不動産の購入や賃貸を行うことで相続対策ができることをご存じでしょうか。相続対策を検討している人の中には、「不動産を活用してどんな相続対策ができるの?」「不動産を活用するときの注意点は?」などと気になる人もいるでしょう。
本記事では、相続対策の中でもその大部分を占める、不動産を活用した相続税の節税対策について解説します。節税効果を高める方法や注意点も紹介するので、相続対策の一つとして検討してみましょう。
不動産を活用する目的は相続財産の評価額を下げること
相続対策として不動産を活用するのはなぜでしょう。
まず最初に、不動産を活用する目的と活用方法について説明します。
相続財産の評価額が下がれば相続税を節税できる
相続対策として不動産を活用する目的は、不動産を購入したり賃貸したりすることで相続財産の評価額を下げられるためです。評価額が下がれば、それに比例して相続税額も下がって節税できます。
また、相続税は累進課税であるため、税率が下がればさらに節税できます。一般的に不動産は高額なため、大きな節税効果が期待できます。
不動産を活用して相続税評価額を下げる4つの節税方法
不動産を活用して相続税評価額を下げる方法は主に次の4つです。
- 現金を不動産にして評価額を下げる
- 不動産を賃貸して不動産評価額を下げる
- 借入で不動産を購入して節税効果を高める
- 相続時精算課税制度を利用して節税効果を高める
主な相続財産を現金で保有する場合と不動産で保有する場合では節税対策が異なる場合があります。
具体的な節税方法を説明するので、自分に合った節税対策を検討しましょう。
節税方法①:現金を不動産にして評価額を下げる
節税方法の1つ目は、相続財産を現金で保有する人が不動産を購入して相続財産の評価額を下げる方法です。土地と建物の評価額の算出方法を説明します。
土地の評価額は20~30%下がる
相続税を計算するときの土地の評価方法は、「路線価方式」と「倍率方式」の2つです。路線価が定められている土地は路線価方式、定められていない土地は「倍率方式」を用いて評価します。
「路線価方式」は道路に面した標準的な宅地の1㎡(1平方メートル)当たりの価額で、一般的に実勢価格の70~80%程度です。現金で土地を購入することで、相続財産の評価額は20~30%下がります。
「倍率方式」は、固定資産税評価額に所定の倍率を掛けて評価額を算出する方法です。倍率については、国税庁HPの評価倍率表で確認できます。
建物の評価額は30~70%下がる
建物の評価額は、固定資産税評価額と同額です。新築物件の固定資産税評価額は建築費の7割程度ですが、建物が老朽化すると評価額は低下します。築年数や構造によって異なりますが、建物の評価額は建築費の30~70%程度です。
固定資産税評価額は、毎年4月頃に地方自治体から送付される「固定資産税の納税通知書」で確認できます。
節税方法②:不動産を賃貸して不動産評価額を下げる
節税方法の2つ目は、不動産を賃貸して不動産の評価額を下げる方法です。不動産を賃貸すると借りた人に借地権や借家権が発生し、所有者が不動産を自由に処分できなくなり評価額が下がります。
すでに不動産を保有している人も、新たに不動産を購入する人にも有効です。現金で不動産購入すると相続財産の評価額は下がりますが、賃貸によってさらに評価額を下げられます。
土地を賃貸すると評価額は30~90%下がる
土地を借りて家を建てた人には借地権が発生し、相続税の計算では土地評価額の30~90%の割合(「借地権割合」という)で評価されます。借地権割合は、国税庁HPの路線価図に記載されています。
つまり、貸した人が所有する土地の評価は借地権の分だけ減少します。
例えば、1億円で買った土地(路線価7,000万円、借地権割合30%)を貸した場合、借りた人の借地権は2,100万円(=7,000万円×0.3)、所有者の土地に対する評価額は4,900万円(=7,000万円-2,100万円)です。
現金1億円で土地を買って賃貸すると、相続財産の評価額は4,900万円まで減少します。所有者の土地は「土地の評価額×(1-借地権割合)」で評価されるため、土地の賃貸によって相続財産の評価額は30~90%下げられます。
建物を賃貸すると評価額は30%下がる
建物を借りた人には借家権が発生します。借家権割合は一律30%です。
土地を貸した場合と同様、貸した人の建物の評価は借家権の分だけ減少し、評価額は「建物の評価額×(1-借家権割合)」で計算されます。
そのため、建物の賃貸によって相続財産の評価額は30%下げられることになります。
アパートなどを建てた土地(貸家建付地)の評価額
アパートやマンションを建てた土地(「貸家建付地」という)には借地権や借家権が発生し、評価額は「土地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合)」で計算されます。
1億円の土地(路線価7,000万円、借地権割合50%)と1億円の建物(固定資産税評価額7,000万円、借地権割合30%)を購入し賃貸する場合、土地と建物の評価額は次の通りです。
- 土地:7,000万円×(1-0.5×0.3)=5,950万円
- 建物:7,000万円×(1-0.3)=4,900万円
現金2億円を使ってアパート経営することで、相続財産の評価額を9,150万円(=2億円-5,950万円-4,900万円)も下げたことになります。
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節税方法③:借入で不動産購入を購入して節税効果を高める
節税方法の3つ目は、借入で不動産を購入して節税効果を高める方法です。借入金を利用して高額の不動産を購入・賃貸することで、相続財産の評価額をより大きく下げられます。
例えば、1億円の不動産を購入して相続財産の評価額を3,000万円下げられると仮定すると、借入により2億円の不動産を購入すれば評価額を6,000万円も下げられることになります。借入を利用することで節税効果を高められるのです。
借入を利用するメリットや注意点について詳しく知りたい人は、次の記事を参照してください。
節税方法④:相続時精算課税制度を利用して節税効果を高める
最後に、相続時精算課税制度を利用して節税効果を高める方法を説明します。
相続時精算課税とは、生前贈与した財産には贈与税をかけず、相続発生時のほかの相続財産と合算して相続税を課すという制度です。制度利用の条件は、次の通りです。
- 贈与者は60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者は20歳以上の贈与者の直系卑属(子や孫)
- 贈与額は通算2,500万円(超過した場合は超過分に対して一律20%の贈与税がかかる)
贈与された財産は贈与時の時価で課税されるため、値上がりの見込まれる不動産を生前贈与することで不動産の評価額を下げることができます。
また、贈与後の不動産収入は子や孫が受け取るため、相続税の資金準備にも役立ちます。
不動産による節税対策の注意点
不動産を活用した節税対策について解説しましたが、不動産投資にはリスクもあります。次の4つの注意点について説明します。
- 不動産価格が下落すると損が出る
- 賃貸経営には空室リスクがある
- 賃貸経営の利益が借入利息を下回る可能性がある
- 相続時精算課税制度を利用しても節税にならないこともある
注意点①:不動産価格が下落すると損が出る
注意点の1つ目は、購入した土地や建物の価格が下がると損をすることです。不動産は投資額が大きくなるため、値下がりすると損失も大きくなります。相続税の節税額を上回る損失が出るようならせっかくの対策も無駄になります。
相続対策として不動産を購入する場合、地域の環境や発展性など将来の値動きに考慮した物件選びが重要です。
注意点②:賃貸経営には空室リスクがある
注意点の2つ目は、賃貸経営には空室リスクがあることです。賃貸物件を建てたり購入する費用は家賃収入で回収しますが、空室が増えると家賃収入が減って元が取れなくなる可能性もあります。立地が悪かったり、築年数が古い物件などは要注意です。
相続対策として賃貸経営を始める前に、長期的な収支計画をしっかりと立てましょう。
注意点③:賃貸経営の利益が借入利息を下回る可能性がある
注意点の3つ目は、借入して賃貸経営を行う場合、利益が借入利息を下回る可能性があることです。空室や家賃滞納などで十分な利益が得られなければ、借入金の返済が大きな負担になります。将来的にも、建物の老朽化などで収益アップは難しくなるでしょう。
借入によって節税効果を高める方法について前述しましたが、リスクも大きくなることを覚えておきましょう。
注意点④:相続時精算課税制度を利用しても節税にならないこともある
注意点の4つ目は、相続時精算課税制度を利用しても節税にならないケースもあることです。贈与時と相続時の不動産の価格が同じならば、相続税の評価額は減少しないためです。
不動産価格が下がった場合、相続財産が実勢価格より高く評価されるため、相続時精算課税によりかえって税金が増えることになります。
まとめ:リスクを考慮した上で、効果の大きい「不動産を活用した相続対策」の検討を!
不動産をうまく活用すれば、効果的な相続対策が期待できます。不動産を購入したり賃貸することで相続財産の評価額を下げられるためです。
また、借入や相続時精算課税制度を利用して節税効果を高める方法もあります。
ただし、不動産投資にはリスクもあるため注意が必要です。不動産の値下がりリスクや賃貸物件の空室リスクなどを慎重に考慮した上で、節税効果の高い不動産対策を検討しましょう。