ワンルーム投資を始めた年に例年どおりの金額をふるさと納税に使うと、控除しきれない自己負担が数万円単位で発生することがあります。初年度は不動産取得税や登記費用で不動産所得が赤字になりやすく、損益通算によって控除の上限額が大きく下がるためです。
ワンルーム投資がふるさと納税に与える影響は、次の3点に整理できます。
- 控除の上限額が不動産所得の黒字と赤字で上下する
- 確定申告が必要になるためワンストップ特例が使えなくなる
- 特例を申請済みでも確定申告をすると申請が無効になる
記事では年収700万円の会社員を例に、不動産所得が黒字の場合と赤字の場合で上限額がいくら動くかを試算します。ワンストップ特例が無効になったまま申告書への記載を忘れると控除がまるごと消える仕組みまで、手順に沿って解説します。


ワンルーム投資はふるさと納税の上限額をどう変えるか
ふるさと納税で自己負担2,000円のまま控除を受けられる金額には上限があり、住民税の所得割額をもとに計算されます。所得割額は給与所得だけでなく不動産所得も合算した課税所得から算出されるため、ワンルーム投資の収支が上限額へ直接反映されます。
不動産所得が黒字であれば課税所得が増えて上限額は上がり、赤字であれば損益通算によって課税所得が減り上限額は下がります。年間の収支がどちらに振れるかは12月にならないと確定しないため、寄付の時期を早めるほど見込み違いのリスクが高まります。
| 不動産所得 | 課税所得への影響 | ふるさと納税の上限 |
|---|---|---|
| 黒字50万円 | 50万円増える | 約1万4,000円上がる |
| 収支ゼロ | 変わらない | 給与だけの水準と同じ |
| 赤字50万円 | 50万円減る | 約1万4,000円下がる |
| 赤字100万円 | 100万円減る | 約2万9,000円下がる |
上限額は給与所得と不動産所得を合算して決まる
ふるさと納税の控除上限額は、住民税の所得割額に20%を掛けた金額をもとに計算する仕組みになっています。所得割額は課税所得のおおむね10%にあたるため、給与所得と不動産所得を合算した課税所得が動けば上限額も連動して変わります。
計算式は「住民税の所得割額 × 20% ÷ (90% − 所得税率 × 1.021) + 2,000円」という形で表されます。所得税率が20%の人であれば分母は約69.6%となり、所得割額の3割弱にあたる金額が上限になる計算です。
会社員が給与だけで生活している場合は年収と家族構成から上限額を機械的に求められますが、不動産所得があると計算は一段と複雑になります。給与所得の源泉徴収票だけでは判断できないため、不動産の収支を含めた課税所得を自分で把握しておく必要があります。
総務省のポータルサイトには年収と家族構成から上限額の目安を確認できる一覧表が掲載されています。ただし一覧表は給与所得だけを前提にしているため、不動産所得がある人は課税所得を直接入力できる計算式で求め直す必要があります。
住民税の所得割額は前年の課税所得をもとに決まるため、6月に届く住民税決定通知書の金額が計算の出発点になります。
黒字なら上限が上がり赤字なら下がる
ワンルーム投資が黒字で回っていれば課税所得が増えるため、ふるさと納税で使える枠は給与だけの場合より広がります。一方で赤字が出た年は損益通算によって課税所得が圧縮されるため、圧縮された金額に応じて控除の上限額も確実に下がります。
ワンルーム投資では減価償却費を経費に計上できるため、現金の収支が黒字でも帳簿上は赤字になるケースが珍しくありません。手元にお金が残っているという感覚のまま寄付をしてしまうと、上限を超えて自己負担が膨らむという結果につながります。
減価償却費が大きく効くのは購入から数年間であり、建物と設備を分けて計上している物件ほど初期の赤字幅は大きくなります。帳簿上の所得がどう推移していくかは購入時のシミュレーションで確認できるため、寄付の計画にも同じ数字を流用できます。
設備部分の減価償却が終わる購入15年目以降は経費が一気に減るため、不動産所得が黒字へ転じるケースが増えていきます。黒字に転じた年はふるさと納税の枠も広がることになるので、所得の推移とあわせて寄付額を見直すタイミングになります。
青色申告特別控除を使っている場合は、控除を差し引いたあとの金額が損益通算の対象になる点も計算に含めておきます。
年収700万円で上限がいくら動くかの試算
年収700万円で独身の会社員であれば、不動産所得がない場合のふるさと納税の上限額はおおむね10万8,000円です。ワンルーム投資で100万円の赤字が出て損益通算すると上限額は約7万9,000円まで下がり、例年どおり12万円を寄付していれば4万1,000円が自己負担になります。
控除の上限を超えた寄付は税金から差し引かれることがなく、超過した金額は自己負担として手元から出ていきます。年収が同じでも不動産所得の赤字が100万円あれば上限は3割近く下がるため、前年と同じ感覚で寄付先を決めると数万円の負担増につながります。
逆に不動産所得が50万円の黒字であれば上限額は約12万2,000円まで広がり、給与だけの場合より枠が増えることになります。返礼品の還元率を3割とすれば、増えた1万4,000円の枠で4,000円相当の返礼品を追加で受け取れる計算です。
上限額の変化は所得税率が変わる境目でも生じるため、課税所得が330万円や695万円の前後にある人は特に注意が必要です。税率が20%から23%へ上がると計算式の分母が変わり、同じ所得割額でも上限額に数千円の差が出ます。
上限額は住民税の所得割額で決まり、不動産所得が赤字の年は所得割額が下がるため、寄付の枠も同じ割合で縮みます。
ワンルーム投資をするとワンストップ特例が使えない
ふるさと納税には確定申告をせずに控除を受けられるワンストップ特例という制度がありますが、確定申告をする人は対象から外れます。ワンルーム投資で年間20万円を超える不動産所得がある人は確定申告が義務になるため、特例を使うという前提自体が崩れます。
不動産所得が赤字で損益通算による還付を受けたい場合も、当然のことながら確定申告を行う必要があります。黒字か赤字かにかかわらず、ワンルーム投資をしている人はふるさと納税の控除も確定申告のなかで申請する形になります。
| 項目 | ワンストップ特例 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 利用できる人 | 確定申告が不要な給与所得者 | 不動産所得がある人 |
| 寄付先の上限 | 年間5自治体まで | 制限なし |
| 控除される税金 | 住民税のみ | 所得税と住民税 |
| 手続きの期限 | 翌年1月10日必着 | 翌年3月15日 |
| 必要な書類 | 申請書とマイナンバー確認書類 | 寄附金受領証明書 |
確定申告をする人は特例の対象外になる
ワンストップ特例は確定申告をしない給与所得者のために設けられた簡易な仕組みで、寄付先が年間5自治体までという制限もあります。不動産所得が年間20万円を超えると確定申告の義務が生じるため、ワンルームを1戸持っているだけでも特例の対象から外れます。
不動産所得が20万円以下であれば所得税の確定申告は不要になりますが、住民税の申告については別に行う必要があります。金額の大小にかかわらず申告の手間は発生するため、ふるさと納税も同じ確定申告のなかで処理するほうが手続きは簡単に済みます。
確定申告で申請する場合は寄付する先の数に制限が設けられておらず、控除の対象も所得税と住民税の両方に及びます。手間はかかるものの、6自治体以上に寄付を分散できるという点は、ワンストップ特例にはない大きな利点になります。
ワンストップ特例では住民税からのみ控除されるのに対して、確定申告では所得税の還付という形でも一部が戻ってきます。最終的に控除される総額に違いはありませんが、還付金として現金が振り込まれる分だけ制度の効果を実感しやすくなります。
特例を申請済みでも確定申告で無効になる
年の途中でワンストップ特例を申請していたとしても、あとから確定申告を行えば申請は無効なものとして扱われます。確定申告書に寄附金控除を記載し忘れると特例による控除も消えてしまい、寄付した金額が1円も戻らないという結果になります。
ワンルーム投資を始めた年に最も起こりやすい失敗が、特例を申請したまま確定申告で寄附金控除の記載を漏らすケースです。5万円を寄付していれば5万円がまるごと自己負担になるため、確定申告書の第二表にある寄附金控除の欄を必ず確認します。
記載を忘れたまま申告してしまった場合であっても、更正の請求という手続きを使えば5年以内であればやり直せます。ただし手間がかかるうえに還付を受けられる時期も大きく遅れるため、最初の申告で正しく記載しておくほうが確実です。
ワンストップ特例の申請書を提出したあとで確定申告をする予定になった場合、自治体へ取り下げの連絡をする必要はありません。確定申告の内容が優先されて処理されるため、申告書に寄附金控除を正しく記載しておけば控除は問題なく受けられます。
確定申告での寄付金控除の書き方
確定申告書では第一表の「寄附金控除」の欄に控除額を記入したうえで、第二表の寄附金控除の欄に寄付先と金額を記載します。控除額は寄付した金額の合計から2,000円を差し引いた金額であり、総所得金額の40%が上限として定められています。
あわせて第二表の「住民税に関する事項」にある都道府県・市区町村への寄附金の欄にも、同じ金額を漏れなく記入します。記入が漏れると住民税からの控除が受けられなくなってしまうため、所得税と住民税の両方の欄を必ず埋める必要があります。
添付書類としては自治体から届く寄附金受領証明書を使いますが、ポータルサイトが発行する年間寄附額証明書でも代用できます。1年分をまとめた証明書であれば1枚で済むため、複数の自治体に寄付した場合は手続きの手間が大幅に軽くなります。
e-Taxを使って申告する場合は、証明書のデータを電子のまま添付できるため書類の郵送や持参が不要になります。不動産所得の内訳書もあわせて電子で提出できるので、ワンルーム投資をしている人ほど電子申告の利点は大きくなります。
ワンストップ特例の申請は確定申告をした時点で無効になり、申告書に寄附金控除を書かなければ、寄付した金額は戻ってきません。
ワンルーム投資でふるさと納税を使うときの注意点
ふるさと納税は納める税金の総額が減る制度ではなく、支払う先を自治体に振り替えて返礼品を受け取る仕組みにすぎません。上限額を超えた部分は控除の対象にならず純粋な持ち出しになるため、枠の把握を誤ると確実に損をする制度でもあります。
給与所得だけで暮らしている人であれば毎年ほぼ同じ上限額になりますが、不動産所得がある人は年ごとに枠が上下します。前年と同じ金額を寄付するという運用が通用しないことが、ワンルーム投資をしている人にとっての最大の注意点になります。
ワンルーム投資をしている人が気をつけるべき点は、次のとおりです。
- 初年度は経費が膨らんで赤字になり上限が読みにくい
- 上限を超えた金額は自己負担として戻ってこない
- 返礼品は一時所得として扱われ課税対象になりうる
- 節税ではなく税金の前払いに近い性質を持つ
初年度は赤字になりやすく上限が読めない
物件を購入した年には不動産取得税や登記費用、仲介手数料といった初期費用がまとめて経費として計上されます。2,000万円のワンルームであれば初期費用は100万円を超えることも多く、初年度の不動産所得が大幅な赤字になるケースが目立ちます。
不動産取得税は物件の引渡しから半年前後で納税通知書が届くことになるため、購入した年ではなく翌年の経費として計上されることもあります。どの年に計上されるかで赤字の幅が変わるので、寄付の計画を立てる前に納税通知書の到着時期を確認しておきます。
初年度に限らず、大規模な修繕や設備の交換が重なった年についても赤字へ振れ、上限額が下がることになります。年内に大きな支出を予定している場合は、寄付を年末まで待って収支の見通しを固めてから決めるほうが安全といえます。
購入した年に経費として計上できる初期費用には、不動産取得税や登録免許税、司法書士報酬、仲介手数料などが含まれます。仲介手数料と登録免許税は取得費に含めて減価償却するという扱いもあるため、どちらで処理するかは税理士に確認します。
初年度に大きな赤字が出た年は還付金も大きくなるため、ふるさと納税の枠が狭まっても手取りの合計では増えます。枠が減ること自体は損ではなく、寄付する額を調整しないまま超過することだけが実際の損失につながる点に注意します。
上限を超えた分は自己負担になる
控除の上限を超えて寄付した金額は所得税からも住民税からも差し引かれず、全額が自己負担として残ることになります。上限が7万9,000円のところに12万円を寄付すれば、超過した4万1,000円に自己負担の2,000円を加えた4万3,000円が実質的な持ち出しになります。
返礼品の還元率が3割であれば、4万1,000円の超過に対して受け取れる返礼品は1万2,300円相当にとどまります。差し引きで2万8,700円の損失となるため、上限を超えてしまった影響は返礼品を受け取っても取り返せません。
シミュレーションサイトの多くは給与所得だけを前提にしているため、不動産所得がある人が結果を流用することはできません。給与所得と不動産所得を合算した課税所得を直接入力できる詳細版のシミュレーションを選ぶ必要があります。
詳細版では社会保険料控除や生命保険料控除、扶養控除の金額まで入力できるため、精度の高い上限額を求められます。源泉徴収票と不動産所得の収支内訳書を手元に置いたうえで入力すれば、実際の上限額との差はほとんどなくなります。
計算に自信が持てない場合であっても、上限額の9割程度に寄付を抑えておけば超過するリスクは避けられます。
返礼品は一時所得として扱われる
ふるさと納税の返礼品は所得税法上の一時所得に分類されるため、受け取った返礼品の時価が所得として計算に含まれます。一時所得には年間50万円の特別控除が用意されているため、返礼品だけであれば課税されるケースはほとんどありません。
ただし生命保険の一時金や競馬の払戻金など、ほかに一時所得がある年は合計額が50万円を超える可能性が出てきます。ワンルームを売却して譲渡益が出た年でも譲渡所得は分離課税のため一時所得には含まれませんが、保険の満期金がある年は注意が必要です。
一時所得は特別控除の50万円を差し引いたあとに、さらに2分の1を掛けた金額だけが課税の対象として扱われます。返礼品の時価が60万円に達したとしても課税される金額は5万円にとどまるため、実際の影響はごく限定的といえます。
返礼品の時価は寄付額の3割以下と定められているため、12万円を寄付した場合の一時所得は3万6,000円程度になります。ほかに一時所得がなければ特別控除の枠に十分収まる金額のため、実務上はほとんど気にせずに済む水準です。
ふるさと納税は節税ではなく、支払う先を移す制度で、上限を超えれば単なる寄付になり、返礼品では取り返せません。
ワンルーム投資をしながらふるさと納税を使う手順
不動産所得がある人がふるさと納税を使う場合は、所得の見通しを固めてから寄付する順番が重要になります。給与だけの人と違って年末まで所得が確定しないため、上限額の計算も後ろ倒しにするほうが安全です。
寄付から控除までの流れを整理すると次のとおりです。
| 時期 | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 10〜11月 | 不動産の年間収支を試算する | 減価償却費と修繕費を反映させる |
| 11〜12月 | 上限額を計算して寄付する | 決済が年内に完了するか確認する |
| 翌年1〜2月 | 寄附金受領証明書を集める | ポータルの年間証明書でも代用可 |
| 翌年2〜3月 | 確定申告で寄附金控除を申請 | 第一表と第二表の両方に記載する |
| 翌年4〜6月 | 所得税の還付と住民税の減額 | 住民税は6月以降の通知で反映 |
所得の見通しを立ててから寄付する
不動産の年間収支は10月から11月の時点でおおむね固まるため、寄付の判断は秋以降まで待ってから行うのが合理的です。家賃収入から管理費や修繕積立金、ローンの利息、減価償却費を差し引いた不動産所得の見込みを出し、給与の課税所得と合算して上限を計算します。
寄付は12月31日までに決済が完了している必要があり、クレジットカード決済なら12月末でも間に合います。ただし銀行振込や払込取扱票では入金の確認に日数がかかるため、年末に近い寄付ではカード決済を選ぶほうが確実です。
年内に想定外の修繕が発生しそうな場合は、上限額を1割ほど低めに見積もったうえで寄付する額を決めておきます。上限を下回っているぶんには自己負担が2,000円のままで済むため、超過するリスクを避けるほうが結果的には得になります。
会社員であれば給与の課税所得は源泉徴収票が出る12月まで確定しませんが、前年の金額を使っておけば大きくはずれません。昇給や賞与の増減がある年については、直近の給与明細から年間の見込みを計算し直して精度を上げておきます。
寄付から控除までのスケジュール
寄付した年の翌年2月16日から3月15日までの期間に確定申告を行い、あわせて寄附金控除を申請します。所得税分の還付は申告から1か月から2か月で指定口座に振り込まれ、住民税分は6月以降に届く通知で税額が減る形で反映されます。
還付を受ける時期が分かれるため、寄付した金額が全額戻ってきたかどうかは翌年6月の住民税決定通知書で確認します。通知書の摘要欄に寄附金税額控除の金額が記載されているので、申告した金額と一致しているかを照らし合わせます。
金額が合わない場合は市区町村の課税課へ問い合わせて、申告した内容が正しく反映されているかどうかを確認します。確定申告書の第二表にある住民税の欄への記入漏れが原因になっていることが多いため、申告書の控えを手元に用意して連絡します。
住民税からの控除は基本分と特例分に分かれており、通知書では基本分と特例分が別の欄に記載されています。合計額が寄付額から2,000円を引いた金額に所得税分を差し引いた水準になっているかを確かめれば、控除の過不足を判断できます。
控除が正しく効いたかどうかは、翌年6月の住民税決定通知書で確認でき、摘要欄の寄附金税額控除の金額を見比べます。
まとめ|ワンルーム投資では上限額の再計算が必須になる
ワンルーム投資を始めると、ふるさと納税の上限額は不動産所得の黒字と赤字によって毎年変動します。年収700万円の会社員で不動産所得が100万円の赤字になれば上限は10万8,000円から約7万9,000円まで下がり、例年どおりの寄付では4万円を超える自己負担が発生します。
確認しておく項目は次のとおりです。
- 不動産所得の見込みを10月から11月の時点で試算したか
- 給与所得と合算した課税所得で上限額を計算し直したか
- ワンストップ特例を申請していないか
- 確定申告書の第一表と第二表の両方に寄附金控除を記載したか
最も損失が大きくなるのは、ワンストップ特例を申請したまま確定申告で寄附金控除の記載を忘れるケースです。特例は確定申告をした時点で無効になるため、記載が漏れれば寄付した金額が1円も戻らないという結果になります。
年内に寄付を予定しているなら、まず不動産の収支見込みを出して課税所得を確定させます。課税所得を確定させたうえで詳細版のシミュレーションに給与と不動産の両方を入力し、上限額を計算し直してから寄付先を決めましょう。










