自分の財産を相手に譲ることを「贈与」といいます。「負担付贈与」は、贈る相手方に対して、一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。課税の仕組みとしては、贈与財産の価額から負担額を控除した価額に贈与税が課税されることになります。
この記事では、負担付贈与について、通常の贈与と比較しながら、そのメリット・デメリットや、手続き時のポイントについてご説明します。
負担付贈与と通常の贈与の違い
負担付贈与について、通常の贈与と比較しながら全体像を説明します。
負担付贈与の例
- 両親の住宅を贈与する見返りに、残りの住宅ローンの返済を負担した
- 父から時価1,500万円の土地の贈与を受ける代わりに父の銀行借入金1,000万円を負担した
- 父から時価400万円の自動車の贈与を受ける代わりに父のローン残額(月額2万円×60回)を負担した
上記のいずれの場合も、贈与財産と共に、一定の負担や債務が受贈者(贈与を受ける者)に移行します。
通常の贈与では、贈与をする側(贈与者)には所得や債権が発生しないため、課税もありませんが、負担付贈与では、譲渡所得税が発生する場合があります。
また、贈与を受ける側(受贈者)には通常の贈与と同じく贈与税が発生します。ただしその金額は、「贈与される財産の全額(贈与で受け取った財産の価額)」から「負担する債務の金額」を控除した価額を基にして贈与税が計算され、課税されます。
贈与については、下記の記事でも詳しく説明しています。
負担付死因贈与とは
贈与が行われる時を贈与者の死亡時に設定した負担付贈与を負担付死因贈与と言います。贈与する側が「死後に財産を贈与する」意思表示をし、受贈側が合意することにより成立します。負担付贈与は、贈与がいつ行わるのかを当事者が自由に決めることができる点が負担付死因贈与と異なる点です。
また、負担付死因贈与と関連した契約として、死因贈与・遺贈があります。これらについては、下記の記事で詳しく説明しています。
負担付贈与のメリット
負担付贈与の主なメリットは次の3点です。
- 受贈側の贈与税が減額される場合がある
- 遺贈や相続に比べて内容が確実に実行される
- 贈与側の譲渡所得税が節税される可能性がある
メリット①:受贈側の贈与税が減額される場合がある
負担付贈与では、贈与税の計算対象となる財産の価額は、不動産の場合は贈与時の時価、不動産以外の場合は贈与時点の相続税評価額となります。一方で、相続税では、常に相続税評価額となります。
そのため、いずれの場合においても、将来時価が値上がりするのであれば、現時点で負担付贈与する方が節税効果があります。
また、負担付贈与でも、相続時精算課税を使うことができます。相続時精算課税制度は、生前贈与した財産には贈与税をかけず、相続発生時のほかの相続財産と合算して相続税を課すという制度です。贈与された財産は贈与時の時価で課税されるため、値上がりの見込まれる不動産を生前贈与することで不動産の評価額を下げることができます。
メリット②:遺贈や相続に比べて内容が確実に実行される
負担付死因贈与契約を結ぶ場合は、遺言書と比べると契約内容が確実に実行される点がメリットです。遺言書の場合、遺言書と異なった内容で相続人全員が合意した場合は、相続人が協議した内容で相続が行われるため、負担付死因贈与契約を結ぶことがより確実です。
負担については死亡時に限定する必要がないため、下記のような内容が設定されることがあります。
- 死後に土地と建物を贈与するため、同居して身の回りの世話をしてほしい
- 死後に自動車を贈与するため、自動車ローンの残額を返済してほしい
贈与を約束する代わりに実行してほしい負担がある場合や、相続人同士の争いを事前に防止し、死後の財産の分担を決めておきたい場合に活用できます。
メリット③:贈与側の譲渡所得税が節税される可能性がある
負担付贈与では、贈与者には譲渡所得税がかかります。譲渡所得税は、譲渡時点の時価について課税金額が決まります。そのため、受贈者側の贈与税と同様に、将来時価が値上がりするのであれば、現時点で負担付贈与する方が節税効果があります。
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負担付贈与のデメリット
負担付贈与の主なデメリットは次の3点です。
- 贈与物に発生した損害は贈与者が責任を負う場合がある
- 想定外の税金がかかる場合がある
- 約束通りに負担や義務が履行されない場合がある
デメリット①:贈与物に発生した損害は贈与者が責任を負う場合がある
原則として通常の贈与では、贈与者側に欠陥や不備をカバーする責任はありません。しかし、負担付贈与では、贈与者側も瑕疵についての損害賠償を請求される可能性があります。
瑕疵の存在について、贈与者側が知っている知っていないに関わらず、責任を負う可能性があるため、注意が必要です。
デメリット②:想定外の税金がかかる場合がある
負担付贈与では想定外の税金が発生する場合があります。具体的には、贈与者に譲渡税(所得税+住民税)が、受贈者にも贈与税などが課税されます。
特に、贈与するものが不動産である場合は、通常の贈与では、相続税評価額に対して課税金額を計算しますが、負担付贈与の場合は時価で課税金額を計算します。一般的には、時価の方が相続税評価額よりも高く算定されるため、贈与税が高額になる場合があります。
また、相続での節税に使用される小規模宅地等の特例が適用できないため、贈与税が高くなる場合もあります。
デメリット③:約束通りに負担や義務が履行されない場合がある
負担付贈与契約では、相手方にも、当初は想定していない金額の負担や債務が発生する可能性があります。そのため、債務の不履行などのトラブルが発生する可能性も高くなります。
負担付贈与の手続き
最後に、負担付贈与の契約の手続きと解約の手続きについて解説します。
負担付贈与の契約の手続き
負担付贈与と普通の贈与のどちらも、一般的に契約は口頭のみで成立します。ただし、負担付贈与では、デメリットで説明したとおり、債務の履行が残ります。
欠陥があった場合は、後に予想以上のコストがかかることも考えられるため、契約書の作成をおすすめします。
負担付贈与の契約解除の手続き
贈与者は「債務不履行」を原因に、契約解除できます。契約解除されると、契約は最初からなかったものとみなされます。
そのため、すでに負担の一部でも履行されていた場合、お互いの合意がなければ原則として解除不可能となるため、注意が必要です。
まとめ:負担付贈与を理解して、通常の贈与と使い分けて節税しよう
負担付贈与は、生前に利用することで、様々なメリットがあります。一方で、予想外の債務が発生するリスクもあります。
不動産など多額の資産・債権について負担付贈与を利用する場合は特に良く検討し、受贈者としっかり話し合いをして、契約を結ぶことが大切です。