不動産投資に興味がある個人事業主の方は多いのではないでしょうか。家賃収入があり、景気による影響を受けにくいことから、安定して利益を得られるというイメージを持っている方もいるかもしれません。
ここでは、個人事業主が不動産投資をする場合、法人化する場合のメリットとデメリットをまとめました。個人事業主がスムーズに不動産投資を始めたいときに役立つ、融資を受けやすくする3つのポイントについても解説します。
なお、サラリーマンの方で不動産投資を検討している方は、下記の記事をご覧ください。
目次
個人事業主でも不動産投資はできる
不動産投資ができるのは、資産家など資金に余裕がある人だけだと考えている人も多いかもしれませんが、個人事業主でも不動産を取得できれば不動産投資を始めることができます。
ただし、マンションやアパートなどの不動産を取得するにあたって、銀行からの融資を受けるケースが大半でしょう。個人事業主は正社員と比べて収入が不安定になりやすいため、融資を受ける段階でつまずきやすいのは事実です。
審査では、職業や年齢、年収のほか、返済能力などを見定めます。個人事業主で不動産投資に興味があるなら、まずは自分が融資を受けられるか否か調べることから始めましょう。
個人事業主が不動産投資をする3つのメリット
では、個人事業主が不動産投資をすることで得られるメリットについて解説します。
メリット①:本業と並行して続けやすい
不動産投資を行うとき、物件の管理は管理会社に委託するのが基本です。そのため本業に大きな支障をきたすことなく収入を得ることができます。
業種によっては、繁忙期がある方もいるでしょう。忙しくて不動産管理に手が回らなくても、管理会社に不動産関連の業務をすべて任せられます。
また、万が一本業の収入が少なくなったときにも収入源として不動産投資をしておけば、生活を維持することが可能です。
メリット②:不動産投資の費用を経費として計上できる
一定以上の収入がある個人事業主なら、毎年確定申告をしているはずです。不動産投資をしていると、投資にかかった諸費用を経費として計上できます。
不動産を所有しているとさまざまな税金や費用がかかります。固定資産税に火災や地震の保険料、物件の管理費、修繕費、さらにはローン金利まで、これらが経費として計上できれば大きな節税対策になります。
なお会社員の経験がある方の中には、福利厚生費が経費として認められたことがある方もいるのではないでしょうか。これはあくまで法人の場合のみで、個人事業主では福利厚生費は経費として認められません。
たとえば、スポーツジムの会費を福利厚生費として経費計上すると、税務調査が入るおそれがあることを覚えておきましょう。
メリット③:青色申告をすれば最大65万円の控除を受けられる
青色申告をすることが前提にはなりますが、個人事業主は不動産投資によって得た収入から最大65万円の控除を受けられる可能性があります。控除額は不動産の事業規模によって決まり、その基準は以下のとおりです。
- 一戸建て:5棟以上
- アパート、マンション:10室以上
上記の事業規模を満たしていれば55万円、満たしていなければ10万円が控除額になります。
そのほか、最大65万円の控除を受けるためには、正しい簿記で記帳しなければならない、e-tax(国税電子申告・納税システム)により確定申告を行わなければならないなどの条件があります。
個人事業主が不動産投資をする2つのデメリット
ここまでの内容では個人事業主と不動産投資は相性がよいように見えます。しかし、いくつかのデメリットもあるので覚えておきましょう。
デメリット①:金融機関からの融資を受けにくい
安定的な収入が望める会社員とは違い、個人事業主は収入が不安定になりやすいため、融資を受けにくい場合があります。
金融機関によっては厳しい審査基準が設けられていることもあります。会社員に比べて確認事項や提出書類が多いなど難易度は高めです。また、融資を受けられても会社員より融資金額が少ないケースもあります。
個人事業主が不動産投資をするにあたっては、ローン審査や融資金額の面でつまずき、希望どおりに不動産を取得できない可能性もあることを認識しておきましょう。
デメリット②:予期せぬ費用が発生することがある
不動産は購入したあとにもさまざまな費用がかかります。不動産の購入後にかかる主な費用は以下のとおりです。
- 定期的に行う修繕にかかる費用
- 火災や地震に備えて加入しておく保険料
- 年に一度支払う固定資産税
そのほか、自然災害によって不動産に不具合や破損が生じれば、予期せぬ出費が発生することもあるでしょう。
個人事業主で不動産投資をする場合は、想定外の事態に備えて修繕費や原状回復費を準備しておくことが必要です。
個人事業主が融資を受けやすくするための3つのポイント
個人事業主が融資を受けにくい場合があるものの、正しく対策すれば融資を受けやすくすることもできます。ここでは、個人事業主が融資を受ける際におさえたい3つのポイントを解説します。
ポイント①:貯蓄や資産を証明する資料を用意する
個人事業主が融資を受けにくい理由は、収入が不安定になりやすいという性質上、ローンの返済能力が低い可能性があると見なされるためです。しかし、自分の貯蓄や資産状況を資料にまとめ、金融機関に証明できれば融資を受けられる確率は上がります。
ローン審査を受ける際には、自分が保有している預貯金や株式投資、投資信託などの情報も添えて提出しましょう。
また、不動産の購入にあたっては、用意できる頭金が多いほどローン審査に通りやすくなります。
ポイント②:カードローンやクレジットカードを返済しておく
カードローンで借り入れをしていたり、クレジットカードのリボ払いやキャッシング枠を過度に利用していたりする場合、融資を断られたり減額される要因となります。滞納履歴がある場合も同様です。
期日が決められた支払いを滞納したことがあるという履歴は、金融機関から「あなたの返済能力に問題があるかもしれない」と見なされる大きな要因になります。
現時点で滞納している支払いがある場合、早めに返済を済ませましょう。なお、金融機関は現在の返済状況だけではなく、過去までさかのぼった履歴を確認します。
現在から過去も含めて、カードローンやクレジットカード、ほかには公共料金や税金などの滞納履歴がある場合は融資を受けにくくなることを覚悟しましょう。
ポイント③:過度な節税をしない
個人事業主が融資を受けるにあたっては、過去数年分の確定申告書の提出を求められることが多いです。
過去も含めて過度な節税対策をしている状況が確定申告書から見て取れる場合、金融機関から返済能力が低いと見なされ、融資を断られる場合があります。不動産投資を検討しているなら、数年単位で節税対策を見直したほうがよいでしょう。
節税対策を見直す際は、個人事業主の年収の定義に注意が必要です。会社員であれば、税金などを差し引く前の額面金額を年収としますが、個人事業主は売上から経費を引いた収入を年収として扱います。
そのため、仮に300万円の売上があっても、過度な節税対策により200万円の経費を計上していれば個人事業主の年収は100万円です。
金融機関からローンを返済できないと判断されないように、適度な節税対策を心がけましょう。
法人化について
不動産投資では、自分が直接物件を購入する方法以外に、自分が株主である法人を設立し法人名義で物件を所有する方法もあります。法人化すると税金面の優遇を受けられる場合があるので、特に不動産投資の規模拡大を考えている人には大きなメリットといえるでしょう。
その一方で、法人設立や既に持っている不動産の法人への移転には、手続き等の手間に加えて登記などに必要な諸費がかかるなど、法人化に伴って生じる問題もあります。そのため、副業で不動産投資をしている人が法人化を行うべきかどうかは、慎重に見定めなければなりません。
法人化するメリット
法人化するメリットの代表的なものは下記の2つです。
- 相続税や贈与税が課されない
- 計上できる費用の種類が個人事業主より多い
それぞれ説明いたします。
法人化のメリット①:相続税や贈与税が課されない
法人税は所得税(住民税含む)と比較して、最高税率が低いです。具体的には、所得税の最高税率は、住民税と合わせて約55%になりますが、法人税は約29%です。
また、所得税の税率は累進課税制度が採用されており、所得が少額の場合は適用される税率は低くなりますが、所得が多くなるにしたがい、適用される税率は高くなります。そのため、不動産所得が少ない場合は法人化するメリットが小さいですが、所得が多くなってきた場合、税金面でのメリットが大きくなります。
法人税の税率は法人の区分により、所得税は個人の年収によって異なります。おおむね、課税所得金額が900万円を超えると、所得税率が法人税率と同程度以上となるため、法人化することで節税のメリットが発生します。
参考:国税庁「法人税の税率」の普通法人
参考:国税庁「所得税の税率」
所得税の計算方法については、下記の記事もご覧ください。
法人化のメリット②:計上費用の種類が個人事業主より多い
個人事業主が加入している生命保険は経費にできませんが、法人化して、保険の契約者を法人、受取人を役員にすることで保険料を経費として計上することが可能になります。
その他、福利厚生費とすることで、スポーツジムの会費や、投資一般に関する書籍代なども必要経費として認められる可能性があります。
法人化するデメリット
法人化するメリットの代表的なものは下記の2つです。
- 手続きが複雑である
- 法人化すると団信が使えない
それぞれ説明いたします。
法人化のデメリット①:手続きが複雑である
所得税・住民税でメリットが得られるとしても、法人化することで新たに発生する費用負担を上回るメリットが生まれるかどうかを、きちんと検討することが必要です。
法人設立のためには、登記などで約25万~30万円の費用が発生し、黒字か赤字かに関係なく年間で最低7万円(資本金1,000万円以下従業員50人以下の場合)の法人住民税が発生します。
法人化に要した初期費用を長期的に回収することができるか、事前に検討することが大切です。
法人化のデメリット②:法人化すると団体信用生命保険が使えない
団体信用生命保険(以降、団信)は、がん・人工透析・転倒事故などの病気・事故のため死亡したり、障害によって働くことが困難になった際、住宅ローン残高が0円となる仕組みの保険です。
個人事業主の場合、年収要件など一定の要件を満たすことで、団信に加入することができますが、法人は原則、団信に加入することができません。
まとめ:不動産投資における個人事業主と法人化のメリットデメリットを理解しよう
本業の収入が不安定になりやすい個人事業主の場合、安定収入を得る手段として不動産投資を考えることも多いでしょう。しかし、個人事業主だと融資が受けにくい、災害などで思わぬ出費がかさむ可能性があるという懸念点もあります。
一方で、法人化すると融資を受けやすい、税金や経費面での負担軽減メリットはありますが、法人化に要する手続きや費用の負担というデメリットもあります。
それぞれのメリット、デメリットを考慮した上で、不動産投資に興味がある個人事業主の方は、ぜひご自身の資産状況など確認しながら前向きに検討してみてください。