「私たちの年金は大丈夫?」「日本の年金は破綻する?」など、公的年金制度の持続性が話題にあがることが多く、老後生活に対して漠然とした不安を感じている人もいるでしょう。
不安の原因の一つは、仕組みがよく分からないことです。老後の生活費や年金額など、具体的な数字を知ることで、不安を和らげることができます。
今回の記事では、夫婦の老後資金がいくら必要かについて解説します。老後の生活費や年金額、老後資金の貯め方についても紹介するので、老後生活をイメージし老後資金の準備を始めましょう。
夫婦の老後資金は支出から収入を差し引いて計算
夫婦2人が老後に安心して生活するためには、事前にどのくらいのお金を準備する必要があるでしょうか。
具体的な金額は人によって異なりますが、少なくとも「支出から収入を差し引いた老後生活費の赤字分」を老後資金として準備しなければなりません。老後生活がスタートしてから亡くなるまでの間を「老後期間」とすると、最低限必要な老後資金は次の通りです。
- 老後資金=(毎月の支出-毎月の収入)×老後期間
老後生活の支出や収入について、詳しくみていきましょう。
老後の主な支出は日常生活費
老後生活の主な支出は、日常の生活費です。日常生活費やそれ以外の費用がいくらかかるのかを紹介します。
最低限は月に約22万円、ゆとりある生活には約36万円
夫婦2人の老後生活費の目安として、生命保険文化センターの令和元年度「生活保障に関する調査」の結果がよく使われます。
同調査によると、夫婦2人の老後の生活費は「最低でも月額約22万円、ゆとりある老後生活を過ごすには月額約36万円」です。
多いと感じるか少ないと感じるかは人それぞれですが、一応の目安として理解しましょう。
夫婦の日常生活費は月に約26万円
生命保険文化センターの調査は18~69歳の男女を対象としたもので、面接法などによって得られた回答を元に集計されていますが、実際には生活費がいくらかかっているのでしょうか。
総務省の調査によると、65歳以上の夫婦2人世帯(無職の世帯が対象)の生活費は月に約26万円です。生活費の内訳は次の通りです。生活費だけでなく、税金や社会保険料も必要となるため合わせて記載します。
65歳以上の夫婦2人世帯の生活費内訳:
生活費 | 支出額 |
---|---|
食品 | 6万5,789円 |
住居費 | 1万6,498円 |
光熱費・水道代 | 1万9,496円 |
家具や家事用品 | 1万0,434円 |
衣料費など | 5,041円 |
保険医療費 | 1万6,163円 |
交通費・通信費 | 2万5,232円 |
教育費 | 2円 |
教養娯楽費 | 1万9,239円 |
その他の消費支出(雑費や交際費など) | 4万6,542円 |
所得税や住民税など | 1万2,109円 |
健康保険料や介護保険料など | 1万8,529円 |
支出の合計 | 25万5,100円 |
参考:総務省「家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)家計の概要」
そのほかの臨時費用
老後生活には、日常生活費以外にもお金がかかります。費用が高額になるものとして、介護費用や葬儀費用、住宅関連の費用などがあります。
生命保険文化センターの調査によると、介護にかかる費用は、初期費用が平均して約74万円、毎月かかる費用が約8万円になります。介護期間は平均して約5年に及ぶため、介護費用の総額は500万円を超える可能性もあります。ただし、介護費用は必ず必要となるわけではありません。
参考:生命保険文化センター「リスクに備えるための生活設計・介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
葬儀費用はおよそ200万円が目安といわれますが、葬儀内容によっては数十万円で済ますこともできます。本人や遺族の葬儀に対する考え方次第で、金額が大きく異なるところです。
介護費用や葬儀費用のほかにも、それぞれの状況に応じて次の費用が必要です。
- 持ち家の場合、自宅のリフォーム代
- 住宅ローンが残っている場合、その返済費用
- 賃貸暮らしの場合、更新費用や転居費用
- 自動車の買い替え費用
- 親の介護費用
老後の主な収入は公的年金
支出の次は、収入についてみていきましょう。老後の主な収入は、公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金)です。年金受給額や年金以外の収入について説明します。
夫婦の公的年金の受給額
厚生労働省の「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金受給者の平均受給額は月額約14.6万円、老齢基礎年金だけの人は約5.4万円です。夫が会社員、妻が専業主婦で上記の平均額を受給する場合、夫婦2人の年金額は合計約20万円になります。
自営業や専業主婦など国民年金だけしか加入していない人は、最大でも月に約6.5万円(令和4年度の老齢基礎年金の満額77万7800円)の年金しか受け取れません。
夫婦とも長年会社勤めをしていれば一定の年金額が期待できますが、夫婦で自営をしていた場合、老後の収入が年金だけでは家計の大幅な赤字が予想されます。
そのほかの収入
会社定年後に公的年金以外の収入を得ている人もたくさんいます。アパートや駐車場の賃貸収入や資産運用による収益、短時間のアルバイト・パートの収入などです。
前述の通り、自営業の人はあまり大きな年金収入が期待できません。そのため、老後資金が十分でなければ、自営業の人は年金を受給しながら一生涯仕事を続けるケースも考えられます。
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必要となる老後資金を計算する4ステップ
老後の支出や収入について説明してきましたが、紹介した金額はあくまで平均値です。本当に必要な老後資金の金額は、それぞれの支出や収入を想定して計算する必要があります。老後資金を計算する4ステップを紹介します。
ステップ①:支出の計算
まず最初に、夫婦2人で老後生活にいくらかかるかを試算します。
前述の「65歳以上の夫婦2人世帯の生活費内訳」を参考に、毎月の生活費がいくらかかるかを想定します。持ち家があるか賃貸暮らしかで住居費は大きく異なるので注意しましょう。
臨時費用については、老後のライフイベントをよく検討して拾い出します。介護費用や葬儀費用を生命保険などで準備している人は、臨時費用から除外しても問題ありません。
ステップ②:収入の計算
老後の主な収入である公的年金をいくら受け取れるかを調べます。年金制度の加入状況によって夫婦2人の年金額は大きく異なるため、毎年誕生月に日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」などで確認しましょう。
その他の収入があれば、年金額に加えて収入の総額を試算します。
ステップ③:老後の生活期間の計算
老後の生活期間は、平均寿命ではなく平均余命を参考にして想定します。
厚生労働省の「令和3年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳ですが、現在65歳の人が平均して生存する期間(平均余命)は次の通りです。
- 65歳の男性:19.85年
- 65歳の女性:24.73年
現在65歳の人は、平均すると男性は85歳くらい、女性は90歳くらいまで生活することになります。老後が65歳から始まるとすれば、夫婦の老後期間は20~30年くらいです。余裕を持って老後資金を試算するなら、老後期間を30年くらいと見積もるといいでしょう。
ステップ④:老後資金の計算
老後資金を計算するには、まず毎月の収支に老後期間をかけて日常生活費の赤字額を計算します。毎月の支出が30万円、収入が25万円、老後期間が30年(360ヶ月)ならば次の通りです。
- 日常生活費の赤字額=(30万円-25万円)×360ヶ月=1,800万円
日常生活費の赤字額に老後の臨時費用を加えると老後資金が試算できます。臨時費用が500万円ならば次の通りです。
- 老後資金=1,800万円+500万円=2,300万円
収入や支出がよくわからないと感じる人もいるでしょうが、まずは大雑把にでも老後資金を試算してみることが老後対策の第一歩です。
老後資金の不足をカバーする方法
老後資金を試算して資金が足りなければ対策が必要です。老後資金の不足分をカバーするための方法を紹介します。一般的に、老後資金対策は早めに取り組むほうが効果的です。
方法①:長く働いて収入を増やす
老後資金の不足をカバーする1つ目の方法は、長く働いて収入を増やすことです。
高年齢雇用安定法では、企業に対し「65歳までの雇用確保措置」を義務付けています。経過措置があり会社員すべてが対象ではありませんが、定年延長や再雇用などで65歳まで働ける会社は増えています。また、70歳まで仕事ができるように、企業に対する努力義務も設けられました。
会社を退職しても、転職や起業、短時間のアルバイトなどで収入を増やすこともできます。
また、老後も仕事を続けて厚生年金保険料の支払いを続けることで、老齢厚生年金額もアップします。老齢厚生年金について詳しく知りたい人は、次の記事をご覧ください。
方法②:繰り下げして年金を増やす
2つ目の方法は、老齢年金の繰り下げ制度を利用して年金を増やすことです。
繰り下げ制度とは、年金(65歳から受給する老齢年金)の受給開始年齢を先延ばしすることによって年金額を増やす方法です。
1ヶ月受給を先延ばしすると年金額は0.7%増額し、最大75歳まで延長可能です。たとえば、受給開始年齢を70歳にした場合、年金額は42%(=0.7%×60ヶ月)増えます。
方法③:資産運用で資金を増やす
3つ目の方法は、資産運用で資金を増やすことです。
低金利が続く中、老後資金を銀行預金で積み立てても、利息はあまり期待できません。一定のリスクはありますが、株式投資や不動産投資など収益性の高い資産運用も選択肢の1つです。長期間毎月積み立てたり、投資先を分散することでリスクも軽減できます。
資産運用方法はいろいろとありますが、おすすめするのが税制上の優遇措置の大きなiDeCo(個人型確定拠出年金)です。iDeCoについて詳しく知りたい人は、次の記事をご覧ください。
方法④:リバースモーゲージを活用する
最後の方法は、「リバースモーゲージ」を活用して老後資金を確保することです。
持ち家があれば売却して老後資金を得る方法もありますが、家や土地を担保としてお金を借りるリバースモーゲージという制度を利用することもできます。住み慣れた家を手放すことなく、資金を確保できることがメリットです。
借りたお金は、死亡後に家や土地を売却するなどして返済します。
まとめ:夫婦で必要な老後資金を試算して早目に資金準備を始めよう!
65歳以上の夫婦2人世帯(無職の世帯が対象)の生活費は月額約26万円、老齢厚生年金受給者の平均受給額は月額約14.6万円、老齢基礎年金だけの人は約5.4万円です。
老後資金の必要額は、本記事を参考にそれぞれの支出や収入を想定して自分で計算しましょう。一般的に、老後資金対策は早めに取り組むほうが効果的です。大雑把にでも老後資金を試算して早めに資金準備を始めましょう。