人生100年時代と言われる昨今、定年退職で受け取る退職金は老後の生活のために重要な資金となります。
ただ、過去と比較すると退職金の水準が落ち込んでいることもあり、老後の生活に向けて退職金の運用を視野に入れることも必要です。
本記事では退職金を資産運用することの重要性と、具体的な資産運用の方法について紹介します。
退職金を運用することの必要性
「退職金と年金で悠々自適に暮らす」
老後の生活について、このようなイメージを持たれている方は多いのではないでしょうか?
ただ、実際は退職金と年金だけで老後の生活費をカバーすることは難しくなりつつあり、退職金を資産運用して資産寿命を延ばすことの必要性が高まっています。
必要性が高まっている理由は大きく分けると以下の3つです。
- 退職金は年々減少傾向にある
- 平均寿命が延びている
- インフレが進んで物価が上がる可能性がある
必要性1:退職金は年々減少傾向にある
会社を退職した際に受け取る退職金は、老後の生活を支える重要な資金になります。ただし、退職金の水準は年々減少しているのが実情です。
厚生労働省が行った「平成30年就労条件総合調査」によると、平成30年の退職金(大学・大学院卒の管理・事務・技術職)は1,788万円が平均でした。平成25年の1,941万円から比較して153万円も減少しています。
さらに過去にさかのぼると、調査を行うたびに退職金の支給額が減少しているという結果になりました。
退職金の平均支給額 | |
---|---|
平成30年 | 1,788万円 |
平成25年 | 1,941万円 |
平成20年 | 2,280万円 |
平成15年 | 2,499万円 |
ここ20年弱のあいだに退職金が約711万円も減少したとみることができます。平成15年に定年退職した人と同じ水準で生活するには、差額に当たる約700万円を何らかの形で準備しなければなりません。
加えてここ20年、消費税の増税や物価の上昇などの影響もあり、実際には更に高額の資金準備が必要です。
必要性2:平均寿命が延びている
20年前と比較して退職金の水準が落ちているだけでなく、平均寿命が長くなっている点も重要なポイントです。
厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」によると、男性の平均寿命は81.47歳、女性は87.57歳でした。
さらに20年前から比較すると、平均寿命は右肩上がりで延びていることが分かります。
男性の平均寿命 | 女性の平均寿命 | |
---|---|---|
2021年 | 81.47歳 | 87.57歳 |
2010年 | 79.64歳 | 86.39歳 |
2000年 | 77.72歳 | 84.60歳 |
出典:内閣府|平均寿命の推移
長生きするほど生活にも、介護や医療にもお金が必要になりますから、今後はさらに必要な老後資金が増加することも考えられます。
必要性3:インフレが進んで物価が上がる可能性がある
近年、あらゆる分野での物価上昇が話題になっています。
2022年は円安が急激に進行した1年でした。3月上旬には1米ドル=115円程度でしたが、急激な円安進行によって10月20日には1米ドル=150.19円を記録しています。
総務省の「2020年基準消費者物価指数」によると消費者物価指数は前年比3.0%となりました。消費税率引き上げの影響を除くと1991年8月以来、31年1ヵ月ぶりの高水準な数値です。
今後も物価の上昇は継続する可能性もあります。仮に今100円のものが150円を支払わないと買えない世の中になった場合、退職金1,000万円をもらえたとしてもインフレによって実質的な退職金の価値が目減りするということになります。
退職金の運用を行う際のポイント
退職金を運用して資産を増やすといっても、何も考えずにハイリスクな投資商品に投資することは避けるべきです。
退職金を受け取ったあと、まとまった金銭を受け取れる機会はほとんどありません。大きく損失を出すと取り返しがつかないため、リスクとリターンのバランスを考えた運用が大切です。
ポイント1:ライフプランによって運用方針を決める
何となく「お金を増やしたい」というのではなく、自身のライフプランから「いつまでに、いくらのお金が必要か」を逆算して運用方法を決めることが重要です。
短期に必要なお金か長期に必要なお金かで、適した資産運用の方法が以下のように変わります。
運用方法の例 | 資金の使い道 | |
---|---|---|
短期で必要な資金 (1年以内) |
預貯金 | 直近の生活費 医療費 ローンの支払い |
長期で必要な資金(5~10年以上先) | 個人向け国債 個人年金保険 投資信託 |
老後の生活資金 |
現在必要なお金や1年以内にすぐ必要になるお金は投資ではなく、いつでも引き出せる預貯金で確保しましょう。
投資信託は短期的には大きく乱高下しており、短期では大きく値下がりする可能性があります。
個人向け国債は元本が保証されていますが、満期までに解約すると中途換金調整額(直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685)が売却される額面金額に経過利子を加えた金額から差し引かれます。
投資信託や個人向け国債などの手段は短期での資産運用には向かないため、5~10年以上先を見据えた資産運用の際に検討しましょう。
ライフプランの立て方については、以下の記事を参考にしてください。
ポイント2:リスクを抑えて運用を行う
老後の生活で重要なのは、「資産を大きく減らさない」ことです。
生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」/2022(令和4)年度」によると、老後の最低日常生活費は平均23.2万円です。
ゆとりある老後生活費は平均37.9万円が必要とされています。
一方、日本年金機構によれば、受け取れる年金は厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)で21万9,593円、国民年金(老齢基礎年金)だけでは満額を受け取れても6万4,816円です。
会社員として長く働いた家庭でも、年金だけでは最低限の生活に必要な分しか確保できません。ゆとりある生活のためには、毎月少しずつ退職金を取り崩す必要があります。
退職金を失うと、ゆとりある生活はおろか最低限の生活にも支障が出るでしょう。リスクを抑えた堅実な運用が推奨されるのは、このためです。
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退職金を運用するおすすめの方法4選
退職金の運用には堅実な手法が推奨されることは既にお伝えしたとおりです。
ここからは、退職金の運用におすすめの方法を紹介します。
運用方法1:個人向け国債
個人向け国債とは、国が個人向けに発行している債券のことです。最低金利として「年0.05%」の利率が保証されている特徴があります。
一般的な定期預金の金利が年0.01~0.02%ほどであることから、定期預金よりも個人向け国債のほうが退職金の運用におすすめといえるでしょう。
変動金利型の「変動10年」であれば、今後の実勢金利の変動によって金利が上昇してリターンが向上することも見込めます。
運用方法2:個人年金保険
個人年金保険は、将来に必要なお金を自分で準備する保険です。毎月の保険料として積み立て、一定の年齢を迎えた後に保険金を年金形式で受け取ります。
年金の受け取り方は保険ごとに異なり、大きく分けて以下の3つがあります。
年金の受け取り方 | |
---|---|
確定年金 | 10年・15年などの一定期間にわたって年金を受け取れる 被保険者が亡くなった場合、遺族が残りの年金を受け取れる |
有期年金 | 10年・15年などの一定期間にわたって年金を受け取れる 被保険者が亡くなると年金の受給は終了する |
終身年金 | 被保険者が生きている限り年金を受け取れる 被保険者が亡くなると年金の受給は終了する |
貯金が苦手な人が保険料という形で自動的に積立ができ、当初に決まった金額を年金として受け取れることから「確実に老後資金を確保したい方」にはおすすめです。
保険料は生命保険料控除の対象になるため、所得税や住民税の節税効果もあります。
運用方法3:投資信託・ETF
投資信託は、多数の投資家から集めた資金をプロが運用し、得た利益を投資口数に応じて分配する金融商品です。
投資先は投資信託によってもさまざまですが、大きく2つに分類できます。
- 日経225やTOPIXなどの指数に連動した値動きを目指す「インデックスファンド」
- プロが投資商品を厳選する「アクティブファンド」
いずれにしても、数十~数千銘柄に投資することでリスクを分散できる点が強みです。
証券会社によっては100円から投資することができるため、資金が限られている人でも時間を分けた分散投資がしやすいメリットもあります。
ETFは「上場投資信託」のことで、株式のようにリアルタイムで売買できる投資信託です。価格が決まるタイミングが1日に1回の投資信託と比べ、価格変動を見ながらタイムリーな取引ができます。
運用方法4:定期預金
定期預金は、最初に預け入れ期間を決めて利用する預金です。半年・ 1年・3年など、満期日まで基本的に引き出しができませんが、普通預金に比べると定期預金のほうが金利が高く、収益性が高いことが魅力です。
1つの金融機関につき1,000万円の元金とその利子が保証されていることからも、安心して預けられます。
退職金専用の定期であれば、さらに高利率が見込める場合もあります。退職金定期は、退職者または退職予定者を対象とした定期預金です。一般的な定期預金に比べて満期までの期間が短くなっていますが、高金利の利息が設定されています。
退職金を運用する際の注意点
退職金の運用はリスクをできるだけ抑え、慎重に行うのがセオリーです。ここからは退職金を運用する際に気をつけたい点を解説します。
注意点1:退職金で投資を始めるのはリスクが高い
資産運用の方法として「投資信託・ETF」を紹介しましたが、老後に退職金を使って投資デビューすることはおすすめできません。
たとえば2020年のコロナショックでは日経平均株価が約30%ダウンしています。
投資を始めた直後にこのような下落があった場合、経験がないと冷静ではいられないでしょう。焦って売却してしまうと損失が確定してしまい、退職金を増やすどころか大きく減らす結果になります。
暴落は割安で株や投資信託を購入するチャンスでもあるのですが、そのように冷静な判断を下すには投資の経験が欠かせません。早いうちから資産の一部を投資に回し、冷静な判断力を身に着けておきましょう。
注意点2:ハイリスク・ハイリターンの運用はしない
「投資」には、今回紹介しなかった手法も数多くあります。
【投資手法の例】 ・株式投資 ・不動産投資 ・FX ・信用取引 ・金投資 ・債券投資 など |
投資の種類によってもリスク(値動きの幅)が異なりますが、中にはハイリスク・ハイリターンの商品もあります。
ハイリスク・ハイリターンの投資とは、レバレッジ取引や値動きの激しい金融商品に投資を行い、大きな利益を狙う運用方法です。短期間で大きな収益を得る可能性もありますが、値下がりのリスクもあります。このようなハイリスクの商品は退職金の運用には向きません。
注意点3:資産運用後の取り崩し方法も考えておく
退職金を運用した後の受け取り方についても、投資前から考えておきましょう。
一度に取り崩すのではなく、資産運用している一部を順番に取り崩して必要資金に回すことがおすすめです。取り崩し方は大きく分けて「定額法」「定率法」があります。
「定額法」は毎月一定額を取り崩す方法で、生活設計がしやすい点がメリットです。ただし、金融情勢に関係なく一定額を取り崩すため、相場の下落局面では資金の減りが加速する可能性があります。
「定率法」は一定の割合で資金を取り崩す方法です。残高の額によって受け取れる金額が異なるため、市場が好調なら高額を、低調なら少額を受け取ることになります。一定額を受け取れない点は不便ですが、市場の状況に応じて資金の減り方がコントロールされるメリットがあります。
まとめ:退職金はリスクを抑えた堅実な運用がおすすめ
退職金を資産運用することの重要性と、具体的な運用方法について解説しました。
退職金は老後生活の柱になる資金であり、ハイリスクな投資で大きく増やすことは考えない方が賢明です。もし大きく資産を減らすと、取り返すことができなくなる可能性があります。
「定期預金」「個人向け国債」といった元本が保証された商品を中心に、一部を投資信託等のリスク性商品に振り分けるといった、堅実な運用を心がけましょう。