収入に対する税金や社会保険料の合計の割合(国民負担率)は50%に近づいており、少しでも節税して自由に使えるお金を増やしたいと考える人も多いでしょう。
今回の記事では、会社員と個人事業主などフリーランスで働く人や自営業の人向けの節税対策をまとめて解説します。おすすめの節税対策も紹介するので、まずはできることから始めてみましょう。
会社員の節税対策は「所得控除」の申告
会社員の節税対策の基本は所得控除の活用です。所得控除の仕組みや種類について解説します。
所得控除を漏れなく申告して課税対象額を抑える
所得控除とは、課税所得を計算する時に収入から差し引ける費用などです。所得控除によって課税所得を抑えれば所得税や住民税が安くなります。
ただし、所得控除は年末調整や確定申告で申告しないと適用されないため、申告を忘れると控除が受けられません。所得控除によって200万円以上も課税所得を減らせるケースもあるため、所得控除を正しく理解し漏れなく申告することが節税の基本です。
主な所得控除の種類
主な所得控除の種類を紹介します。
所得控除①:基礎控除
基礎控除は、所得税や住民税の課税対象者全員に適用される所得控除です。所得が2,400万円以下の場合、基礎控除額は48万円です。
なお、給与所得は給与収入から給与所得控除(給与収入によって55万円~195万円)を差し引いて計算します。「年収103万円の壁」とは、パート収入などが103万円以内で基礎控除と給与所得控除を差し引いて課税所得が発生しない(所得税がかからない)水準のことです。
所得控除②:配偶者控除、配偶者特別控除
配偶者控除と配偶者特別控除は、所得が一定金額以下の配偶者がいるときに適用される所得控除です。本人と配偶者の所得によって控除額が異なります。
- 配偶者控除(38万円※):所得が48万円以下の配偶者
- 配偶者特別控除(3~38万円※):所得が48万円超~133万円以下の配偶者
※本人の所得が900万円以下の場合の控除額です。所得1,000万円超の人は所得控除できません。
基礎控除と配偶者控除等は、年末調整時に「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書」を使って申告します。
所得控除③:扶養控除
扶養控除は、所得が48万円(給与収入だけなら103万円)以下の扶養親族がいるときに適用される所得控除です。扶養親族の年齢や同居しているかどうかなどで控除額は異なります。扶養親族が多ければ控除額は高額で、大きな節税になります。
- 一般の扶養親族(16歳以上19歳未満、23歳以上70歳未満):38万円
- 特定扶養親族(19歳以上23歳未満):63万円
- 老人扶養親族(70歳以上の同居老親など):58万円
- 老人扶養親族(70歳以上の同居老親以外):48万円
扶養控除は、年末調整時に「扶養控除等申告書」を使って申告します。
所得控除④:社会保険料控除
社会保険料控除は、厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料(40歳以上)、雇用保険料を支払ったときに適用される所得控除です。控除額は保険料全額です。
給与天引きされた社会保険料だけでなく、家族の国民年金保険料を支払った場合なども所得控除できるので覚えておきましょう。
所得控除⑤:小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除は、対象となる共済制度の掛金を支払ったときに適用される所得控除です。控除額は支払った掛け金の全額、対象は次の共済制度です。
- 小規模企業共済
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)
- 自治体の心身障害者扶養共済
所得控除⑥:生命保険料控除、地震保険料控除
生命保険料控除は、生命保険や個人年金保険の保険料を支払ったときに適用される所得控除です。保険の種類や加入時期によって控除額(最大12万円)が異なります。
地震保険料控除は、地震保険の保険料を支払ったときに適用される所得控除です。年間保険料により最大5万円の控除が受けられます。
社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除は、年末調整時に「保険料控除申告書」を使って申告します。
所得控除⑦:医療費控除
医療費控除は、病院の診療費や薬代など1年間の医療費が10万円を超えたときに適用される所得控除です。控除額は支払った医療費のうち10万円を超える金額(上限200万円)です。
家族の医療費も対象となるため、家族分をまとめて申告するのがおすすめです。一般的に、家族がそれぞれ申告するより節税になります。
医療費控除の申告は年末調整で申告できないため、確定申告が必要です。マイナポータル(行政手続きのオンライン窓口)で医療費通知情報を取得できるようになり、スマホやパソコンを使って自宅で簡単に申告できるようになりました。
所得控除⑧:雑損控除
雑損控除とは、自然災害などによって生活に必要な資産に損害を受けたときに適用される所得控除です。台風や水害、火災、地震などの天災以外にも、盗難や横領などの人災によって損害を受けた場合にも適用されます。
控除額は、次のいずれか多い方の金額です。保険金が支払われた場合は、保険金額分を差し引いて控除額を計算します。控除を受けるには確定申告が必要です。
- (損害金額+災害等関連支出の金額)-(保険金等の額)-(総所得金額等)×10%
- (災害関連支出の金額)-(保険金等の額)-5万円
所得控除⑨:寄附金控除
寄附金控除は、所得税法で定めた所定の寄附をしたときに適用される所得控除です。国や地方公共団体、公益社団法人などへの寄附金が対象となります。
地方公共団体への寄附が「ふるさと納税」です。ふるさと納税も含めた寄附金控除の合計控除額は次の計算した金額のいずれか低い方から2,000円を差し引いた金額です。
- 1年間に支払った寄附金額
- その年の所得の40%相当額
雑損控除や寄附金控除は原則確定申告が必要ですが、ふるさと納税については確定申告不要の「ワンストップ特例制度」があります。
所得控除⑩:障害者控除など
①から⑨の所得控除以外に、障害者控除やひとり親控除、寡婦控除などがあります。
障害者控除は、所定の障害状態にある本人または扶養家族がいるときに適用されます。ひとり親控除や寡婦控除は、所得500万円以下の未婚で子どもや扶養親族がいる人などに適用されます。控除額は次の通りです。
- 障害者控除:障害の程度などによって27~75万円
- ひとり親控除:35万円
- 寡婦控除:27~35万円
障害者控除やひとり親控除、寡婦控除は、年末調整時に「扶養控除等申告書」を使って申告します。
所得控除以外の控除
これまで解説した所得控除以外にも、所得税や住民税を抑える税制上の仕組みがあります。主な仕組みを紹介します。
その他控除①:住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税)
一般的に住宅ローン減税と呼ばれる住宅借入金等特別控除は、所得控除ではなく税額控除の1つです。所得控除は所得から一定額を控除するのに対し、税額控除は税額から一定額を控除する仕組みです。
マイホームを新築したり増改築したとき、住宅ローンの年末残高の一定割合が所得税から控除されます。新築・増改築の時期や住宅の区分(認定長期優良住宅や認定低炭素住宅など)によって、控除額や控除期間などが異なります。
2022年1月から2023年12月までに入居した場合、控除率は住宅ローンの年末残高の0.7%、控除年数は13年です。
住宅借入金等特別控除は、初年度は確定申告が必要ですが2年目以降は年末調整で申告できます。
その他控除②:特定支出控除
特定支出控除とは、会社が従業員の自己負担経費と認めた支出が一定金額を超えた場合に適用される所得控除です。給与所得者にだけ適用される控除で、仕事の必要経費が高額になった場合、経済的な負担を軽減できます。
給与所得者が支払った転勤に伴う転居費や仕事に必要な資格取得費、図書費、衣服費などの費用が対象です。控除額は、給与所得控除額(給与収入によって55万円~195万円)の2分の1を超える額です
特定支出控除を受けるには、確定申告が必要です。
その他控除③:その他所得との損益通算
損益通算とは、損失が発生したとき利益から損失を差し引く仕組みのことです。損失を差し引くことによって、利益にかかる所得税などが安くなります。
例えば、株式投資で損をした場合、損失を差し引くことによって給与所得にかかる所得税などを減らせます。その他所得との損益通算には、確定申告が必要です。
会社員におすすの節税対策
これまで紹介した所得控除などを活用した会社員におすすめの節税対策を紹介します。
対策①:不動産投資
おすすめの節税対策の1つ目は、不動産投資です。不動産投資による損失と給与所得を損益通算することで、給与にかかる所得税を下げる方法です。
不動産投資が赤字になれば困ると考えるかもしれませんが、不動産投資では毎月の収支(キャッシュフロー)が黒字でも、建物の減価償却により赤字になるケースがあります。支出を伴わない減価償却という仕組みを活用した節税対策です。
対策②:iDeco(個人型確定拠出年金)
節税対策の2つ目は、iDeco(個人型確定拠出年金)の利用です。iDeCoは、国民の老後資金準備を支援するために国が設けた任意加入の私的年金制度です。
前述の通り支払った掛け金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になるだけでなく、運用益は非課税、年金受け取り時は公的年金等控除の対象となるなどの税制上の優遇措置があります。
節税しながら老後資金を準備できるおすすめの制度です。
対策③:NISA(小規模投資非課税制度)
節税対策の3つ目は、NISA(小規模投資非課税制度)の利用です。NISAは、国民の投資を促すために国が設けた制度で、投資で得た配当金や譲渡益は非課税です。通常20%かかる税金(所得税15%、住民税5%)を再投資に回せるため効率的な資産運用が期待できます。
一般NISAとつみたてNISA、ジュニアNISAの3種類があり、掛け金の上限や非課税期間は種類によって異なります。
対策④:ふるさと納税
節税対策の4つ目は、ふるさと納税の利用です。前述の通り、ふるさと納税すると寄附金額などから2,000円を差し引いた金額が寄附金控除の対象(所得税)となります。
さらに、地方税では寄附金額に近い金額(所得や寄附金額による)が税額控除されたり、地方公共団体からの返礼品をもらえたりするため利用者が増えています。
対策⑤:副業所得は20万円以内
節税対策の5つ目は、ちょっとした副業をしている人は副業収入を20万円以内に抑えることです。
本来、副業収入があれば確定申告して税金を支払わなければなりませんが、副業所得(収入から経費を差し引いた金額)が20万円以内なら確定申告は不要です。
この記事の内容の他にも、「お金が貯まる29の知恵」を1冊にまとめました。
今ならLINE登録するだけで、無料でプレゼントしています。
この機会に是非一度LINE登録して、特典を今スグ受け取ってください。
個人事業主の節税対策は「経費」の申告
個人事業主の節税には、所得控除だけでなく事業の経費(または必要経費)も重要です。経費の仕組みや種類について解説します。
経費を漏れなく申告して課税対象額を抑える
個人事業主の事業所得には、給与所得控除が適用されません。会社員は仕事に要する経費を実態とは関係なく給与所得を算出(給与所得控除を適用)するのに対し、事業主は実際に支払った費用を経費として事業所得を算出します。
確定申告で経費を申告しないと経費分に対しても課税されるため、経費を正しく理解し漏れなく申告することが個人事業主の節税対策になります。
主な経費の種類
主な経費の種類を紹介します。
経費①:事業にかかわる費用
事業にかかわる費用はすべて、経費として事業所得から差し引けます。具体的には、人件費や原材料費、事務所の家賃、通信費、作業用・事務用の備品代なども該当します。
また、事業用の借入金の利息も経費に計上できます。ただし、借入金の元本は計上できません。
経費②:消費税や固定資産税
事業にかかる税金も経費にできます。具体的には、消費税や固定資産税、登録免許税、事業税、自動車税などです。固定資産税や自動車税は、事業用の建物や自動車に対するものです。
ただし、所得税や住民税は経費にできません。
経費③:減価償却費
減価償却費とは、事業で使用する固定資産の費用を一定年数に分けて経費に計上する会計処理方法(または1年あたりの経費)のことです。個人事業主の法定償却方法である定額法では、年月の経過とともに価値が減少する資産の耐用年数を一律に定め、取得価額を分割して経費計上します。
例えば、100万円で購入した資産の耐用年数が10年の場合、毎年10万円を減価償却費として経費計上します。減価償却の対象となる資産は、建物や附属の設備、機械装置、自動車などです。減価償却の対象となる資産や耐用年数は、国税庁のホームページで確認できます。
ただし、取得価額が10万円未満のものや使用可能期間が1年未満のものは、費用全額を取得した年の経費に計上できます。また、年月によって資産価値が落ちない土地の費用は減価償却できません。
経費④:事業と家庭で共用する光熱費や家賃など
自宅を事務所としている場合、光熱費や家賃など事業と家庭で共用する費用が発生します。このようなケースでは、事業と家庭での使用割合で費用を分担します。
1ヶ月の光熱費が5万円で事業での使用が6割、家庭での使用が4割の場合、3万円(=5万円×6割)を事業の費用として経費計上します。
個人事業主におすすめの節税対策
最後に、個人事業主におすすめの節税対策を紹介します。
対策①:青色申告
おすすめの節税対策の1つ目は、確定申告で青色申告を選択することです。個人事業主は、白色申告または青色申告を選択して確定申告します。申告方法によって会計処理方法などが異なり、青色申告を選択すると、税制上の優遇措置が受けられます。
主な優遇措置は次の通りです。
- 青色申告特別控除(最大65万円)が受けられる
- 同居親族(一定要件あり)などに支払った給与を経費にできる
- 事業の損失を翌年以後3年間に繰り越して所得控除できる など
青色申告は会計処理が複雑になるというデメリットもありますが、青色申告特別控除による節税効果は魅力です。
対策②:事業の法人化
節税対策の2つ目は、事業の利益が大きければ法人化することです。法人化すると所得税ではなく法人税が課されますが、所得によっては法人の方が支払う税金が少なくなることがあるためです。また、法人化すれば、経費にできる項目が増えます。
ただし、法人化するときに費用や手間がかかる上、法人化後は会計処理や税務処理などが複雑になります。メリットとデメリットを慎重に検討した上で、法人化するかどうかを決めましょう。
対策③:小規模企業共済
節税対策の3つ目は、中小企業基盤整備機構の運営する小規模企業共済に加入することです。小規模企業共済は、小規模企業の経営者や個人事業主などのための退職金制度です。
前述の通り、掛け金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となり節税効果が期待できます。会社員と異なり会社から退職金がもらえない個人事業主にとっては、退職金の代わりになります。また、加入者は低金利の貸付制度を利用できるなどのメリットもあります。
対策④:経営セーフティ共済
節税対策の4つ目は、中小企業基盤整備機構の運営する経営セーフティ共済に加入することです。経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産時に連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
掛け金全額が経費計上できて節税になります。また、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れできるなどのメリットもあります。
まとめ:所得控除や経費の仕組みを理解し上手に節税しよう
節税のポイントは、会社員は所得控除、個人事業主は所得控除と経費を漏れなく申告することです。
所得控除や経費は種類が多いため、慣れるまでは少し難しく感じるかもしれません。しかし、年末調整や確定申告は毎年必ず必要になるため、所得控除や経費の仕組みを理解して上手に節税しましょう。
この記事で紹介した会社員や個人事業主におすすめの節税対策は、一般的に広く活用されている方法や制度です。利用できるものがないかを一度検討してみましょう。