サラリーマンの場合、仕事関連の出費で自腹を切る場面も多いです。「自営業なら経費で落とせるのに」と、うらやましく思うこともあるでしょう。サラリーマンの経費を計上できる制度として「特定支出控除」があります。しかし、特定支出控除は適用しにくいとも言われています。
今回は、特定支出控除とは何かという説明と、特定支出控除の適用が難しい3つの理由、控除額の計算方法を紹介します。この記事を読むことで特定支出控除の仕組みや条件を理解し、利用できるかどうかを判断できるようになるでしょう。
特定支出控除とは
特定支出控除とは、仕事に必要な経費の自己負担が一定以上の場合に、所得から控除できる制度です。特定支出控除のおかげで、サラリーマンでも基準を満たした場合、使った経費に応じて税金を抑えることができます。
かつては特定支出控除の対象の要件は厳しく、利用できる人も少数でした。しかし、法改正によって対象となる経費の範囲が広がり、以前よりも多くの人が利用可能となっています。今まで自己負担が当たり前だと思っていた費用が、特定支出控除の対象になることで、節税につながるかもしれません。
ところが、「特定支出控除は実際には使えない」という声がよく聞かれるのも事実です。その理由について説明します。
特定支出控除の適用が難しい3つの理由
特定支出控除を実際に適用しようという場合に、次の3つのハードルがあります。
- 対象となる経費が自己負担になるケースが多くない
- 会社に自己負担の経費として認めてもらう必要がある
- 控除の適用金額の基準が高い
この3つの理由によって、特定支出控除の適用は難しいと言われています。言い換えると、3つのハードルをクリアすると、特定支出控除の適用は可能です。
特定支出控除の適用を難しくしている理由について、それぞれ解説します。
対象となる経費が自己負担になるケースが多くない
どのような経費が特定支出控除の対象として認定されているのか、国税庁のページから引用して紹介します。
- 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)
- 勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出(職務上の旅費)
- 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)
- 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)
- 職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)
※平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。- 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)
- 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)
- 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
- 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)
- 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)
※7の支出については、平成25年分以後、特定支出の対象となります。
通勤費をはじめとした特定支出控除の対象となる経費は、会社が負担するケースが多いため経費を自己負担することは、さほど多くありません。そのため、特定支出控除を現実的には使う機会がなく、結果として「特定支出控除は使えない」と言われるようになりました。
会社に自己負担の経費として認めてもらう必要がある
特定支出控除の対象となる経費を自己負担していた場合でも、「仕事に必要な経費を自分が払った」というだけでは認められません。
特定支出は、給与の支払者が証明した費用のみに限られています。つまり、特定支出控除を受けるためには、会社が自己負担の経費として認定する必要があります。
「スーツやビジネスシューズの費用も、衣服費に計上できるのでは?」疑問に思うかもしれません。実際には、「職務の遂行に直接必要」と断言できるかどうかは難しいです。
スーツやビジネスシューズが必要であっても、どの程度の金額が妥当かどうかという議論にもなり、会社側にとって判断がしづらいでしょう。オーダーメイドスーツ等高額なスーツはぜいたく品とみなされてしまう可能性もあります。
そのため、特定支出控除の適用は、なかなか行なわれていません。
控除の適用金額の基準が高い
特定支出控除の適用判定の基準となる金額は「その年の給与所得控除額×2分の1」とされています。基準となる金額を超えた金額を所得金額から差引くことで控除を受けることができるのです。
イメージは下記の図のとおりです。
ここで、給与所得額とそれに応じた給与所得控除額を確認しておきましょう。
表1:給与所得とそれに応じた給与所得控除額
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
~162万5,000円 | 55万円 |
162万5,001円~180万円 | 収入金額×40%ー10万円 |
180万1円~360万円 | 収入金額×30%+8万円 |
360万1円~660万円 | 収入金額×20%+44万円 |
660万1円~850万円 | 収入金額×10%+110万円 |
850万1円~ | 195万5,000円(上限) |
表1で算出した給与所得控除の半額が、特定支出控除の適用判定の基準となる金額です。さらに、表2では収入ごとに特定支出控除の適用判定の基準となる金額を計算しています。
表2:給与収入ごとの特定支出控除の対象金額
給与等の収入金額 | 特定支出控除の適用基準額 |
---|---|
400万円 | 62万円 |
500万円 | 72万円 |
600万円 | 82万円 |
700万円 | 90万円 |
800万円 | 95万円 |
850万1円~ | 97万7,500円 |
※国税庁「給与所得控除額」より作成
表からわかるように、たとえば年収500万円の場合、1年間に72万円以上の自己負担経費がないと、特定支出控除が認められません。1年間に72万円ということは、ひと月あたり6万円の経費支出です。
年収500万円で毎月6万円の経費を自己負担という事態は、なかなか起こり得ないのではないでしょうか。このように、特定支出控除の適用金額の設定が高額であることも、実際にサラリーマンが使うのには難しい理由です。
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特定支出控除の計算例
特定支出控除の適用は難しいですが、「自分は上記の条件を全部クリアしたから受けられる」という方もいらっしゃるでしょう。ここでは、特定支出控除の計算方法について具体例を用いて紹介します。
年収500万円のサラリーマンと仮定します。この場合、特定支出控除が適用される基準は72万円であり、72万円を超えた部分の自己負担経費が控除の対象です。
このサラリーマンの1年間の特定支出が92万円(衣服費15万円、通勤費15万円、研修12万円、資格取得費40万円、図書費10万円)のケースで考えます。
特定支出控除によって節税できる金額を試算した結果は以下の通りです。
- 特定支出控除の金額:92万円ー72万円=20万円
- 所得税の節税効果:20万円×10%=2万円
- 住民税の節税効果:20万円×10%=2万円
特定支出92万円から控除の基準金額の72万円を引いた、20万円が所得控除されます。年収500万円の場合、所得税率は10%なので、納める所得税が2万円少なくなります。
住民税についても見ていくと、住民税所得割の税率は一律10%であるため、住民税の納付額も2万円安くなります。
まとめ:特定支出控除は節税対策のメインとして考えないようにしよう
特定支出控除の概要と、特定支出控除の適用が難しい3つの理由、控除額の計算例をご紹介しました。医療関係や司法関係のお仕事で、セミナーや勉強会の参加費、参考書など書籍の購入費用が業務上大きな負担になる方にとっては活用できる制度といえるでしょう。
しかし、一般的なサラリーマンでは適用されるのが難しいうえ、節税効果もそこまで高いとはいえません。特定支出控除を節税対策のメインの手段にするのではなく、自分が適用できる場合は有効に使うという考えでとらえておきましょう。