給料を受け取りながら休みを取得できる制度として、広く知られた「有給休暇」。正社員だけに適用される制度だと思っている方はいませんか。
実はパートであっても、条件を満たせば有給休暇が付与されます。
そこで本記事では、パートが有給を取得する条件について紹介します。2019年から始まった「有給の取得義務化」についても併せて解説するので、自身に付与されるか確認したい方はぜひ読み進めてみて下さい。
そもそも有給休暇とは
有給休暇の正式名称は「年次有給休暇」で、労働基準法に定められた労働者の権利の1つです。名前のとおり、賃金を受け取りながら休暇を取得することができます。
世界的にみても日本の有給取得率は低い傾向にあり、厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」によれば、平成25年度の取得率は47.1%しかありませんでした。
現在は働き方改革の一環として年5日の取得が義務になっており、令和3年の取得率は56.6%と制度導入前よりずいぶん改善されています。
【結論】要件さえ満たせばパートでも有給は付与される
「パートは有給をもらえない」と勘違いしている人はいませんか。実はパートでも、条件さえ満たせば有給を取得できます。
ただし、フルタイムの正社員と同じ日数が必ず付与されるのではなく、所定労働時間に応じた日数が付与される「比例付与」方式です。
【条件1】雇われてから6ヶ月継続して勤務している
有給休暇を取得するには正社員でもパートでも、同じ勤務先で「6ヶ月以上継続して勤務する」ことが条件です。
試用期間も6ヶ月のカウントに含まれます。
【条件2】全労働日の8割以上出勤している
有給を取得する、もう1つの条件が「雇用契約書や労働契約書内に書かれている労働日の8割以上の日数」を出勤していることです。正社員と比べて8割の出勤日という意味ではありません。
条件を満たしていれば、パートであっても有給休暇の取得や育児休業給付金の受け取りが可能です。ぜひ条件を確認しておくことをおすすめします。
育児休業給付金について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
パートの有給は何日付与される?
正社員のようにフルタイムで働くパートでなくても、有給を取得することは可能です。
パートが取得できる有給の日数は「1年間の所定労働日数」と「雇用された日からの継続勤務年数」によって変わってきます。
1.正社員と同様の日数が付与されるケース
「週5日のフルタイム勤務」「週4日以下でも週30時間以上働く」といったフルタイムに近い働き方をしている場合、正社員と同様の有給休暇日数を取得できます。
継続勤務年数 | 付与日数 |
---|---|
0.5年 | 10日 |
1.5年 | 11日 |
2.5年 | 12日 |
3.5年 | 14日 |
4.5年 | 16日 |
5.5年 | 18日 |
6.5年以上 | 20日 |
2.週の労働日数によって付与日数が変わるケース
週の労働日数が5日に満たない、あるいは週の所定の労働時間が30時間未満の労働者でも、所定労働日数と継続勤務年数に応じて有給が付与されます。
週の所定労働日数 | 1年の所定労働日数 | 継続勤務年数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 | |||
付与日数 | 4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
3.週の労働日数が定まっていないケース
アルバイトでシフト制など、週の所定労働時間が明確に決まっていない場合もあります。その場合、有給休暇の取得はどうなるのでしょうか。
平成16年に訪問介護労働者向けに出された行政通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」では以下のような要点が書かれています。
- 基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出して構わない
- 入社後6月経過後に付与される有給について、過去6月の労働日数の実績を2倍した数字を1年間の所定労働日数とみなして判断して構わない
入社してから半年の労働実績が50日の場合、2倍にすると100日なので、前述の表に照らして初回の有給取得日数が3日になります。
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パートで有給を取得した場合の賃金の計算方法
パート社員が有給休暇を取得した場合に受け取れる賃金の計算方法には、3つのパターンがある点に注意が必要です。どの計算方法が使われるかはパート先によって異なります。
就業規則に書かれていることもありますが、書いていなければ店舗なら店長、会社なら総務・給与課等の部署に確認してみましょう。
有給の賃金計算 | 計算式 |
---|---|
通常の賃金 | その日に働くはずだった時間×時給 |
平均賃金 | 過去3ヶ月の賃金の総額÷期間中の労働日数 |
健康保険の標準報酬月額 | 標準報酬月額÷30日 |
パートも対象!「有給休暇の取得義務化」とは
2019年の労働基準法の改正で、雇用者は一定条件を満たす労働者に有給休暇を取得させることが義務になりました。
有給取得義務化の対象者
有給の強制取得の対象者は、「年間の有給付与日数が10日以上の全従業員」です。
条件を満たす社員であれば、企業は正社員でもパート社員でも5日の有給休暇を取得させる必要があります。
有給を取得させてくれない企業には罰則がある
有給休暇は一定の条件を満たせば、年5日間は取得させることが企業の義務です。もし取得させないとなれば、「労働基準法違反」となります。
労働基準法第39条7項によれば、年5日年次有給休暇を取得させなかった場合は30万円以下の罰金です。
有給休暇にまつわる3つの注意点
パートでも条件を満たせば有給休暇の付与や取得の対象に含まれることは、すでに紹介したとおりです。
ただし有給休暇の取得には一定のルールがあり、それを超えた権利の主張はできません。これから解説する、有給に関する注意点についても確認しておきましょう。
注意点1:会社都合によって希望日に有給をもらえないことはある
労働者の権利である有給休暇を申請すれば、勤務先は基本的に取得を拒否することはできません。
ただし、労働者側も「雇用主側が『時季変更権』という権利を持っている」ことは理解しておきましょう。事業の正常な運営を妨げる場合に関しては、取得日を変更することができるというものです。
たとえば小売業では、年末年始やブラックフライデーなど商戦時期は非常に多忙になります。このような時期に有給の取得を申請した場合、企業が時季変更権を利用して取得日が閑散期に変更になる可能性があります。
注意点2:有給休暇には有効期限がある
有給休暇には一定の有効期限が定められており、期限を過ぎると権利を行使できなくなることは覚えておきましょう。有給休暇の期限は「付与された日から2年」です。
ただし、有効期間内であれば次の年に繰り越すことはできます。
たとえば「6ヶ月働いて5日の有給休暇が付与されたが、1日しか利用していない」というケース。残った4日の有給を翌年に持ち越して2年目に付与された有給と一緒に使うことができます。
注意点3:いわゆる「有給の買い取り」は原則不可だが例外もある
日本の職場は有給休暇が取得しづらい雰囲気があることも事実です。5日間の強制取得分は別としても、残りの有給は使い切れずに消滅してしまったり、退職前に使いきれていなかったりすることも珍しくありません。
本来は労働者の権利なので有給を使い切ってから辞めることが可能ですが、職場への迷惑を考えてなかなか実現できないこともあるのではないでしょうか。
そこで企業によって実施されているのが「有給の買い取り」です。ただし、仕事を休ませて従業員をリフレッシュさせるという制度趣旨に反するため、原則的に認められていません。
一方、退職時や時効間近で有給休暇が消滅する可能性がある場合など、例外的に合意があれば認められる場合もあります。
まとめ:パートでも条件を満たせば有給を取得できる
有給休暇の取得条件や日数、有給の取得義務化などについて解説しました。企業で働いている期間や1年間の所定労働日数に応じて付与される日数は変わりますが、条件を満たせばパートでも年次有給休暇の制度が適用されます。
年に10日以上の有給が付与される人なら「年5日の取得義務」の対象であることも併せて覚えておきましょう。