不動産投資では、「お金の流れ」にあたるキャッシュフローが重要です。不動産投資に限らず、キャッシュフローが悪化して黒字倒産に陥った企業は少なくありません。
この記事では、キャッシュフローの定義と重要性を説明し、不動産投資のキャッシュフローを良くするためのポイントを紹介します。元手を工面して不動産投資を検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
不動産投資のキャッシュフローとは
キャッシュフローとは、「お金(Cash)の流れ(Flow)」のことをいい、一定期間に現金がどのくらい入り、出ていったかを表す言葉です。収支(利益が出たか)より実際の現金の残高を重視する概念で「資金繰り」と同じような意味で使われます。
例えば、2000万円のアパートを現金一括で購入した場合は、購入時のキャッシュフローは「2000万円のマイナス」です。不動産運用による家賃収入が月30万円で支出が20万円だとすると、月々のキャッシュフローは「月10万円のプラス」になります。いつ時点のことをいっているのか、明確にして考える必要があることがキャッシュフローの概念の特徴です。
今後入る予定の売上がどれだけあったとしても、実際の入金までに必要な仕入や給与を払うことができなければ、資金繰りが立ち行かなくなり経営破綻となります。
不動産投資のキャッシュフローは、扱う金額も大きくなりますので、手元の現預金が足らなくならないよう常に気を配る必要があります。
なお、キャッシュフローには①営業、②投資、③財務、④フリーのキャッシュフローの4種類があるとされますが、この記事では分かりやすさのために細かい種類には立ち入らずに解説をしていきます。
キャッシュフローの計算式
不動産投資のキャッシュフローは、収入と支出で計算することができます。収入から支出を差し引いた金額が、手元に残る現金であり、現金の増減をキャッシュフローとして管理します。
収入には、家賃収入や礼金、物件や設備の売却対価などがあります。支出には、管理会社の委託費や固定資産税、広告費、修繕費、保険料などの諸経費や、ローンの返済額などがあります。
参考:減価償却費に基づく計算
会計知識が既にある人向けに補足をすると、詳しくは以下の計算をすることになります。
「売上-経費+減価償却費-ローン返済の元本相当額」
売上から経費を引いた額が、不動産オーナーにとって、その年の所得です。しかし、経費には減価償却費が含まれているため、その分は別途調整して計算する必要があります。
不動産など高額の建物や設備、備品を購入したときは、一度に支出として計上することができず、「資産」という扱いになります。その後、一定の年数をかけて、資産価値がゼロになるまで少しずつ支出に計上するわけです。この費目を「減価償却費」といいます。
不動産投資でキャッシュフローが重要な5つの理由
不動産投資でキャッシュフローが重要な理由を、不動産投資の時系列に沿って5つ紹介します。
- 金融機関からの評価が上がり融資を受けやすくなる
- 急な修繕など想定外の出費に対応できる
- ローンの繰り上げ返済ができる
- 査定額が上がるので売却の際に有利になる
- 事業の拡大につながる
物件取得段階
物件を購入し取得する段階です。いわゆる頭金や保証金を収めるためにまとまった額の現金が必要な時点です。なお、売買によらず物件を取得する相続などの場合には、相続税などのまとまった額の支出に置き換えて読み進めてください。
理由①:金融機関からの評価が上がり融資を受けやすくなる
不動産投資の物件を取得するために、金融機関から融資を受けるときは、オーナー候補の過去のキャッシュフローに基づいて審査されることになります。キャッシュフロー実績が黒字であれば、金融機関からみても収益性の高い不動産経営が期待できるため、融資を受けやすくなります。
逆に、キャッシュフロー実績が赤字か赤字に近い状態だと、資金繰りが悪化するおそれがあると判断され、借入可能額が低くなったり、返済条件が悪くなったり、そもそも融資を断られることもあり得ます。
参考として、不動産投資ローンについての解説記事をご紹介します。
物件運用段階
物件を運用し家賃収入を得る段階です。発生する支出に対して不動産投資用の資金で賄いきれない場合、本業の給与所得や借入など、別の収入から捻出しなければいけません。物件オーナーの生活を圧迫するだけでなく、不動産投資のキャッシュフローに別の現金が混ざって、会計処理が複雑になってしまいます。
一方、手元資金に余裕があれば、想定外の出費にも余裕を持って対応できますし、生活費を圧迫しないで済みます。空室が発生したときのリスクヘッジや、将来のリフォーム費用にも充当できるでしょう。
理由②:急な修繕など想定外の出費に対応できる
不動産投資には、想定外の出費がつきものです。たとえば、設備故障や災害などによる修繕費が挙げられます。早急に修繕しなければ、空室リスクが高まります。
修繕にかかる費用をあらかじめ積み立てておけば、慌てることなく対応することが可能です。
理由③:ローンの繰り上げ返済ができる
不動産投資において毎月のキャッシュフローを圧迫する要因に、「ローンの返済」があります。手元資金に余裕を持たせ、繰り上げ返済をすれば完済時期が早まるほか、金利の支払いが減って総返済額が少なくなる場合もあります。
繰り上げ返済ができれば、収益が改善するだけでなくローンの返済が滞るリスクも軽減できるので、より一層安心して不動産投資に取り組めるでしょう。
物件売却から投資拡大段階
物件を売却し別の投資物件へ規模を拡大していく段階です。必ずしも手元の物件を売却する必要はありませんが、区分マンション投資のオーナーがアパート投資に挑戦するような場合には、元手を物件売却で補う場合も考えられるでしょう。
理由④:査定額が上がるので売却の際に有利になる
物件を売却するときも、キャッシュフローが黒字であれば価格査定に有利です。不動産評価方法のひとつである「収益還元法」は、キャッシュフローが大きく反映されるため、他の評価方法を交えたとしても価格査定の底支えをしてくれるからです。
基準とする期間内のキャッシュフロー実績次第で、物件相場に基づく査定額を上回る可能性もあります。元は同じような物件だとしても、不動産経営の手腕によって、売却価格を有利にすることができるのです。
理由⑤:事業の拡大につながる
手元資金を増やしておくと、次の物件を購入するときの頭金や諸費用に充当できます。物件価格の全額を借りられる「フルローン」や、仲介手数料など初期費用まで借りられる「オーバーローン」もありますが、頭金を自己資金で賄えるほうが融資を受けやすいものです。
また、キャッシュフローが順調であれば、次の物件を購入して不動産投資を拡大する時期を早くすることができます。安定した運用を続けるためにも、最初の物件運用段階で手元資金を増やす方法を学んでおきたいところです。
キャッシュフローを黒字にするポイント
キャッシュフローを黒字にするためのポイントを紹介します。ここでも、不動産投資の時系列に沿って解説していきます。なお、どの段階においても直近の支出に対して、手元資金が十分用意できているか、シミュレーションする準備が必要です。
物件取得段階のキャッシュフロー
物件取得段階で意識しておきたいポイントをみていきましょう。不動産投資では、どの段階においても、売却時のことを考えておく必要があります。
新築物件を避ける
新築物件は購入価格が高く、頭金も多く求められる傾向があります。手元資金が少ない時期に、新築物件を購入した上で不動産投資のキャッシュフローを維持するのは容易ではありません。
また、新築物件は購入直後に不動産価値が大きく下がるというデメリットもあります。不動産価値が目減りしていれば、運用中のキャッシュフローが黒字でも、売却後の最終的なキャッシュフローが赤字に転落する可能性もあります。
利益の出やすい中古物件を選ぶ
利益の出しやすさの面で、購入価格が安い中古の物件がおすすめです。マンションの資産価値であれば、築15年を過ぎると資産価値の減少が緩やかになり、築30年目くらいまでは安定した状態が続きます。家賃収入とローン返済額のバランスが取りやすいことも中古物件の魅力です。
ただし、中古の物件は、ローンを組める期間が新築物件より短くなる傾向があるため、注意が必要です。
営業力が強い管理会社を選ぶ
賃貸物件で空室が発生するのは、どうしても避けられないものです。だからこそ、「いかに早く次の入居者を見つけて、空室の期間を短くできるか」が、安定したキャッシュフローにつながります。
入居者を探すのは管理会社の役割ですが、入居率はまちまちです。なかなか入居者を見つけられないところもあれば、入居率の高さをアピールする管理会社も存在します。物件取得段階から、営業力の強い管理会社を活用するのが良いでしょう。
物件賃貸収益期間のキャッシュフロー
物件賃貸収益期間で意識しておきたいポイントをみていきましょう。大規模修繕や建て替えがない限り、大きな支出は発生しませんが、知らず知らずのうちに手元資金が目減りすることがないよう注意する必要があります。
家賃を高く保つ努力をする
キャッシュフローを黒字で維持するためには、家賃を維持し続けることも重要です。一度家賃を下げてしまうと元に戻すのは難しく、手元資金の形成スピードが遅くなってしまいます。
しかし、空室が発生すると家賃を下げなければ新たな入居者が見つからない場合もあるでしょう。そのような事態を防ぐためには、普段から良好な状態を保って、魅力のある物件にする努力が欠かせません。
例えば、退去のたびに壁紙や床を張り替えたり、設備を入れ替えたりするなどです。屋根や壁など、定期的に修繕を行うと物件自体が長持ちします。もちろん、普段の清掃などの環境整備も必須です。
定期的な修繕は資金繰りを事前に考慮する
物件を賃貸に出している期間の、定期的な修繕は計画的に進める必要があります。想定外の修繕は突発的な支出になることに対し、定期的な修繕は資金繰りを事前に考慮する時間の猶予があるからです。
例えば、学生向けアパートであれば卒業シーズンの前後は家賃収入が不安定になることが想定できるため、物件ごとの特徴を踏まえるようにしましょう。
また、家賃水準を維持する上でのリノベーション工事の費用についても、計画的に手元資金を用意する必要があります。リノベーション物件は、売却価格を高くしやすいため、売却時期も考慮してリノベーション実施を検討するのが良いでしょう。
低金利のローンに借り換える
不動産投資ローンは、低金利のものに仮り換えることができれば、浮いた利息の分だけ毎月の返済額を抑えられるので、手元資金の形成スピードは加速します。物件取得段階の設定条件から有利に変更できないか、検討する価値はあります。
しかし、ローンの借り換えは金融機関の審査が必要になるほか、借り換え実行のためには手数料や登記の抹消・登録にかかる費用などが必要です。費用対効果が合わなければ、かえってキャッシュフローを圧迫するかもしれません。
借り換えや繰り上げ返済によって、キャッシュフローにどれくらいの影響があるのか、日頃からシミュレーションしておくことが重要です。
物件売却段階のキャッシュフロー
物件売却段階のポイントは、整理すると以下の5点です。
- 定期的な修繕により、物件の不動産価値を維持する
- リノベーションは、売却時期を考慮して行う
- 不動産価値が安定している築年数の時期に売却する
- 事業拡大のシミュレーションを十分行って目標額を定める
- 物件のキャッシュフロー実績を黒字にしておき、査定額を上げる
手放す段階になって慌てて収支を合わせようすると、不本意な条件で売り焦ってしまうことになりかねないため、不動産投資では、どの段階においても、売却時のことを考えておく必要があります。
なお、売却時の税金については以下の記事を参考にしてください。
まとめ:不動産投資のキャッシュフローは重要!黒字経営を意識しよう
不動産投資のキャッシュフローについて、手元資金の意識が不十分であればオーナーの生活に影響しかねません。また、物件の取得から売却までのすべての段階に直結する点においても重要です。
黒字経営を意識し手元資金を手厚く確保できれば、想定外の修繕支出に動じることもなくなります。安定した収益確保を前提としつつ、投資規模の拡大を図ることもできるようになるでしょう。