「財産目録があると相続を円滑にすすめられる」と聞いたことのある人もいるのではないでしょうか。しかし、どのように財産目録を作成するのかわからない、そもそも財産目録とは何なのかと、とまどう場合も多いです。
そこで、本記事では財産目録の内容と作成理由、実際の作成方法をご紹介します。この記事を読み終える頃には、財産目録作成のメリットがわかり、自分でも作成できるようになっているでしょう。
財産目録とは?相続財産をまとめた一覧表
財産目録とは、相続が発生した場合の相続財産をまとめた一覧表を指します。現金や預貯金・不動産・有価証券など、故人の財産の種類・内容・価額を一覧にすることで、相続財産を把握できます。
相続目録には、現金や預貯金をはじめとするプラスの財産(資産)だけではなく、借金やローンといったマイナスの財産(負債)も一覧に記載します。定められた書式はありませんが、ひと目で相続財産の全体像をわかるように作成することが重要です。
財産目録って必要?だれが作るの?必須・任意の2パターンを紹介
「資産家でもないため、財産目録は必要ないのでは?」とお考えの人もいるかもしれません。しかし、相続財産の価額がいくらであれ、必ず財産目録を作らなければいけない場合もあります。作成が必須の場合と、任意の場合の2パターンをご紹介します。
遺言書があって遺言執行者が決められている場合は必須
故人が遺言書をのこしており、その遺言書に記載された内容を実行する遺言執行者が決められている場合、財産目録を作成しなければいけません。民法によって、遺言執行者が遅延なく財産目録を作成して相続人に交付することを義務付けられているからです。
もし遺言執行者が財産目録を作成しなければ、解任請求を受ける場合もあります。
遺言執行者が決められていない場合は任意
作成をするか否かは任意です。しかし、相続財産がそれほど多くなく相続人同士も争うことがないと思われる場合も、できれば作成したほうがよいでしょう。
簡易的な財産目録でも、作っておくとさまざまな手続きが円滑にすすみます。この場合は作成者も任意です。相続人のなかで信頼性遺言執行者が決められていない場合は、財産目録を作成する法的義務はありません。知識が豊富な人が作成を行うと、相続人同士で納得しやすくトラブルを避けやすいでしょう。
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なぜ作るの?財産目録を作成するメリット5つ
「財産目録作成が任意なら作成する必要があるのか?」と疑問をもつ人もいるかもしれません。実は、財産目録を作成するとさまざまな利点が得られるのです。
財産目録を作成する5つのメリットを挙げます。
- 財産の全体像がわかる
- 相続放棄の判断材料になる
- 争いのない円満な遺産分割ができる
- 遺言書や遺産分割協議書をスムーズに作成できる
- 相続税申告の手続きが簡単になる
財産目録を作成するだけで、これだけのメリットを享受できます。以下でそれぞれのメリットについて紹介します。
①財産の全体像がわかって相続税対策ができる
遺産相続したときには、相続税はできるだけ低くおさえたいものです。相続税対策をたてるためには、まず財産の全体像とその価額を知っておく必要があります。
財産といっても、プラスの財産とマイナスの財産の2つに大別できます。
プラスの財産の例
財産の種類 | 内容 |
---|---|
不動産(土地・建物) | 宅地、農地、貸地、自宅、店舗、貸家 |
金融資産 | 現金、預貯金、株式や債券等有価証券、投資信託 |
家庭用財産 | 家具、家庭用品 |
その他の財産 | 自動車、貴金属、骨とう品、生命保険に関する権利、ゴルフ場会員権、著作権 |
マイナスの財産の例
財産の種類 | 内容 |
---|---|
借入金 | 住宅ローン、自動車ローン、カードローン |
連帯債務 | 連帯保証人の地位 |
税金 | 滞納している税金 |
プラスの財産とマイナスの財産をあわせて見ることで、相続税対策をより効果的にすすめられます。そのためにも、財産を一覧でまとめた財産目録を作成しておくと便利です。
②相続放棄の判断材料になる
プラスの財産とマイナスの財産をまとめて一覧にすることによって、マイナスの相続財産のほうが多いと気づく場合もあります。マイナスの財産が多い場合、相続放棄をすることで債務を相続せずに済みます。
相続財産内容を確認せず、現金や預貯金を相続してしまうと相続放棄はできません。あとから多額の借金の存在がわかった場合、その債務を負う必要があります。このような危機を回避するためにも、財産目録を作成しておきましょう。
③争いのない円満な遺産分割ができる
相続でもっとも時間と手間がかかる手続きは、相続人同士の遺産分割ではないでしょうか。「だれが何をどれだけ相続するか」「そもそも遺産はどのくらいあるのか」といった内容は、議論の的になりがちです。
財産目録を作成し相続人全員に配布しておくことで、トラブルを回避しやすくなります。相続人全員が遺産の全容を把握・共有していると、疑心にかられることなくお互いに安心して遺産分割がおこなえます。「争続」を避けるためにも、具体的でわかりやすい財産目録を準備しましょう。
④遺言書や遺産分割協議書をスムーズに作成できる
生前に遺言書を作成する場合や、相続人全員の合意のもと遺産分割協議書を作成する場合に注意すべきポイントがあります。たとえば、預貯金の口座番号など遺産に関する情報を誤って記載していると、各種相続手続きに使えない場合があることに留意が必要です。
まず、財産目録を作成し、目録を見ながら遺言書や遺産分割協議書に記載していくと、誤記が発生しにくいでしょう。スムーズに相続をすすめるためにも、事前の財産目録作成を推奨します。
⑤相続税申告の手続きが簡単になる
財産目録を作成しておくと遺産の総額が把握できるため、相続税申告が必要かどうかが判断できます。相続財産のプラスマイナスの合計額が基礎控除額(※)を下回っていると、相続税申告は不要です。
相続税を申告する場合も、財産目録があることで手続きが簡単になります。相続税の申告書には財産一覧を記載する箇所があるため、財産目録があればそれを書き写すだけで済みます。
※相続税の基礎控除額(非課税枠)は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で求められます。
財産目録の作成方法って?書式例と注意したいポイント
財産目録作成のメリットについて理解していただけましたか。「実際どのように作成するのかわからない」と疑問をもつ人のために、財産目録の作成方法について解説します。
財産目録には、とくに決まった書き方はありません。財産調査の結果をわかりやすくまとめることが重要で、スタイルは自由です。しかし、自由といわれてもどのように作成するのか悩んでしまうでしょう。そこで、財産目録のフォーマットの例と作成ポイントを紹介します。
財産目録の作成ポイントは4点あります。
- 不動産は登記事項証明書の情報を記入する
- 現金・預貯金は口座ごとに記載する
- 株式・投資信託等は4つのうち低い評価額を記入する
- 負債は借金・葬儀費用を記載する
財産目録の書式例を確認しよう
前述のとおり、財産目録の書式は決まっていません。ただし、だれが見てもわかりやすいことが重要です。
法務局が公開している書式例を以下に示します。
このように、財産の種類ごとにまとめると何がどれだけあるのかが、ひと目でわかります。
作成のポイント①不動産は登記事項証明書の情報を記入しよう
不動産の情報として、所在地・面積・評価額を登記事項証明書(登記簿謄本)のとおりに記入してください。
また、土地の評価額については以下の4種類がある点にも注意が必要です。
- 固定資産評価額
- 相続税評価額(路線価)
- 公示価格
- 時価(実勢価格)
4種類の評価額のどれを使用するか明記しておくとわかりやすいでしょう。財産目録を遺産分割協議の資料に用いる場合は公示価格または時価(実勢価格)を、相続税申告に用いる場合は相続税評価額(路線価)を採用することが一般的です。
作成のポイント②現金・預貯金は口座ごとに記載しよう
現金・預貯金の一覧に関する注意点は、同じ金融機関で複数の口座を作っている場合があることです。そのため、銀行・支店・種類・口座番号を記入し、口座ごとに残高がわかるように記載します。
残高には、相続開始時すなわち故人が死亡した時点の金額を記載してください。定期性預金は元本とは別項目に死亡した時点の利息を記載します。
作成のポイント③株式・投資信託等は4つのうち低い評価額を記入しよう
株式・投資信託等の一覧には、証券会社・支店・銘柄・数量・評価額を記載します。評価額として、銘柄ごとに以下の4つのうちもっとも低い金額を適用できます。
- 相続があった日(死亡日)の終値
- 相続があった月の終値の平均価格
- 相続があった月の前月の終値の平均価格
- 相続があった月の前々月の終値の平均価格
相続財産の評価額が高くなるほど相続税も高くなります。株式・投資信託の種類が多いと手間がかかるかもしれませんが、それぞれの銘柄ごとに4つの価格のうちもっとも低い評価額を計算して、少しでも節税しましょう。
作成のポイント④負債は借金・葬儀費用を記載しよう
負債もマイナスの財産として、財産目録に記載する必要があります。負債の種類・債権者・ローン名・金額(残額)等を明記して、負債の全貌を明らかにしておきましょう。
葬儀費用を相続財産から支払う場合には、負債欄に記載してください。
まとめ:相続トラブルを避けるために財産目録作成を
本記事では、財産目録の基礎知識とメリット、作成方法を紹介しました。
財産目録を作成しておくとマイナスの財産も含めて財産の全体像がつかめるため、相続放棄の判断も的確におこなえます。また、相続人全員が財産の全容を知っていると、お互いに相続財産への疑念などをいだくこなとく円満に遺産分割できます。
メリットの多い財産目録。作成は自分でおこなえるので、ぜひ相続対策の一環として取り組んでみてください。