
例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×3=4,800万円です。相続財産が4,800万円以上あればその超過分に課税されますが、4,800万円未満であれば相続税はかかりません。
相続税を節税するには
「基礎控除額だけでは、相続税が相当かかってしまう」とお悩みかもしれません。相続税は、相続財産の評価額を減らしたり、基礎控除額を増やしたりすることで節税できます。
各制度を知っておくと相続税を上手に節税できるので、早い段階で確認しておきましょう。
生前にできる相続税の節税方法10選
生前にできる相続税の節税方法10選を紹介します。贈与や保険、不動産等を活用して、相続資産の評価額を減らして節税する方法や、基礎控除額を増やす方法などがあります。
方法①:暦年贈与
暦年贈与は、贈与税の年間基礎控除額の110万円を活用した節税方法です。毎年110万円までなら非課税で贈与できるため、相続財産を少しずつ相続人に移転できます。相続人が3人の場合、毎年330万円ずつ相続財産を減らすことが可能です。
すなわち、相続税の課税対象財産の評価額を減らせるので、節税につながります。
ただし、2023年度の税制改正で、「相続発生からさかのぼって7年以内の暦年贈与は課税対象」となりました。2024年1月1日から施行されるため、他の方法と比較検討することをおすすめします。
方法②:贈与税を納めて贈与
推定される相続財産を計算し、贈与税と相続税の税率を比較すると、贈与税を納めるほうが節税になる場合があります。贈与税と相続税の税率を見てみましょう。
一般贈与財産用早見表
基礎控除(ー110万円)後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ー |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特別贈与財産用早見表(18歳以上の者が直系尊属(※)から贈与を受けた場合に限る)
※父母・祖父母など直系で自分よりも上の世代
基礎控除(ー110万円)後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ー |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税の速算表
法定相続分に対応する取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参考:国税庁「相続税の税率」
相続税をシミュレーションし、相続税の税率よりも贈与税の税率が低い場合は、贈与をすると節税になります。
方法③:相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、贈与額の合計2,500万円までが非課税となる制度です。特別控除額2,500万円を超過した贈与分には、一律20%の贈与税が課されます。まとまった金額を贈与したい場合におすすめの制度です。
ただし、対象者が限られており、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の直系卑属(子や孫)のみが適用できます。
なお、相続時には、この制度を使用した贈与額について、贈与時の時価を相続財産に加算して相続税を計算することになります。
注意点:暦年贈与と相続時精算課税制度は選択制
相続時精算課税制度を適用する際の注意点ですが、暦年贈与と相続時精算課税制度はどちらかしか使えません。また、相続時精算課税制度を選択した場合、暦年贈与に切り替えることはできません。
暦年贈与のほうが節税になると後から気づいても、相続時精算課税制度に選択した後は切り替え不可なので、慎重に選ぶ必要があります。
方法④:住宅取得等資金贈与の特例
住宅取得等資金贈与の特例とは、子や孫に住宅用家屋の新築や取得、改築の費用として最大1,000万円を非課税で贈与できる特例です。
- 対象者:18歳以上の直系卑属(子や孫)
- 非課税限度枠:省エネ等住宅は1,000万円、それ以外の住宅は500万円まで
- 住宅の要件:床面積が40㎡以上240㎡以下で、その2分の1以上が受贈者の居住用
- 特例の期限:2023年12月31日
参考:国税庁「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
方法⑤:教育資金の一括贈与特例
教育資金の一括贈与特例とは、子や孫に教育費として最大1,500万円を非課税で贈与できる特例です。
- 対象者:30歳未満の直系卑属(子や孫)
- 非課税限度額:1,500万円(うち学校等以外への費用は500万円まで)
- 贈与の要件:取引金融機関を経由して「教育資金非課税申告書」を提出する
- 特例の期限:2026年3月31日
この特例においては、金融機関を介して非課税申告書を税務署に提出する必要があります。
参考:国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
方法⑥:結婚・子育て資金の一括贈与特例
結婚・子育て資金の一括贈与特例は、子や孫の結婚資金や子育て費用として最大1,000万円を非課税で贈与できる特例です。ただし、贈与者(祖父母や父母)の死亡段階で贈与の残額がある場合は、残額分の相続税を納める必要があります。
- 対象者:18歳以上50歳未満の直系尊属(子や孫)
- 非課税限度額:1,000万円(うち結婚関連費用は300万円まで)
- 特例の期限:2025年3月31日
参考:国税庁「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
方法⑦:生命保険
生命保険を活用した相続税節税の方法は、3つあります。
1.生命保険金の非課税限度額を利用する
生命保険金には非課税限度額があります。計算式は次のとおりです。
生命保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数
つまり、相続税の課税対象となる生命保険金は、次の式で表されます。
生命保険金の課税対象額=受け取った生命保険金の合計額ー(500万円×法定相続人の数)
法定相続人の数と生命保険金の額面の関係次第では、相続税を0円にすることも可能です。ただし、この非課税限度額は「被相続人が保険料を負担し、生命保険金の受取人が相続人である」場合のみに適用されます。
生命保険金は、保険料の負担者と保険金の受取人が誰であるかによって、支払う税金が異なります。詳細に関しては、以下の記事を参考にしてください。
2.生命保険金を一時所得として受け取る
生命保険金を一時所得として受け取ると、節税が可能です。そのためには、生命保険の被保険者が被相続人であり、保険料負担者と受取人が相続人である必要があります。生命保険料を一時所得として受け取った場合、相続税ではなく所得税が課されます。
所得税の課税対象となる金額は、次のとおりです。
所得税の課税対象額=(死亡保険金ー支払保険料ー50万円)×1/2
※50万円は一時所得の特別控除額
保険料を毎年110万円以内の範囲で、被相続人から相続人に贈与し、相続人が保険料として支払うことで相続財産を減らせます。一時所得の場合、課税対象額が2分の1になるため所得税率も下がり、節税となります。
3.子等に生命保険をかける
被相続人(例えば父母や祖父母)が、相続人(配偶者や子)に生命保険をかけることで、相続税を節税できます。子や孫の生命保険料を被相続人(父母や祖父母)が払っている場合、相続時の生命保険金への相続評価額は、解約返戻金の額面となります。
そのため、保険料の支払期間中は解約返戻金の額面が低くなる生命保険を選んでおくことが重要です。支払期間中に相続が発生した場合は、低い額面が相続財産として評価され、節税できます。
方法⑧:小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、一定面積以下の事業用・居住用宅地への評価額が最大80%軽減される特例です。被相続人が亡くなった後も、相続人が事業を継続したり住宅に住み続けられるよう、配慮されています。
不動産を複数所有している場合に、小規模宅地等の特例の対象となる不動産を生前贈与すると、本特例の節税メリットを失う可能性があります。そのため、所有不動産に関して情報を整理し、本特例が適用可能か判断をしておくことが必要です。
適用対象者や要件が複雑な特例ですが、大きな節税が期待できます。判断が難しい場合は、ぜひ専門家にご相談ください。
参考:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
方法⑨:不動産の活用
不動産を活用すると相続財産の評価額を下げることができ、節税が可能になります。おもな活用方法は次の4つです。
- 現金を不動産に変えることで相続財産評価額を軽減
- 保有・購入不動産を賃貸にすることで不動産の評価額を軽減
- 借入金で高額不動産を購入することで相続財産評価額を軽減
- 2,500万円以下の収益物件を贈与し相続時精算課税制度で節税
ただし、不動産を活用した相続税節税方法には、不動産価格の変動や収益物件の利回り下落など、リスクも起こり得ます。不動産の活用は大きな節税も可能なので、リスクをふまえたうえで取り組むことをおすすめします。
方法⑩:養子縁組
相続税を節税するための方法として、養子縁組があります。養子を迎えて法定相続人を増やすことで、相続税の基礎控除額や生命保険金の非課税限度額が増やせます。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 生命保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数
基礎控除額が増えると、その分相続財産の評価額が下がるため、節税が可能です。また、生命保険金の非課税限度額が増えることで、生命保険金への課税が減らせます。ただし、養子を迎えると、他の相続人が納得せず「争続」になるおそれもある点に、注意が必要です。
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相続時にできる相続税節税方法4選
「生前にできる相続税対策を、何ひとつしなかった」と、がっかりしている人がいるかもしれません。しかし、相続時にできる節税方法が4つあります。4つの方法を上手に適用することで、節税が可能となります。
4つの方法はいずれも相続時に活用できますが、相続前に概要を知っておくと安心です。どの程度節税されるのかというシミュレーションができる上に、相続時も落ち着いて対処できます。
方法⑪:相続税の配偶者控除
相続税の配偶者控除は、正式名称を「配偶者の税額の軽減」という制度です。配偶者が相続した相続財産が、「1億6,000万円」「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか高いほうまで相続税が課されないという控除です。
大きな節税方法といえるでしょう。ただし、相続税の配偶者控除を適用して相続税が0円となった場合でも相続税の申告は必要なので、ご注意ください。
方法⑫:相続税の障害者控除
相続税の障害者控除は、正式には「障害者の税額控除」と呼ばれます。本控除の対象となる人は、次の3要件をすべて満たしていることが必要です。
- 相続(遺贈も含む)で財産を取得した人が法定相続人である
- 相続(遺贈も含む)で財産を取得したときに障害者である
- 相続(遺贈も含む)で財産を取得したときに日本国内に住所がある
控除額は、一般障害者と特別障害者(より障害が重い)で異なります。
- 一般障害者の控除額=(85歳ー相続開始時年齢)×10万円
- 特別障害者の控除額=(85歳ー相続開始時年齢)×20万円
なお、本控除額が相続税額よりも大きい(余ってしまった)場合は、その障害者の扶養義務者かつ相続人である人の相続税額に、余った控除分を適用できます。
方法⑬:相続税の未成年者控除
相続税の未成年控除は、「未成年者の税額控除」が正式名称である制度です。本控除を適用できるのは、次の3要件をすべて満たした人のみです。
- 相続(遺贈も含む)で財産を取得した人が法定相続人である
- 相続(遺贈も含む)で財産を取得したときに18歳未満である
- 相続(遺贈も含む)で財産を取得したときに日本国内に住所がある
未成年者控除額は、「(18ー相続開始時年齢)×10万円」で算出できます。なお、1年未満は1年として計算します。例えば、16歳10か月の場合は16歳となるため、控除額は(18ー16)×10万円=20万円です。
方法⑭:相続税の相次相続控除
相続税の相次相続控除は、10年以内に相続が相次いだ場合に2回目の相続人となる人が適用できる控除です。同一財産に対して課税が過重になることを避けた軽減措置です。本控除を適用するには、次の3要件をすべて満たす必要があります。
- 相次相続控除適用者が被相続人の法定相続人である
- 今回の相続開始前の10年以内に開始した相続で、被相続人が相続している
- 今回の相続開始前の10年以内に開始した相続時に、被相続人が相続税を課税されている
例えば、8年前に父が亡くなり、このたび母が亡くなった場合、8年前に母が相続税を課税していなければ相次相続控除は適用できません。また、遺言で財産を遺贈されていても相続人でない場合は、適用不可です。
相続税を節税する際の注意点
相続税の節税方法14選を解説しました。「全部活用すれば、大きく節税できるのでは」と思うかもしれません。しかし、相続税を節税する際には注意が必要です。
注意点について解説します。
自分に合う節税方法を選ぶ
自分に合う節税方法を選んでいないと、節税にならない場合があるため注意が必要です。例えば、状況次第では「小規模宅地等の特例」と「相続時精算課税制度」をどう適用するかで節税効果が異なってきます。
また、父が亡くなった場合に母が「配偶者の税額の軽減」を使うべきか、2回目の相続時に「相次相続控除」を適用すべきかも、慎重な判断が必要です。
どの節税方法が適しているのかは個々の状況によって異なるため、他者の経験や事例だけを鵜呑みにせず、自分に合う節税方法を選びましょう。
場合によっては専門家の力を借りる
本記事で解説した相続税の節税方法14選は、自分で取り組めるものを紹介しました。しかし、場合によっては専門家の力を借りる必要も起こり得ます。
例えば、不動産を活用した節税方法は、独断で進めるよりは不動産投資の専門家に相談するほうが、より広い視野を得られるでしょう。また、相続の節税だけではなく必要書類作成においても、専門家に依頼したほうがスムーズにおこなえる場合があります。
相続税の節税や手続きが自分だけでは難しいと思った場合は、無理をせずに専門家に相談してみましょう。
まとめ:制度を活用して上手に相続税を節税しよう
相続税の概要と、生前にできる相続税の節税方法10選、相続時にできる相続税の節税方法4選、注意点を解説しました。家族が築いてくれた相続財産に、多額の相続税が課せられるのは望ましくないという人も多いでしょう。
しかし、税制において相続税の負担が重くなり過ぎないよう考慮された結果、相続税を軽減できる制度が数多くあります。自分の状況に合った制度を活用して、上手に相続税を節税してください。