奨学金にも、税金のような扶養控除制度があります。
奨学金の扶養控除とは、奨学金の返済が苦しいとき、(猶予の年収条件である)年収300万円を超えてしまっても救済制度を利用できることがある救済制度の一部です。
この記事を読むと、そもそも扶養とは何か、奨学金の返済が苦しいときに使える救済制度がどのようなもので、救済制度と扶養がどのように関係するのかがわかります。
学金を検討している人や、奨学金の返済に困っている人は、ぜひ参考にしてください。
なお、奨学金をもらうと親の扶養から外れて税金が上がるのかなど、税金関係の疑問には以下の記事で解説しています。
そもそも扶養とは?
そもそも扶養とは、税金における扶養と社会保険における扶養があり、いくつか異なる点があります。
以下に、それぞれの意味や扶養の対象となる収入要件などをまとめました。
税金の扶養 |
社会保険の扶養 |
|
意味 |
扶養控除対象親族 |
被扶養者 |
収入要件 |
合計所得金額48万円以下 (給与年収103万円以下) |
年収130万円未満かつ扶養者の年収の2分の1未満(※2) |
効果 |
扶養者の税金が抑えられる(※1) |
①健康保険料を支払わずに、健康保険の給付を受けられる ②年金保険料を支払わずに済む(被扶養配偶者)(※3) |
※1:扶養する人が扶養控除を受けられ、課税される所得を抑えられる
※2:60歳以上および障害厚生年金の受給要件程度の障害者は180万円未満
※3:サラリーマンや公務員など、第2号被保険者に扶養されている配偶者
税金では「扶養控除」のこと
税金面においては「扶養控除」という制度に関係しています。
扶養控除とは、家族の生活を養っている人の税金を抑える仕組みで、以下の要件を満たす親族を扶養している人は、年間33~63万円の扶養控除(所得税)を受けられます。
- 16歳以上で配偶者以外の親族(※1)
- 生計を一にしている(※2)
- 年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入103万円以下)
- 青色事業専従者や白色事業専従者ではない
※1:扶養されている16歳未満の親族は、年少扶養親族と呼ばれ、扶養控除の対象にはなりません
※2:別居していても、常に生活費等の送金が行われていれば生計を一にしていると認められます
参照:国税庁「No.1180 扶養控除」
参照:国税庁「No.1180 扶養控除 「生計を一にする」の意義」
例えば、親から扶養されている給与年収103万円以下の高校生や大学生は、扶養控除対象親族です。
なお、税金において「扶養に入る」とは、扶養している人が扶養していることを記載した「扶養控除等申告書」を、会社または税務署に「確定申告書」を提出し認められることを意味しています。その結果、扶養控除を受けられて税金を抑えることができるからです。
社会保険では「被扶養者」のこと
社会保険における扶養とは、「被扶養者」であるかどうかのことをいいます。
被扶養者であれば、健康保険料を支払わなくても、医療機関で窓口3割負担になるなど健康保険の給付を受けられます。また、サラリーマンや公務員など第2号被保険者に扶養されている配偶者(被扶養配偶者)は、年金保険料も支払う必要がありません。
奨学金の返済が苦しいときに使える2つの救済制度
ここまで「扶養」について解説してきましたが、実は、奨学金にも扶養が関係しています。まずは、奨学金の返済が苦しいときに使える2つの救済制度を確認しましょう。
- 減額返還:毎月の返済額を一定期間減らしてもらいながら返済をする
- 返還期限猶予(猶予年限特例):一定期間、返済を待ってもらう
ただし、以上2つの救済制度は誰でも利用できるわけではありません。救済制度を利用するための要件として、災害・傷病・失業・経済的な困難などがありますが、今回は主に経済的な困難を解説します。
なお、どちらの救済制度を利用しても、返済完了時期は遅れてしまいますが、利息が増えることはありません。
救済制度①返済額を減らして返済する減額返還
奨学金の減額返還とは、返済する額を減らしながら返済する救済制度です。具体的には、返済する額を2分の1か3分の1に減らすことができます。
収入要件 |
年収325万円以下(給与所得者) |
制度概要 |
・願出により、毎月の返済額を2分の1か3分の1に減らす ・減額返還をした期間は、当初の返済期間から延長して返済する |
適用期間 |
最長、通算15年間 |
参照:日本学生支援機構「2021年度貸与奨学生のしおり」(PDF)
救済制度②返済を待ってもらう返還期限猶予
奨学金の返還期限猶予とは、返済を待ってもらう(先送りにする)制度です。
収入要件 |
年収300万円以下(給与所得者) |
制度概要 |
・願出により、毎月の返済を先送りにする ・返還期限猶予を受けた期間は、当初の返済期間から延長して返済する |
適用期間 |
最長、通算10年間 |
参照:日本学生支援機構「2021年度貸与奨学生のしおり」(PDF)
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救済制度の収入基準を超える場合に使える特別控除とは?
奨学金の減額返還と返還期限猶予は、それぞれ年収325万円以下、年収300万円以下であることが利用条件でした。年収300万円以下であることが原則的な条件ですが、減額返還を願い出た場合は、25万円の控除が受けられることがあります。
ただし、この収入基準を超えても救済制度を利用できる場合があります。奨学金には、特別支出控除があるからです。
ここまで紹介してきた「扶養」は、この特別支出控除の1つに該当します。以降では、日本学生支援機構が用意している特別控除額表(※)をもとに、控除の内容を紹介します。
※参照:日本学生支援機構「年間収入が300万円(給与以外の所得を含む場合は年間所得200万円)を超える方のための控除計算表」(PDF)
参照:日本学生支援機構「収入基準を超える場合に認められる控除」
基礎控除(減額返還のみ)
税金の所得控除にも基礎控除がありますが、奨学金の特別控除のなかにも基礎控除があります。
控除額は一律25万円ですので、年収325万円以下なら減額返還の収入要件を満たすことが可能です。基礎控除が適用されるのは減額返還のみなので、返還期限猶予は年収300万円以下が収入要件となっています。
被扶養者控除
税金の扶養控除と同様に、奨学金にも被扶養者控除があります。
税金の扶養控除を受けている人は、奨学金の被扶養者控除を受けられます。被扶養者控除を適用するためには「市県民税課税証明書」の原本を提出する必要があります。
控除額は、所得税を計算するときの扶養控除の額(一般扶養親族)と同じ、1人につき38万円です。したがって、税法上の扶養控除対象親族がいれば、年収363万円以下で減額返還の収入要件を満たします。
被扶養者以外の親への援助費控除
税金では認められていませんが、奨学金では被扶養者以外の親への援助費も控除されます。ただし、援助する親の収入要件がある点に注意が必要です。以下の要件を超えると、控除は認められません。
- 同居の親:年収150万円以下
- 別居の親:年収230万円以下
控除額は、年間38万円を限度に実費分が認められます。申請する際は、援助を受ける親の所得証明書および住民票に加え、所定の生活費補助理由書を提出しなければなりません。
被扶養者以外の親族への援助費控除
先ほどは被扶養者以外の親への援助費についてでしたが、親への援助に加えて、被扶養者でない2親等以内の親族への援助費も控除が認められます。
ただし、以下の親族への援助や、親への援助が認められていない場合には控除が認められません。
- 父母と同居している親族
- 学生ではない兄弟姉妹
提出する書類は、被扶養者以外の親への援助費と同じです。ただし、学生である兄弟姉妹については学生証や在学証明書が必要となっています。
奨学生本人の医療費控除
税金にも医療費控除がありますが、奨学金にも医療費控除があります。ただし、税金の医療費控除とは条件が異なります。
奨学金の医療費控除が適用される条件は、本人の傷病により加療期間が6ヶ月以上ある必要があります。加療期間とは、治療を受けている期間のことで診断書に記載された期間です。入院の有無は関係ありません。控除額は1ヶ月8万円(年間96万円)が上限です。
控除の適用を受けるには、診断書や所定の医療費補助申告書などの提出が必要となっています。
被扶養者の医療費控除
奨学金では、本人の被扶養者にかかる医療費も控除が認められます。なお、この点は税金も同様ですが、社会保険における「被扶養者」も控除対象です。
被扶養者の医療費については、本人の傷病であり加療期間が2週間以上でなければいけません。控除額や必要書類は、本人の医療費控除と同じです。
返還期限猶予の猶予年限特例を受けるときの注意点
返還期限猶予には猶予年限特例というものがありますが、猶予年限特例を受けるときには、扶養に関する注意点があります。
猶予年限特例は、2017年度以降に第一種奨学金(利子なし)の貸与を受けて一定の収入を得るまで、通常10年の制限なしで返済を待ってもらえるという制度です。
対象者の奨学生証には、「猶予年限特例」と印字があります。
しかし、奨学生本人が「被扶養者」であるとき、以下「被扶養者の要件(※)」を満たさなければこの特例は受けられません。
- 乳幼児(満1歳未満)がいる世帯で、奨学生本人以外に保育する人がいないとき
- 介護が必要な人がいる世帯で、奨学生本人以外に介護する日人がいないとき
- 妊娠中であるとき
- 奨学生本人が障害等によって就労を制限されているとき
以上の「被扶養者の要件」を満たす場合は、事情書(※)を提出しなければなりません。
つまり正当な理由がなく働かずに扶養されている人は、特例が適用されず、通常の10年までしか返還期限猶予を待ってもらえないのです。
※参照:日本学生支援機構「奨学生本人が『被扶養者』である場合の事情書」(PDF)
まとめ:奨学金の返済に困ったら救済制度の利用を検討しましょう
今回紹介した奨学金の扶養は、減額返還と返還期限猶予を利用するには原則として年収300万円以下である必要がありますが、年収300万円を超えている人が受けられる特別支出控除に関係するものでした。
考え方は税金の扶養控除と近いもので、家族を扶養しているなら、その分負担は大きいため、年収300万円を超えていても奨学金の返済制度を利用できるというものです。
一方、猶予年限特例を利用するときは、本人が被扶養者であれば条件がつけられています。
もし奨学金の返済に困ったときは、年収が300万円を超えていても救済制度を受けられる場合があると覚えておきましょう。