不動産所得が赤字になった場合、給与など特定の所得から赤字分を差し引いて所得税が減額される損益通算の仕組みをご存知ですか?
副業として不動産投資するサラリーマンなどの中には「損益通算って何?」「損益通算でどれぐらい節税できる?」など疑問を抱く人もいるでしょう。
今回の記事では、不動産所得の損益通算について解説します。不動産所得や節税額の計算方法についても紹介しますので、損益通算の活用を検討してみましょう。
損益通算による節税の仕組み
損益通算とは、複数の所得について黒字の所得と赤字の所得がある場合、黒字から赤字を差し引いて所得税を計算することで支払う税金を安くする仕組みのことです。
ただし、すべての所得で損益通算を使えるわけではないため、所得税の課税方法と損益通算が使える所得について詳しく説明します。
損益通算によって課税される所得を下げる
所得の種類は給与所得や不動産所得など全部で10種類あります。ここで、所得税の課税方法は所得の種類によって「総合課税」と「分離課税」に区分されます。なお、不動産所得とは家賃など所有する不動産を活用して得たもので、不動産の売買による所得(譲渡所得に該当)は含みません。
(総合課税と分離課税):
課税方法 | 対象となる所得 | |
---|---|---|
総合課税 | 各種所得を合計した総所得に対して税率をかけて計算 | ・利子所得 ・配当所得 ・不動産所得 ・事業所得 ・給与所得 ・譲渡所得(※) ・一時所得 ・雑所得 |
分離課税 | 他の所得とは合計せずに単独で税金を計算 | ・山林所得 ・退職所得 ・譲渡所得(※) |
※土地や建物を譲渡したときの所得は「分離課税」、土地・建物以外を譲渡したときの所得は「総合課税」と区分されます。
参考:国税庁「No.2220 総合課税制度」
参考:国税庁「No.2240 申告分離課税制度」
10種類の所得のうち、不動産所得など特定の所得が赤字になった場合、損益通算して他の所得から赤字分を差し引くことによって課税される所得金額を下げることが可能です。
たとえば、サラリーマンが副業で不動産投資をする場合、不動産所得が赤字ならば給与所得から赤字分を差し引けるため、確定申告によって税金の還付を受けられます。
損益通算できる所得
損益通算できる所得(赤字を差し引ける所得)は次の4つのみです。
- 不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得(土地・建物の譲渡、土地・建物以外の譲渡の両方)
- 山林所得
不動産所得などが赤字になった場合、総所得(総合課税される所得の合計)や分離課税される所得(山林所得、退職所得など)から赤字分を差し引けるため、損益通算できない場合と比較して所得税を抑えられます。
損益通算できない所得
損益通算できない所得(赤字を差し引けない所得)は次の通りです。
- 総合課税される所得:利子所得、配当所得、給与所得、一時所得、雑所得
- 分離課税される所得:退職所得
例えば、「貯蓄型の生命保険が満期になったが、満期金が払込保険料を下回った(一時所得の赤字)」「副業したが経費が収入を上回った(雑所得の赤字)」などのケースでは、赤字分を他の所得と損益通算できません。
ただし、同じ種類の所得間ならば損益通算が可能です。雑所得となる複数の副業があり、一方が黒字で他方が赤字の場合、赤字分を差し引いて雑所得を計算します。
不動産所得の計算方法
不動産投資している人が損益通算を活用するには、不動産所得が黒字か赤字かを確認しなければなりません。次は、不動産所得の計算方法を説明します。
不動産所得は収入から必要経費を引いて計算
不動産所得は、「不動産収入」から不動産所得を得るために要する「必要経費」を差し引いた金額です。
- 不動産所得=不動産収入-必要経費
銀行からお金を借りて建てた建物を賃貸する場合、家賃などの収入の合計が「不動産収入」、建物を維持・管理する費用などが「必要経費」となります。
不動産所得の必要経費となる費用
不動産所得の必要経費となる費用は、次の通りです。
- 減価償却費
- 建物の修繕費や管理費
- 固定資産税
- 火災保険などの損害保険料
- 借入金(建物の建設費用)の利息 など
減価償却費は、耐用年数や償却率を用いて所得税法で定める方法によって計算します。詳細は国税庁のHPで確認下さい。減価償却費のほか、不動産を維持・管理するのに要する費用が必要経費です。
参考:国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
不動産所得の減価償却についてより詳しく知りたい人は、次の記事をご覧ください。
不動産所得の損失に該当しない費用
次に、不動産所得の損失に該当しない費用(損益通算できない費用や損失)について説明します。
該当しない費用は、次の通りです。
- 別荘など主に趣味や保養などを目的に所有する不動産の借入金の利息
- 土地を取得するために要した借入金の利息
- 組合事業や信託から生じる不動産所得がある人が、その事業で受けた損失
- 国外中古建物から生じる不動産所得がある人が、その物件で受けた損失 など
特に注意したいのが、「土地取得の借入金利子」の取扱いです。建物の借入金利息は必要経費となるのに対し、土地の借入金利息は必要経費になりません。
参考:国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
不動産所得の計算例
不動産所得の計算方法について説明しましたが、具体例を用いて計算してみましょう。1月1日に土地や建物を全額借入で購入し賃貸した結果、1年間の収入や支出を次の通りと仮定して試算します。
- 賃貸による収入:1,000万円
- 土地の購入費用:4,000万円(借入金利息120万円・年利3%)
- 建物の購入費用:8,000万円(借入金利息240万円・年利3%)
- 建物の減価償却費:300万円
- その他の必要経費:500万円
不動産収入は「賃貸収入」、必要経費は「建物購入の借入金利息」と「建物の減価償却費」、「その他の必要経費」の合計金額です。「土地・建物の購入費用」や「土地購入の借入金利息」は、必要経費にはなりません。不動産所得の計算は次の通りです。
不動産所得=不動産収入(1,000万円)-必要経費(240万円+300万円+500万円)
=▲40万円
上記ケースでは、不動産所得は40万円の赤字です。実際の支出は860万円(土地・建物の借入金利息+その他の必要経費)でキャッシュフローは黒字ですが、減価償却費を計上することで不動産所得は赤字になりました。
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不動産所得の損益通算による節税額の計算手順
不動産所得の計算方法を理解したら、次は所得税の計算です。不動産所得の損益通算によっていくら節税できるかを試算してみましょう。
手順①:不動産所得を計算
まず最初に、前述の通り、不動産所得を計算します。複数の不動産物件を所有している場合は、不動産収入の総額から必要経費の総額を差し引いて不動産所得を算出します。
不動産物件ごとに所得を計算して、最後に各所得を計算しても結果は同じです。赤字の物件と黒字の物件がある場合、黒字の所得から赤字分を差し引いた金額(不動産所得間の損益通算)が不動産所得です。
手順②:総所得金額を計算
次は、「総所得金額」を計算します。不動産所得は総合課税になるため、給与所得など総合課税の対象となる各所得と合算して総所得金額を算出します。
給与所得が1,500万円、不動産所得が300万円、ほかに所得がない場合、総所得金額は1,800万円です。不動産所得が300万円の赤字なら、損益通算して総所得金額は1,200万円になり、所得が下がった分、所得税は安くなります。
手順③:所得控除後に所得税率をかけて計算
最後に、総所得金額から基礎控除などの「所得控除」を差し引いて「課税所得金額」を計算し、所得税率を掛けて所得税額を計算します。
- 課税所得金額=総所得金額-各所得控除
- 所得税額=課税所得金額×所得税率-各税額控除(※)
※寄附金控除(ふるさと納税など)や住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税)など、課税所得 金額に税率を掛けて算出した所得税額から控除するものです。
不動産所得が100万円の赤字、所得税率が20%(課税所得金額695万円~899万9,000円)の場合、不動産投資をしていない場合と比較して20万円(=100万円×20%)も節税できたことになります。不動産所得の赤字が多い人や所得が多く税率が高い人ほど、不動産所得の損益通算によるメリットは大きくなります。
所得税の計算方法についてより詳しく調べたい人は、次の記事を参照下さい。
不動産所得の損益通算に関する注意点
不動産所得の損益通算を活用した節税を検討している人が、注意すべき点について説明します。期待したほどの節税効果が得られなかったり、面倒な手続きが必要になるケースもあるからです。
注意点①:土地利息が高額の場合、節税効果が小さい
注意点の1つ目は、土地利息が高額の場合、節税効果が薄いことです。土地利息が増えるとキャッシュフローは赤字になりやすくなりますが、必要経費に計上できないため不動産所得は減りません。節税効果を高めるには、不動産所得の赤字を増やす必要があります。
具体例として前述の「不動産所得の計算例」の土地と建物の取得費用を入れ替えて試算します。
- 賃貸による収入:1,000万円
- 土地の購入費用:8,000万円(借入金利息240万円・年利3%)
- 建物の購入費用:4,000万円(借入金利息120万円・年利3%)
- 建物の減価償却費:150万円
- その他の必要経費:500万円
建物の購入費用に合わせて減価償却費も減らして不動産所得を試算すると次の通りです。
不動産所得=不動産収入(1,000万円)-必要経費(120万円+150万円+500万円)
=230万円
実際のキャッシュフローは同じでも、不動産所得は40万円の赤字から230万円の黒字になり所得税は不動産投資によって増えることになります。
土地と建物の両方を借入で購入する場合、土地費用の割合が高いと必要経費にならない土地の借入金利息が高額になる一方、必要経費になる建物の借入金利息や減価償却費が減少します。節税効果を期待して不動産投資をする人は覚えておきましょう。
注意点②:給与所得等が低ければ節税にならないこともある
注意点の2つ目は、給与所得等が低ければ節税にならない(節税効果が低くなる)可能性もあることです。不動産所得の損益通算のメリットは給与所得や事業所得などにかかる所得税を減らすことですが、そもそも所得が低く所得税のかからない人には節税メリットはありません。
損益通算による節税メリットが大きいのは、収入が多く多額の所得税を支払っている人です。たとえば、課税所得金額が1,000万円(所得税率33%)の人と180万円(所得税率5%)の人を比較すると、不動産所得の赤字が50万円の場合の節税額は次の通り大きく異なります。
- 課税所得金額が1,000万円の人:50万円×33%=16.5万円
- 課税所得金額が180万円の人:50万円×5%=2.5万円
注意点③:損益通算するには確定申告が必要
注意点の3つ目は、損益通算するには確定申告が必要であることです。給与所得者の中には年末調整だけで確定申告が不要な人も多いですが、複数の所得を合算して所得税を計算するには確定申告が必要です。
初めて確定申告をする場合、面倒である、難しいと感じる人も多いかもしれません。また、不動産所得の減価償却費や必要経費の計算も必要で、専門家に依頼する場合は費用も必要となります。
まとめ:不動産投資を検討するときは損益通算による節税メリットも考慮する
損益通算とは、複数の所得がある場合、黒字の所得から赤字の所得を差し引いて所得税を計算することで支払う税金を安くする仕組みのことです。不動産所得が赤字の場合、損益通算によって給与所得や事業所得にかかる所得税を抑えることも可能です。
不動産所得は、不動産収入から必要経費を差し引いて算出します。必要経費に計上できる費用と減価償却の仕組みを理解すれば、不動産所得は自分で概算できます。不動産投資を検討している人は、節税メリットも考慮して投資の可否を判断しましょう。