中古マンション購入を検討している人にとって気になるのが、「建物がどのくらい持つのか」という問題ではないでしょうか。そのために知っておきたいのが建物の耐用年数 と寿命についてです。
この記事では、中古マンションへの投資を検討している人に向けて、建物の耐用年数とは何かを始め、マンションの耐用年数と寿命の違いについて解説します。建物が寿命を全うできないケースや耐用年数に影響する要素、減価償却についても説明するので、不動産投資のプラン作成に役立ててください。
中古マンション購入時(投資時)に気になる建物の「耐用年数」とは?
一口に耐用年数といっても、実はその定義はさまざまです。そこでここでは、中古マンション購入時に気になるマンションの耐用年数に関するさまざまなデータを紹介します。
先に結論をまとめておくと、マンションの寿命は約70年で、実際には約40年で建替えが行われています。その他、会計・税務上利用されるマンション(鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート造)の法定耐用年数は、47年です。
物理的寿命(物理的耐用年数)
建物の減耗度と実際の使用年数との関係が調べられたことがあります。飯塚裕「建築の維持管理」によると、鉄筋コンクリート造建物の物理的寿命は117年と推定されました。
構造体の効用持続年数
コンクリートの中性化速度から算定した鉄筋コンクリートの効用持続年数(耐用年数)は、120年とされています。(大蔵省主税局報告)
なおコンクリートの中性化とは、強アルカリ性のコンクリートが二酸化炭素の侵入により中性化(pH値の低下)してしまう現象です。コンクリートが中性化すると腐食しやすくなることから、ひび割れを始め耐久性能や耐荷性能が低下してしまいます。
外装仕上げによれば、効用持続年数(耐用年数)を120年から150年に延命できることも示されています。
中古マンションの平均寿命
固定資産台帳の滅失データをもとに、区間残存率推計法を用いて家屋の平均寿命(残存率50%となる期間)を推計した結果によると、鉄筋コンクリート(RC)系住宅の平均寿命は68年という調査結果でした。
なおこの推計方法は人間の寿命推計を住宅に応用したものです。参考程度ですが、人間の寿命の場合は寿命中位数と呼ばれており、令和2年においては男84.58年、女90.53年となっています。
厚生労働省「令和2年簡易生命表の概況」(PDF)
生命表上で、出生者のうちちょうど半数が生存すると期待される年数を寿命中位数といい、令和2年においては、男 84.58 年、女 90.53 年となっている。
中古マンションの建替年数(経済的耐用年数)
不動産専門データ会社の「東京カンテイ」が2014年に公表した調査結果によると、マンションが新築されてから建替えられるまでの年数は30年以上40年未満が36.5%と多い結果となりました。全国平均では33.4年で、東京都だけ見ると40.0年です。
なおこの調査は調査母数が建替え物件であること、すなわち建替えられていない物件は含まれていないことに注意する必要があります。
税法上の法定耐用年数
税法では、マンションの耐用年数を構造や用途、種類によって定めています。
税法上の耐用年数は法定耐用年数と呼ばれ、経年劣化によって失われる資産の価値を費用として配分する手続き(減価償却)に必要な年数です。減価償却や減価償却費の計算方法について詳しくは後述します。
新築の場合、法定耐用年数は木造・合成樹脂の住宅は22年、木造モルタル造の住宅なら20年です。鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の住宅は47年、れんが造・石造・ブロック造の住宅は38年と設定されています。
マンションは通常、鉄筋コンクリート造(RC造)または鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)なので、法定耐用年数は47年であるのが一般的です。
建物構造 | 骨格材肉厚 | 法定耐用年数 | 定額法償却率 |
---|---|---|---|
鉄骨鉄筋コンクリート造鉄筋コンクリート造 | 47年 | 0.022 | |
れんが造石造ブロック造 | 38年 | 0.027 | |
金属造 | 骨格材肉厚4mm超え | 34年 | 0.030 |
金属造 | 骨格材肉厚3mm超え4mm以下 | 27年 | 0.038 |
金属造 | 骨格材肉厚3mm以下 | 19年 | 0.053 |
木造合成樹脂造 | 22年 | 0.046 | |
木骨モルタル造 | 20年 | 0.050 |
※用途はすべて住宅用の場合
参照:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」(PDF)
参照:国税庁「減価償却資産の償却率等表」(PDF)
なお土地は減価償却資産ではないことから、法定耐用年数は定められていません。
法定耐用年数と実際のマンション寿命は異なる?
耐用年数はマンションに実際に住める年数を示すわけではありません。耐用年数を過ぎても住むことは可能です。
というのも、税法で定められた法定耐用年数と経済的耐用年数は意義が異なるからです。それぞれの違いを以下に簡単にまとめます。
法定耐用年数と経済的耐用年数の違い
- 法定耐用年数:財務省令で決められた年数で、減価償却費の計算などに用いるもの
- 経済的耐用年数:物理的・機能的・経済的要因を総合的に勘案して算出した年数
例えば、マンションの法定耐用年数は47年であるのに対し、先ほど紹介した中古マンションの平均寿命は68年でした。一方、建替え年数は全国平均で33.4年と法定耐用年数よりも短い結果が出ています。
このように、マンションの実際の寿命と法定耐用年数は必ずしも一致するわけではありません。
なお耐用年数と似た言葉に耐久年数がありますが、これはメーカーなどが独自に公表している「利用可能な年数の目安」です。
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中古マンションの耐用年数(寿命)に影響する要素
ここでは、中古マンションの耐用年数(寿命)に影響する要素を具体的に紹介します。
立地
中古マンションの耐用年数(寿命)に影響する要素
・立地条件
・住宅設備などの「経年劣化」
・再開発や区画整理など「経済上・行政上の理由」
・耐震基準(建築年)
・管理状態
立地条件
マンションが日当たりの悪い場所に立っていると、カビやこけが生えやすくなります。逆に、日当たりが良すぎると雨風や紫外線によるダメージを受けやすくなり、壁や屋上などが傷む原因となります。海が近ければ、塩害によって金属が腐食しやすくなるでしょう。
マンションの立地条件はさまざまで、一長一短があります。まったくリスクのない立地はないため、それぞれの条件に応じた適切な管理体制や修繕工事計画があるかどうかが、物件選びのポイントです。
住宅設備などの「経年」による影響
マンション本体の耐用年数は長くても、建物設備の耐用年数は短めなので、経年劣化は避けられません。メンテナンスをせずに放置していると、屋上や外壁などに亀裂が入って腐食が進んでしまうこともあるでしょう。
定期的な修繕・大規模修繕工事をしていれば寿命は伸ばせますが、その計画を立てるのは管理会社や管理組合です。つまり、管理体制の良し悪しで、経年劣化の程度が大きく変わってきます。
再開発や区画整理など「経済上・行政上の理由」
中古マンションが再開発や区画整理の対象になり、寿命を全うできなくなる可能性についても考慮しなくてはなりません。建物自体はまだ使用できる状態でも、経済活動上等の理由から取り壊しが決まる場合もあるのです。
たとえば、取り壊して新しい施設を立て直したほうが収益化が見込めると判断された場合が該当します。また、マンションの老朽化によって地震や火災による被害のリスクが高まり、安全性が担保できなくなった場合にも取り壊される可能性があります。
耐震基準(建築年)
建物の耐震性を定めた建築基準法は1981年に改正されました。改正後に建てられたマンションは新耐震基準を満たしており、震度6強~7程度の地震でも倒壊しないようになっています。一方、改正前の建物はこのクラスの大地震を想定していません。
旧耐震基準のマンションに使われている材料や施工方法は、新耐震基準のものとは異なります。そのため、耐震改修工事を施したとしても、新耐震基準と同等の耐震性が確保できないケースもあるのです。
改修工事にはマンション住民の合意を得られない場合も多く、大規模地震が発生すると致命的なダメージを受けてしまう可能性もあります。
マンションの耐震性能(構造の安定)を確認するためには、住宅性能表示制度を利用するのも1つの手です。x
等級1 | 極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震の1.5倍の力に対して倒壊、崩壊等しない程度 |
等級2 | 極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震の1.25倍の力に対して倒壊、崩壊等しない程度 |
等級3 | 極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震の力に対して倒壊、崩壊等しない程度 |
※その他、損傷の生じにくさから評価する耐震等級もあります。
管理状態
マンションの寿命を延ばすには、定期的なメンテナンスが不可欠です。実際、築40年を超えると漏水や雨漏り、給排水管の老朽化による漏水、外壁等の剥落などの問題を抱えているマンションも少なくありません。
長期修繕計画は90.9%の管理組合が作成していますが、1960~1970年代に建てられた物件のなかには、修繕計画そのものが策定されていないケースも多くあります。また、適切な修繕積立金額を設定しているマンションの割合は54%にとどまっているうえに、計画不足のマンションが34.8%もあるようです。
修繕工事を実施するためには、物件所有者から計画的に修繕積立金を集金して資金を準備しておかなければなりません。
しかし滞納する人も珍しくないため、管理組織の集金能力も問われる問題です。修繕できないままマンションの劣化が進んで空き室が増えると、修繕したくても十分な費用が集められないという悪循環に陥ることもあります。
中古マンションの耐用年数(寿命)が来たらどうすべき?
すでに保有しているマンションにあらゆる問題が出始めており、「建替えたほうが良いのでは」と思ったときはどうすれば良いのでしょうか。ここからは、国土交通省の「マンション管理・再生ポータルサイト」で挙げられている以下3つのマンション再生方法を紹介していきます。
マンションの再生方法
・修繕
・改修
・建替え(区分所有法・マンション建替え円滑化法)
・マンション敷地売却
対応方法①修繕・改修
再生方法の1つとしてまず挙げられるのが、修繕や改修です。端的に言えば建替えない判断といえます。建替えか修繕かの判断については、国土交通省がマニュアルを用意していますので目を通しておくと良いでしょう。
なお、修繕や改修は区分所有者の4分3以上の同意が必要です。
参照:国土交通省「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」(PDF)
対応方法②区分所有法の建替え
修繕や改修ではなく、いっそのこと建替えてしまうという判断もあります。しかし建替えは区分所有者の5分の4以上の同意が必要であるうえ相当程度の費用もかかることから、そう簡単に合意形成ができるものでもありません。
対応方法③マンション建替円滑化法の建替え(容積率緩和特例)
マンション建替円滑化法に基づいて建替えを進めることもできます。マンション建替円滑化法に基づく建替えとは、建替え決議後に法人格を持つマンション建替組合を設立し、組合が主体となって権利変換手法によって建替えを進められる措置です。
マンション建替円滑化法に基づかない建替えでは、各区分所有者が任意・個別にデベロッパーに持分を売却して進めることになります。一方、マンション建替法に基づく建替えは個別ではなくマンション建替組合という法人格が主体となって建替えを進めることが大きな違いです。
その他、従来の建替えでは一時的に消滅していた抵当権や借家権など建物に関する権利を、消滅させず円滑に建替え後の新マンションなどに移行できる権利変換手法を利用できる点もメリットと言えます。
さらに、耐震性や火災安全性、外壁等剥落危険性などを理由に要除却認定を受けた場合、建替え後マンションは一定の要件のもとで容積率(延床面積/敷地面積)が緩和されます。
対応方法④マンション建替え円滑化法によるマンション敷地売却
本来、マンションの敷地を売却するためには区分所有者全員の同意が必要です。ところが、マンション建替え円滑化法に基づき前述した要除却認定を受けた場合、5分の4以上の同意でデベロッパーにマンションと敷地を一括で売却できるようになりました。
これにより、新築マンションに再入居するという選択肢だけでなく、マンション持分の現金化(金銭化)ができ、他の住宅に引越すことも可能になります。
減価償却とは?
減価償却とは、経年劣化によって失われる資産の価値を費用として配分する税制上の仕組みです。不動産投資で得る利益には税金がかかりますが、確定申告で減価償却費を経費として計上すれば節税できます。減価償却の対象は建物と建物設備のみで、土地は対象外です。
中古マンションを買ったら物件価格を土地と建物、建物設備に分ける必要があります。土地には消費税がかからないので、消費税から土地とそれ以外の部分に分けるのも1つの方法でしょう。建物本体と設備を区分するのが困難な場合は、建物に組み込んで計算することも可能です。
中古マンションの残存耐用年数の算出方法
中古マンションの耐用年数の算出方法を説明します。築年数が法定耐用年数を過ぎているかどうかで計算方法が変わります。
中古マンション残存耐用年数の計算①過ぎている場合仮に築50年の中古マンションを購入した場合、法定耐用年数は何年になるのでしょうか。
法定耐用年数の全部を経過している場合、法定耐用年数は20%に相当する年数とすることができます(簡便法)。具体的には、マンションの法定耐用年数は47年なので、その20%に相当する9.4年です。ただし1年未満の端数は切り捨てるので9年となります。
なお、建物設備の法定耐用年数は15年ですが、全部を経過している場合は15年の20%に相当する年数、つまり3年です。
中古マンション残存耐用年数の計算②一部経過している場合続いて、築30年のマンションを取得した場合も考えてみましょう。先ほど紹介した例のように、法定耐用年数の47年経過しているわけではありません。
このように、法定耐用年数を全部ではなく一部経過している場合は、次の式で求めます。
法定耐用年数の一部を経過している場合
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20% =法定耐用年数-経過年数×80%
仮に築30年のマンションの場合、法定耐用年数は23年(法定耐用年数47年-経過年数30年×80%)となります
減価償却の計算方法
減価償却費を求める計算式は下記の通りです。
- 減価償却費=取得価額×償却率
取得価額には、物件価格だけでなく仲介手数料や固定資産税、都市計画税の精算分も含みます。償却率は、国税庁の公式サイトにも記載されている「減価償却資産の償却率表」を使って求めましょう。
減価償却の方法には定額法と定率法という2種類がありますが、2016年4月1日以降に取得したマンションについては定額法のみが使えます。
先に取り上げた築30年のマンションを例にして減価償却費を算出してみましょう。償却率表から建物の償却率は0.044、建物設備は0.334とわかります。建物が4,000万円、建物設備が300万円だった場合の減価償却費は下記の通りです。
- 建物の減価償却費=4,000万円×0.044=176万円
- 建物設備の減価償却費=300万円×0.334=100.2万円
※参考:減価償却資産の償却率表|国税庁
まとめ:中古マンション投資時は耐用年数(寿命)に気をつけよう
中古マンションは耐用年数が比較的長く価格も手頃なので、不動産投資の対象として考える人も多いでしょう。しかし、その反面リスクもあるため、耐用年数に影響する要因や減価償却なども考慮しながら、しっかりした投資プランを作成することが大切です。