勤務時間や残業代について考える時、知っておきたいことは所定労働時間と法定労働時間の違いです。「所定労働時間って何?法定労働時間は?」「残業代はどちらを基準に計算するの?」などの疑問を感じる人もいるでしょう。
今回の記事では、所定労働時間と法定労働時間の違いについて解説します。残業代の計算方法についても紹介するので、正しく残業代が支払われているか確認してみましょう。
所定労働時間とは
まず最初に、所定労働時間について説明します。
所定労働時間は「会社が就業規則等で定めた労働時間」
所定労働時間とは、「会社が就業規則等で定めた労働時間」のことです。会社が就業規則等で始業時間や終業時間、休憩時間を任意に設定することにより、所定労働時間が決まります。休憩時間を除いて始業時間から終業時間までの時間が所定労働時間です。
会社が任意で設定すると言いましたが、所定労働時間は後で解説する法定労働時間の範囲内で設定しなければなりません。
変形労働時間制を採用した場合も所定労働時間を設定
変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて1日あたりの労働時間を柔軟に変更する仕組みです。例えば、1か月のうち月末は業務多忙で月始は比較的ゆとりのある場合、月末は長時間仕事をしてもらう代わりに月始は早めに帰ってもらう、などのように設定します。
1日当たりの労働時間を変えることで、業務の効率化が期待できます。しかし、時々の業務の繁閑によって急に労働時間が変わると従業員は対応に困ります。そのため、会社はあらかじめ労働時間を長くする期間と短くする期間を定めることが義務付けられています。
同時に、各期間における所定労働時間の設定も必要です。変形労働時間制には1か月単位で労働時間を設定する方法や、1年単位で設定する方法などがあり、一般的には毎年、労使協定により変形労働時間制の期間や労働時間が決められます。
法定労働時間とは
次に、法定労働時間について説明します。
法定労働時間は「1日8時間、1週40時間」
法定労働時間とは、法律で定められた労働時間の上限です。労働基準法第32条では、「会社は労働者を1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならない」と定められています。
会社が、1日8時間または1週間を通算して40時間を超えて従業員に仕事をさせると労働基準法違反です。そのため、前述の所定労働時間は、法定労働時間の範囲内で設定しなければなりません。
法定労働時間の例外(特例事業)
「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間には、従業員数10名未満の特定業種に対する例外があります。対象となる会社は、特例措置対象事業場(特例事業)と呼ばれ「1日8時間、1週44時間」の労働が認められます。特例事業は従業員10名未満の次の業種です。
- 【商業】:卸売業、小売業、理美容業、倉庫業 など
- 【映画・演劇業】:映画の映写、演劇 など
- 【保健衛生業】:病院、診療所、社会福祉施設、浴場業 など
- 【接客娯楽業】:旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地 など
変形労働時間制に対する法律上の制限
前述の変形労働時間制についても、法律上の制限(労働時間の上限)があります。
- 1か月単位の変形労働時間制:1か月を平均し1週間当たりの労働時間が40時間以内
- 1年単位の変形労働時間制:1年を平均し1週間当たりの労働時間が40時間以内
例えば、1か月単位の変形労働時間制の場合、その月の第1週から第3週までの1週間の労働時間が38時間、第4週が46時間ならば、「1か月を平均し1週間当たりの労働時間」は40時間(=(38+38+38+46)÷4)となり、法定範囲内で収まります。
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法定労働時間と36協定
法定労働時間は「1日8時間、1週40時間」と解説しましたが、実際にはそれ以上働いている人も多いでしょう。理由は、所定の手続きを踏めば法定労働時間を超えた労働の認められているためです。そこで、次に法定労働時間を超える労働が認められる要件を説明します。
法定労働時間を超える残業は36協定が必要
労働基準法第36条には、法定労働時間を超える労働を認めるための要件が定められています。要件は次の通りです。
- 労働者の過半数で組織する労働組合、過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と労使協定を締結すること
- 労使協定を所轄の労働基準監督署長へ届け出ること
一般的に、この労使協定のことを36協定と呼びます。36協定では、法定労働時間を超えて労働する対象者や対象期間、残業可能な時間など、法律で定められた事項を書面で協定します。 また、特別な事情がある場合に限り、36協定で定めた通常の上限を超える時間外労働を例外的に認める「特別条項」という制度もあります。
36協定を締結しても残業時間には上限がある
36協定の締結により法定労働時間を超える残業も可能ですか、残業時間には上限が設けられています。労働時間を延長できる限度(残業時間の上限)は、「1か月45時間、1年360時間」です。
また、「特別条項」を締結した場合も、「1年720時間、複数月平均80時間(※)または月100時間」の上限があります。「1か月45時間、1年360時間」は休日労働を除く時間数ですが、特別条項の上限は休日労働を含めて計算します。
※2か月から6か月のすべての月平均残業時間が80時間を下回らなければなりません。
参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説(PDF)」
所定労働時間、法定労働時間と残業代
最後に、残業代について説明します。所定労働時間を超える残業と法定労働時間を超える残業では計算方法が異なります。
所定労働時間を超えると残業代が発生
毎月の給与は所定労働時間に対して支給されます。所定労働時間を超えて仕事をした場合、超過分に対して支給されるのが残業代です。
残業代の計算方法は会社が任意で決めますが、法律では残業代の最低限度を設けています。最低限度の計算方法は次の通りです。
- 1時間あたりの残業代=(1か月の所定賃金額)÷(1か月の所定労働時間)
ただし、この計算方法が適用されるのは、所定労働時間を超えて法定労働時間までの残業時間です。所定労働時間が7時間で9時間労働(残業2時間)した場合、法定労働時間までの1時間の残業に対して上記計算方法が適用されます。
法定労働時間までの残業を「法定内残業」、法定労働時間を超える残業を「法定外残業」と呼びます。「法定外残業」の残業代は次で解説します。
法定労働時間を超える残業には割増賃金
法定労働時間を超える「法定外残業」に対しては、前述の「1時間あたりの残業代」に所定の割増をすることが法律で定められています。法定外残業の計算方法は会社の任意ですが、法律上の最低限度として次の割増以上で設定しなければなりません。
- 時間外労働に対する割増(※1):2割5分
- 休日労働に対する割増:3割5分
- 深夜労働(※2)に対する割増:2割5分
※1:1か月60時間を超える残業に対しては5割の割増が必要です。 ※2:午後10時から午前5時までの残業時間です。 時間外労働が深夜に及んだ場合は5割(=2割5分+2割5分)、休日労働が深夜に及んだ場合は6割(=3割5分+2割5分)の割増が必要になります。
参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?(PDF)」
まとめ:会社の残業命令が適法か、残業代は正しく支払われているかを確認しよう
所定労働時間は「会社が就業規則等で定めた労働時間」、法定労働時間は法律で定められた「1日8時間、1週40時間」の労働時間の上限です。
36協定によって法定労働時間を超える残業が可能となりますが、「1か月45時間、1年360時間」など、残業時間の上限が法定されています。
「残業時間が多すぎる」「残業代が少ない」などの疑問を感じている人は、本記事を参考に
会社の残業命令が適法か、残業代は正しく支払われているかを確認しましょう。