「余裕を持った老後生活を送れるだろうか」と不安を持つ人は多くいます。この記事は、年金に対して不安を持ち、平均的に年金をいくらもらえるのか知りたい人に向け、国民年金・厚生年金それぞれの平均受給額や計算方法を解説しています。世帯別の年金受給額や、年金を増やす方法も紹介するので、老後の生活に備える参考にしてください。
国民年金・厚生年金の平均受給額
ここでは、年金制度について解説した後、国民年金および厚生年金の平均受給額を紹介します。
公的年金制度は2階建て
公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建て構造だといわれています。1階部分は国民年金(基礎年金)で、自営業者や会社員、公務員、専業主婦など、20歳以上~60歳未満の国民全員が加入する年金です。2階部分は会社員または公務員が加入する厚生年金となっています。自営業者も任意で加入する付加年金や国民年金基金などの制度で2階建てにすることも可能です。
私的年金を入れて3階建てといわれることも一般的です。3階部分は会社員が加入できる厚生年金基金や企業年金、公務員のみの年金払い退職給付があります。個人型・企業型の確定拠出年金も3階部分に分類されます。
国民年金の平均は約5.5万円
厚生労働省年金局作成の「平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平成30年の国民年金の平均は月額55,809円でした。年金支給額は賃金水準や物価水準などによって多少変動する仕組みになっています。平成29年は55,615円、平成28年は55,464円となっており、大きな変動はありませんでした。
厚生年金の平均は約14.3万
同じく「平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平成30年の厚生年金の平均は月額14万3,761円となっています。ただ、この平均はあくまでも目安です。年金支給額は加入期間の平均年収に応じて変わるため、個人差が大きくなります。
男女別の平均受給月額には大きな差がある
男女別の平均受給月額には、どのような傾向があるのでしょうか。「平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平成30年の男性の平均受給月額は16万3,840円、女性の平均受給月額は10万2,558円でした。
受給額に大きな差がある背景には、女性が子育てや家事をしているケースが多いことが挙げられます。また、女性の社会進出、キャリアアップがしにくい面があることも指摘されています。
老後にいくら年金がもらえるか試算してみよう
老後にいくら年金がもらえるか見積もるには、試算方法を知ることが必要です。ここでは、本体部分(1階・2階)と加算部分の試算方法を解説します。
年金の本体部分の計算
年金の1階と2階部分は、本体部分と呼ばれることもある公的年金です。ここでは「老齢基礎年金」「老齢厚生年金」の計算方法をそれぞれ紹介します。
老齢基礎年金(1階部分)の計算
老齢基礎年金は保険料を納付した月数で決まります。
1年の老齢基礎年金=約78万円 × 納付月数 ÷480月
「約78万円」という金額は、20歳以上~60歳未満までの480カ月全てで保険料を納めた場合の満額です。したがって、保険料を納付した月数が少なくなれば、それに応じて受け取れる年金も少なくなります。また、原則として10年以上保険料を支払っていないと、支給対象外になってしまうことにも注意が必要です。
納付したと認められる期間は「国民年金保険料を納付した期間」「厚生年金に加入して保険料を納めていた期間」「配偶者の扶養に入っていた期間」の3つです。
老齢厚生年金(2階部分)の計算
老齢厚生年金の試算は、納付した月数に加えて給料の平均も関係するため複雑です。老齢厚生年金の簡易的な計算式は以下のとおりです。
1年で受け取れる老齢厚生年金=
平均標準報酬月額×7.125÷1000× 平成15年3月までの加入月数
+平均標準報酬額 × 5.481÷1000 × 平成15年4月以降の加入月数
平均標準報酬額にはボーナスも含まれます。給料に比例して老齢厚生年金が上がる支給額のことを、報酬比例部分と呼んでいます。上記の計算は簡易的ですが、受け取れるおおよその金額がわかるため便利です。
加算部分の計算
老齢基礎年金や老齢厚生年金に加算を受けられる場合があります。加給年金や振替加算などの制度を解説します。
加給年金|厚生年金について適用される
厚生年金に加入している扶養する側が65歳になってから、扶養される側が65歳になるまでの間、年額39万円が加給年金として受けとれます。子どもを扶養していた場合ももらえますが、扶養する側が65歳になったときに18歳未満という条件があるため、適用を受ける人はまれです。
振替加算|配偶者または子に適用される
振替加算は、加給年金が停止になった後に適用される可能性がある制度です。扶養される側が老齢基礎年金を受け取れる場合に、それほど額は多くありませんが、加給年金が生涯に渡って振替(加算)となります。ただし、昭和41年4月1日以前に生まれているなどの条件があります。
特別支給の老齢厚生年金
以下の条件を満たすと、65歳になる前から老齢厚生年金を受け取れます。これは支給年齢引き上げへの対応措置です。
・男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前に生まれている
・60歳以上
・老齢基礎年金の受給資格期間(10年)がある
・厚生年金保険などに1年以上加入
年金額が増額・減額することもある
年金額が増額・減額することもあることに注意が必要です。たとえば、年金を受け取っている間に給与収入があると支給額が減ります。また、支給を早める「繰り上げ受給」を使った場合も減額、逆に支給を遅らせる「繰り下げ受給」をした場合は増額されます。
繰下げ受給の注意点
平成19年4月1日以降に65歳以降の老齢厚生年金を受け取れる権利がある人は、繰り下げ受給を申請できます。繰り下げた月数に応じて0.7%ずつ最大42%、年金支給額が増える仕組みです。ただし、障害厚生年金・遺族厚生年金を受ける権利がある場合は、繰り下げ受給を申請できません。
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具体例で試算してみよう!世帯別の年金受給額
ここでは、一般的な世帯をモデルケースとして、年金支給額を具体的に試算します。いくらぐらい年金がもらえそうか目安を把握できます。
会社勤めの共働き
国民年金は学生特例納付制度で2年間の猶予があるため、仮に38年間収めたとすると62,000円がもらえます(次項から、国民年金に関してはこの数値を使用します)。また、40歳のときに年収500万円程度の場合、あくまで目安ですが、厚生年金の平均は約93,000円です。したがって、夫婦の条件が同じ場合、15万5,000円×2=31万円となります。
会社員と専業主婦
40歳のときに年収500万円程度の場合、国民年金と厚生年金を合わせて約15万5,000円が目安です。一方、専業主婦(収入ゼロ)の場合、国民年金しかないため、62,000円です。合計すると、約21万7,000円が年金受給額の目安になります。この金額の場合、最低限の生活には困らないものの、やや余裕がないと感じる人もいるのではないでしょうか。
130万円未満の扶養する配偶者がいる場合
厚生年金に加入している人の配偶者で、パートやアルバイトなどの年間収入が130万円未満の場合、第3号被保険者という扱いにできます。第3号被保険者は国民年金保険料を支払う必要はありません。しかし、扶養側が保険料を支払っているなど要件を満たせば、老齢基礎年金が受給できます。
自営業の夫婦
自営業の夫婦の場合は、ともに国民年金しかないため、62,000円×2=12万4,000円です。ただし、自営業の場合は、付加年金か国民年金基金で2階建てにすることも可能です。加入した時期にもよりますが、2階建てにしていれば、支払った額に応じて年金受給額が増えることになります。
夫婦の老後生活費は月平均26万円
総務省統計局「家計調査年報」(平成30年)によると、夫婦世帯における老後生活費は月26万円ほどです。内訳は以下のとおりです。
・食費:65,000円
・交通、通信費:28,000円
・交際費:26,000円
・教育、娯楽費:24,000円
・水道、光熱費:20,000円
・保険、医療費:15,000円
・住居:14,000円
・家具、家事用品:9,000円
・被服、履物:6,000円
・その他:28,000円
・非消費支出:29,000円
老後の出費はそれなりにあり、年金だけでは足りない人もいます。
貯蓄以外の備えも必要!?国民年金を増やす方法とは
老後の生活費が意外にかかることに驚いた人もいるかもしれません。ここでは国民年金を増やす方法を紹介します。
追納する
40年間全て保険料を収めた場合、国民年金の支給額は月65,000円です。しかし、保険料の猶予や免除、未納がある場合、これより少なくなってしまいます。「追納」という救済制度を活用して、支払っていない保険料を後から払うことで減額を防げます。ただし、さかのぼれる期間は10年です。また3年度目以降に追納すると、保険料以外に期間に応じた加算額がかかります。
国民年金に任意加入する
やむをえない事情で国民年金に未納分がある場合は、60歳以上~65歳未満の期間に保険料を支払える救済措置があります。これは任意加入制度と呼ばれる制度です。納めた保険料に応じて、65歳から受給できる年金の額を増やせます。なお、任意加入中に480カ月に達した場合は、この時点で終了です。
付加保険料を納める
老齢基礎年金を増やすために「付加年金」を活用する方法があります。任意で月400円加算して保険料を支払うと「付加年金保険料の納付月数×200円」が支給額に加算されます。たとえば、10年間付加保険料を支払うと「120カ月×400=48,000円」です。この場合、年間の加算額は「120×200=24,000円」となり、支給開始から2年間で元が取れる計算になります。
個人型確定拠出年金(iDeCo)
個人型確定拠出年金(iDeCo)は自分で運用先を指定して年金保険料を積みたてる方法です。元本保証で定期預金などに積み立てるタイプや、投資信託で運用するタイプがあります。掛金が全額所得から引かれることや配当・利息・売却益に税金がかからないなどの節税効果があるところが、一般の投資と違うメリットです。
ただし、原則として60歳までは引き出せません。また、お金を受け取る際に課税されることもあります。
個人年金保険
民間保険会社が提供している「個人年金保険」を利用して、老後に備える方法もあります。個人年金保険のメリットは、自分で年金を受け取れる期間を指定できるところです。円や外貨など投資対象を選べたり、利率を定額にするか変額にするか選んだりするなど、選択肢が多いのも特徴です。また、個人年金保険料控除や生命保険料控除として税金の控除も受けられます。
年金対策として不動産投資などもおすすめ
年金対策として不動産投資も人気です。「賃料による定期収入が得られる」「万一の際は家族に不動産を残せる」「貯蓄に比べてリターンが大きい」などが選ばれる理由として挙げられます。特にワンルームマンションは、初期資金が少なくて済むことや安定した運用がしやすいことから、老後のための投資として人気があります。
ただし、物件や立地などの調査が必要なため、プロのサポートを受けたほうが安心です。
まとめ
生活には月平均26万円が必要であり、年金だけでは足りない人も少なくありません。年金を増やすための制度を活用したり、個人的に資産運用をしたりすることで老後に備えましょう。